2006年10月14日11時32分掲載  無料記事
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日中・広報文化交流最前線

減少する中国での日本映画上映 井出敬二(在中国日本大使館広報文化センター長)

●中国人が懐かしむ日本映画 
 
 中国人と文化の話をすると、決まって言われるのは、1980年代の日本映画を懐かしむ話である。映画では「君よ憤怒の河を渡れ」、俳優では高倉健、栗原小巻、中野良子、山口百恵といった面々は今なお圧倒的知名度と人気を誇っている。 
 劉文兵著「中国10億人の日本映画熱愛史〜高倉健、山口百恵からキムタク、アニメまで」(集英社新書、2006年8月刊)は、このあたりの事情に詳しい。同書によれば、1978年から91年にかけて中国で一般上映された日本映画は合計81本であり、毎年平均5・7本が公開されていた。当時、映画は中国での数少ない娯楽の一つとして大きな人気があった。 
 しかし、同書も指摘する通り、最近は、日本映画が中国国内の一般映画館で上映されることは少ない。筆者の知る限り、昨年1本(「盲導犬クイール」)、本年1本(「いぬのえいが」)のみである。 
 
 筆者は、映画を所管している中国の役所(ラジオ映画テレビ総局)、映画輸入・配給権限を持つ中国の映画関連会社、そして日本の映画関係者と、日本映画の輸入が少ない問題についていつも意見交換している。中国政府は、外国映画の輸入本数は毎年50本程度と限っている。これはWTO関連規定に明らかに違反するということでは必ずしもないようだが、貿易の自由化、そして文化交流を通じる相互理解増進という観点からの配慮を期待したい。 
 
●中国の映画事情〜その今昔〜 
 
 最近、ラジオ映画テレビ総局関係者から中国の映画事情を教えて貰ったので以下の通り紹介したい。中国国内の映画制作会社数と制作映画数も増えており、映画館に足を運ぶ観客数も増えてはいるが、映画供給増に見合うだけの需要増があるのかはよく分からない面がある。外国映画の輸入制限は引き続きあり、保護された環境の中で、興行収入は増えている由である。 
 
─中国の映画の最盛期は1970年代末〜80年代前半。当時は年間で、のべ290億人(!)が映画を見ていた(老人や赤ん坊も含めた単純平均でも、一人当たり年20数本!)。 
─中国国内での映画制作本数:2002年迄は年100本位。その後毎年50本ずつ増え、現在では年300本位。その全てが一般映画館で上映される訳ではなく、テレビで放送されたり、DVDで売られたりするものもある。 
─映画制作本数が増えた理由は、2002年〜03年に映画制作に関する改革が行われ、中国の国営映画会社のみならず、民間映画会社も映画を制作し易い環境となった為の由。 
─中国国内で映画を制作している会社は、以前は30社程度であったが、現在は100社に増えた。今の映画会社の内の約7割が民間会社である。 
 
─中国の一般映画上映施設の数は、スクリーンの数で言えば、毎年約3百増えており、現在は都市部で約3千スクリーンある。所謂「シネコン」(映画上映複合施設)が増えている。それ以外に農村部で無料で映画上映している施設もある。 
─中国国内の映画興行収入は毎年30%のペースで増えている。 
(別の映画関係者によれば、中国の習慣として、観客の動員数で興行成績を計算するではなく、チケット販売の売り上げで計算されている由である。公式発表によれば、2004年中国全国の映画館収入は15億人民元(200億日本円超)。2005年に、20・2億元(約300億円)に増加。ベスト3は、上海2・5億元、広東省2・4億元、北京2・2億元。) 
 
─以上のように中国映画は隆盛している面もある。しかし、それでも映画の最盛期(上述の通りの70年代〜80年代前半)には及ばない。映画を見るという娯楽以外に、多種多様な娯楽が出てきており、日本同様、映画産業は苦戦している。 
─映画輸入枠は年間50本程度。内、20本が「歩合」により配給収入を外国映画会社に与える。これはハリウッドなどの高額な映画について行われる。残り30本は買い取りである(「フラット」)。 
─外国映画の輸入・配給は誰でもできる訳ではない。映画を輸入できる権限のある企業は、中国映画集団であり、また同社以外にも華夏映画配給会社が輸入映画を配給することができる。 
 
●映像媒体の多様化に対応した日本文化の紹介を 
 
 日本を紹介する上で、映画は多くの情報量と日本人の感性を伝えることができる素晴らしい媒体である。現在は、70年代末〜80年代のように映画館で映画を上映して、中国人に見に来て貰うという経路は、当時のような圧倒的影響力がある訳ではない。テレビ、DVD、インターネットなどを通じて、映像を見る経路が多種多様になり、映画館に足を運ぶ人数も減ったことがある。 
 中国での映画館入場券は50元前後(日本円で750円相当)であり、これは中国の所得水準(中国人一人当たり年平均GDPは約1700米ドル(20万円弱))に鑑みれば割高である。海賊版のDVDを10元(150円相当)で購入し、家でDVDを家族や友達と見る方が安上がりである。 
 一般映画館での日本映画上映の本数は、上述の通り、最近は年1本あるか無いかであるが、日中合作の映画が上映されることはある。北京市内でも地方でもビデオ・DVD屋に行くと日本の多様な映画、ドラマ、アニメのビデオ、DVDが売られている。海賊版も多いようだが、中国当局は取り締まりを強化していると言っている。 
 
 いずれにしても、このような状況の変化を念頭に置いて、多種多様な経路を通じて、中国の一般の人達が日本の文化に触れて貰えるような環境を造っていかないといけないと改めて感じる。(つづく) 
 
*筆者注:2007年3月に映画関係者から聞いたデータを以下の通り紹介する: 
─2006年の中国の映画館の入場者数は8千万人。スクリーンの数は3千。 
(→8千万人÷3千スクリーン=2万6666人。つまり一スクリーン当たりで年間2万6666人が映画を見ている。365で割ると、一日当たり73人。) 
(因みに、日本の映画館の入場者数は06年で1億6千万人、興行収入は約2千億円) 
─中国が外国と映画製作協力をする場合、その形態には、「共同製作」と「協力製作」の二つがある。前者は、資金、脚本製作、俳優出演全てで外国の参加がある。後者は、外国が中国国内でロケをするもの。前者は輸入制限の対象外であるが、後者は輸入制限の対象となる。 
─中国はアニメ映画を、2005年8本、06年10本製作した。 
─中国のテレビアニメの製作分量は、2005年4万分(666時間)分から06年8万分(1333時間)分に倍増した。 
 
 
(本稿中の意見は、筆者の個人的意見であり、筆者の所属する組織の意見を代表するものではない。) 


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