2006年10月05日02時07分掲載  無料記事
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時事英語一口メモ

【13】安倍首相のキャッチ22

ブログ版 
 
 靖国神社を参拝するのかしないのか、あいまいにしたまま来週、中国と韓国を訪問する安倍首相の置かれた立場についてニューヨーク・タイムズ紙は、catch-22に直面していると伝えている。(鳥居英晴) 
 
 東京発の10月3日付のマーチン・ファッケラー記者の記事は、同志社大学の村田晃嗣教授の見方を引用している。 
 
 “Mr. Abe wants a quick diplomatic breakthrough,” said Koji Murata, a professor of international relations at Doshisha University in Kyoto. “He wants to show that Japan is not just stubbornly refusing to talk with the rest of Asia.” 
 
 (安倍氏は早急な外交的打開を求めている。日本がアジアとの対話を頑迷に拒否しているのではないことを示したい) 
 
 Either stance on the issue promises trouble for Mr. Abe. Opposing shrine visits would alienate the conservative voters who helped put him in office, but supporting shrine visits would undo much of what he hopes to accomplish in Seoul and Beijing next week. 
 
 (靖国問題でどちらの立場をとるにしても、安倍氏にとって問題になる。参拝をしないと言えば、支持層である保守的有権者の離反を招くが、参拝すると言えば、来週、ソウルと北京で果たそうとしていることの多くを台無しにしてしまう) 
 
 “Mr. Abe faces a Catch-22,” said Mr. Murata of Doshisha University. “Mr. Abe cannot promise that he will worship at Yasukuni, and he cannot promise that he will not.” 
 
 「安倍氏はキャッチ22に直面している。安倍氏は靖国を参拝するとも約束できないし、しないとも約束できない」 
 
 “a catch-22 situation”という表現は、英文記事でしばしばお目にかかる。American Heritage Dictionary of Idioms は、catch-22をA no-win dilemma or paradox, similar to damned if I do, damned if I don't.(どうしてもうまくいかないジレンマないしパラドックス。あちらを立てればこちらが立たずに似ている)と説明している。 
 
 この言葉の起源は、米国人作家、ジョーゼフ・ヘラーの小説「Catch-22」(1961年)からきている。 
 
 舞台は第2次世界大戦末期のイタリアのピアノーサ島。主人公のヨッサリアン大尉はここに基地がある米空軍部隊に所属する。彼は願いは生きのびることであった。狂気であれば、出撃を免除される規定があった。彼は狂気を装い、何とか出撃を免れようとする。 
 
 しかし軍規22項にはキャッチ(落とし穴)があった。現実的にしてかつ目前の危険を知った上で自己の安全をはかるのは合理的な精神の働きである、と規定していた。出撃免除を受けるには、願いを出さなければならない。ところが、願い出たとたんに、狂人ではなくなり、出撃に参加しなくてはならなくなる。 
 
 反対に、出撃したいと思うパイロットは正気でないことを示しており、免除されるべきだが、免除されるためには、願いを出さなくてはならない。当然そうしたパイロットは願いを出さないし、仮に出せば、正気とされる。 
 
 この一見非合理な状況は、合理的な基礎を持っている。 
 
 この小説の特徴は時間構成が解体されていて、読んでいて混乱する。「キャッチ=22」(ハヤカワ文庫)の訳者によると、この混乱は著者が意図的にしたもので、戦争が代表する現代資本主義社会の社会的不条理がいかに狂気じみたものであるかを読者に痛感させる狙いがあるという。 
 
 主人公のヨッサリアンはこのジレンマから抜け出す解決策として、脱走し、スウェーデンに逃げる。安倍首相は脱走もできず、ジレンマを抜け出すことができないようだ。 


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