2006年11月07日22時42分掲載  無料記事
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リバーベンド日記

サダム死刑判決はブッシュ最後の切り札か―米中間選挙を前に

2006年11月5日(日) 
 
なにもかもだめになったら… 
 
 …独裁者を処刑せよ。すごく単純な話。アメリカ兵が何十人と束になって殺されているならば、占領した国がもっと小さな国々に分裂するおそれがあるならば、私兵集団と暗殺部隊が通りをうろつき、宗教指導者たちの集団が権力を握っているならば─独裁者を処刑せよ。 
 
 裁判の初日から、だれもがこの判決を予想していた。最初の裁判官でいけば、イラク国民が弁明を聞いて真相を知ることができるような、まともな審理が行われるかもしれないと、みんなちょっと思ったのだけど。そんな考えは、検察側が最初に出してきた偽の証人で消え失せた。そのあとに起きたことは、あまりにもばかばかしい。今でも信じられないくらい。 
 
 弁護人や被告人が立ち上がって話し始めようとすると、決まって音声が突然聞こえなくなってしまった。私たちに証人の声は聞こえたけれど、その姿を見ることはできなかった─証人はカーテンの陰に隠れ、声も変えられていた。ドゥジャイル事件で亡くなったはずの人たちが元気に生き返って証人として現れた。 
 
 裁判官が次から次へと換えられた。どの裁判官も公平すぎるとみなされたからだ。彼らは被告人にただちに刑を宣告しなかった(メディア対策のためだけだとしてもね)。いちばんの見ものは最後に連れてこられた裁判官。こいつは、チャラビとしか張り合えないほどの名声の持ち主だった。有名な詐欺師かつ殺人者で、政治的糾弾を逃れるためではなく、父親が経営するレストランで盗みを働いたあと、父親の激怒を逃れようとして、イランへ逃亡していたのだ。 
 
 だから私たちはみんな結果を前もって知っていたってわけ(マリキなんて、判決の24時間前にテレビに出て、国民に対して「喜び過ぎないように」って言っていた)。現時点で私が驚いているのは、今のイラク政府があまりにも愚かだってこと。タイミングがばかばかしい。米中間選挙の直前よ?ブッシュにとってなんて都合のいいことでしょう。現在のイラクは、侵攻と占領開始以来最悪の状態。今となっては2003年4月がハネムーン月のように思える。今こそサダム処刑にふさわしい時ってわけね? 
 
 すごく心配だ。これがブッシュの最後の切り札なのだ。選挙がやってきて過ぎ去り、過激主義者と盗人たちが権力を握った(いや、いや、ワシントンのことじゃなくて、バグダードのことを言ってるのよ)。イラク人の血の流れる川で溺れてしまったかのような憲法は、選挙のあとは忘れられてしまった。操り人形のだれかが国をばらばらにしたいと思ったときだけ、憲法は掘り起こされる。復興は、来世で望むことになってしまった。私たちは、もはやビルも橋も望んでいない。分割されないイラクと安全があれば、十分すぎるほど。もしブッシュが「独裁者を処刑せよ」カードを使う必要があるのなら、事態は想像以上に悪化しているに違いない。 
 
 この数十年、イラクの状況が今ほど悪いことはなかった。占領は失敗だ。親米、親イランのイラク政府はどれもこれも失敗した。新しいイラク軍は救いがたい冗談となっている。今こそサッダームを殉教者にすべき時ってわけね? なにもかもあまりにひどいので、占領を支持するイラク人でさえ、初期のころの「ウィー ラブ アメリカ」という熱狂を翻しはじめている。ライス・クッバ(別名ナマズ氏。大きな口をしているのと、いつも馬鹿みたいに見えるから)は、最近BBCに登場し、これは正義の始まりにすぎない、現在人びとの殺害に関与している者たちもまた、法の裁きを受けねばならないと言った。彼は、自分が戦争と占領の支持者だったことや、残忍な親米政府の一員だったことを忘れているらしい。けれども歴史はクッバ氏を忘れはしない。 
 
 イラクでは判決に反対したり賛成したりするデモが起きている。サッダーム支持のデモはイラク軍に攻撃されている。今のイラクのメディアがどんなに自由か、次のようなことが示している。サッダーム支持のデモを取り上げたテレビ放送は閉鎖させられた。イラク治安部隊が突然襲撃したのだ。新生イラクにようこそ。これは、サラヒッディン放送とザウラ放送からの映像。(以下サイトではそれぞれの局のテレビの放映画面が挿入されています─訳者) 
 
 ザウラ放送。字幕には「バグダード ザウラ衛星放送は政府の命令により放映を停止しました」とある。 
 
 サラヒッディンの緑色のスクリーンが突然現れた。「サラヒッディン衛星放送」 
 
 シャルキーヤ放送が次のようなニュース速報を伝えた。サラヒッディン放送とザウラ放送が閉鎖されました。治安部隊が放送局を襲撃しました。 
 
 これはあの男ひとりの問題じゃない─大統領たちは職については去っていく。政府も成立しては消えていく。これは、国全体が、そして、イラク国内や国外にいるすべてのイラク人が、アメリカの政治に翻弄されていると感じることへのいらだちだ。思いのままに前に後ろに動かされるチェスの駒にされてしまったと感じることへの憤激だ。こんなにも国民が必要としていることが見えず、気にもかけない政府を持っていることへの腹立ちだ。政府の連中は、気にかけているふりをすることすら必要と感じていないかのようだ。そして死。何千人もの死者と死に瀕する人たち。ブッシュがのうのうと座ってにやにや笑い、グリーンゾーンの外側にいるイラク人が一人残らず負けつつあるこの国における進歩だの、勝利だのと嘘を並べているときに。 
 
 もう一度言おう・・・なにもかも、タイミングは完璧だ。米中間選挙の2日前。もしこれでもわからないのなら、悪いけど、あなたは馬鹿だ。さあ、次の演説でブッシュは何回この判決を「成功」と言い立てるでしょうね? 
 
 最後に一言。亡くなった米兵の家族たちが「息子たち、娘たちが何のために命を捧げたのか」を知るためにイラク北部を訪れるというのをどこかで読んだところ。それが訪問の目的なら、じゃあ、「紳士淑女のみなさま─右手に見えますのは、イラク石油省でございます。左手にはドーリー精油所がございます…みなさま、このギフトバッグをお受け取りください。中には、アッ=サイード・ムクタダ・アッ=サドル(彼に末永き生命と繁栄がありますように)の3×3インチのカラーポスター、シスターニー師のTシャツ、南イラクイスラム共和国を添えて書き直したイランの正確な地図が入っております。また…ちょっと、あんた、ほら─後ろにいる女─そこに見えているのは髪の毛か? きちんと覆いなさい、さもなければ家に帰れ」 
 
 そう、彼らはこのために命を捧げたのよ。 
 
 午後8時25分 リバー 
 
(翻訳:リバーベンド・プロジェクト:いとう みよし) 
この記事は、TUPとリバーベンド・プロジェクトの連携によるものです)。 
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