2006年10月15日10時15分掲載  無料記事
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高齢者の運転は危険か 過去には96歳のドライバーの事故も

 米カリフォルニア州サンタモノカで3年前、高齢者が運転する車が、青空市場の会場に突入、10人が死亡、70人以上が負傷する事故があった。この高齢者は現在89歳でこの事故で訴追され裁判が継続中だ。この事故を契機に、高齢者の運転に対する見直しの機運が高まったが、高齢者への運転規制は、年齢による差別になりかねず、進展していないのが実情だ。(ベリタ通信=江田信一郎) 
 
 2003年7月、当時86歳だったジョージ・ウエラー被告は、車の乗り入れが規制されていた野菜を売る特設市場に突っ込んだ。買い物に来ていた客ら多数を死傷させた。ウエラー被告は車を停止しようとしたが、パニックになり、ブレーキとアクセルを踏み間違えたと供述した。 
 
 同被告は事故を起こした直後、警察に対し「ウープス(しまった)」と、事故の重大さを認識していないかのような発言をした。検察はその後、故意による殺人の罪で立件し、裁判では、被告は車を止めることができたのに、無責任にも回避操作をとらなかったと主張した。 
 
 この事故は、高齢者の運転をめぐり大きな波紋を広げた。要点は、高齢者が何歳になっても運転免許証を持つのが許されるのかとの議論だった。 
 
 高齢者が交通事故を起こすと、時折大きなニュースになる。しかし、統計上は高齢者だからといって、事故を起こす確率が高いとはいえないようだ。 
 
 米紙ロサンゼルス・タイムズによると、米道路交通安全局(NHTSA)の昨年の統計では、65歳以上の高齢者のドライバーは、全人口の12%を占めているが、負傷事故に巻き込まれたのは7%に過ぎない。同局では、高齢者が他のドライバーに比べ、危険だということはないと話している。 
 
 一方、カリフォルニア州では、ウエラー被告による事故の5年前にも、高齢者による人身事故が起きていた。1998年11月、サンタモノカの路上で、ブランディ・ミトックさん(当時15歳)が道路を横断中、96歳の男性の運転する車にはねられ、死亡した。 
 
 原因は前方不注意。この男性は1918年から路上試験を免除されていたという。事故の後、ブランディさんの両親が、政治活動団体の協力を得て、高齢者の運転規制の法制化を訴えた。高齢者は運転技能が衰えるとの前提で、能力の低下が感知できる路上試験の義務付けが狙いだった。 
 
 両親が提案した法案は、75歳以上の高齢者のドライバーを対象にしていた。しかし、年齢上の差別につながるとの配慮から、結局法制化は今でも実現していない。 
 
 米国は車社会であり、特にカリフォルニア州では、公共輸送機関が発達しておらず、車がなければ移動に支障をきたす。また車は、自由に空間移動できることから、個人主義の色彩が強い米国人にとっては、「自主独立」を象徴する乗り物である。 
 
 このため行政側が、高齢者から車のキーを取り上げる行為には消極的になっている。しかし、ウエラー被告が起こした事故の衝撃は大きく、カリフォルニア州の陸運局でも、車の運転に適しない無謀運転者の発見の方策を探っている。 
 
 これは特定の年齢層をターゲットにしたものではないが、コンピューターを使った適性検査を来年から試験的に加えるなど、車の運転に支障を持ちそうなドライバーの発見に向け、知恵を絞っている。 


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