2006年11月08日11時07分掲載  無料記事
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娘に割礼した父親に禁固10年 エチオピアの風習を認めず

 アフリカのエチオピア出身の男性が、自分の娘に、古くからアフリカで伝わる風習である「女性割礼」をしていたとして、米ジョージア州の裁判所で、禁固10年の有罪判決を受けた。米国で割礼行為で罪に問われた初のケースという。世界的な人道援助団体「ケア」などが、女性の人権を無視する割礼行為の撲滅を呼びかけているが、風習は依然根強く残っているのが実情のようだ。(ベリタ通信=江口惇) 
 
 この男性はエチオピアから米国に移民してきたハリド・アデム被告(30)。米メディアによると、2001年に当時2歳だった娘に、アトランタの自宅アパートではさみを使って、母親が知らないうちに、女性器の一部を切り取るなど割礼を行なった。その後、女性器を縫い合わたりしたともいわれる。女性の母親は南アフリカの出身で、同国では女性割礼が違法だという。 
 
 割礼から1年後に医師が少女の性器に傷跡があるのを見つけ、割礼が行なわれたのが分かった。夫婦は03年に離婚し、現在7歳になった少女の親権をめぐり係争中。 
 
 米連邦法は女性割礼を禁止しているが、ジョージア州には、女性割礼を禁止する法律はなかった。この事件の後に、母親の奔走で法律が作られたという。アデム被告の行為は、この法律成立前のケースであるため、子どもへの残虐行為の罪などに問われた。 
 
 コアによると、エチオピアでは少女の7割が割礼を受けているという。年齢は4歳から12歳までの間に行なわれる。その目的は、女性の純潔を守るのが狙いとされる。 
 
 しかし、医師などではない一般の者が行なうため、衛生上問題があり、死亡する事態も起きている。また長じて結婚に支障が出ることも指摘されている。 
 
▼判事は事件の特異性に配慮 
 
 米メディアによると、アフリカの28カ国を含め世界中で1億人以上の女性が割礼を受けているという。アフリカから欧米諸国など、文化的に異なる国々への移民者が増える中で、かなり以前から欧州などで、女性割礼が社会問題になっている。 
 
 1日に陪審団が、アデム被告に対し、有罪の評決を下したのを受け、リチャード・ワインガーデン判事が同日、禁固10年の刑を宣告した。最高で禁固40年の刑が下される可能性があったが、かなり文化の違いを意識し、刑期を減じた判決になった。 
 
 判事は、「この事件は、どの定義にもあてはまらない犯罪だ」と述べ、女性割礼の裁判の特異性を指摘。その上で「被告が欲や、怒りから犯罪を犯したとは思えない」と述べ、情状酌量したことを示唆した。 
 
 アデム被告は、終始涙ぐんでいたが、判決後、「私は娘を愛している。常に娘に最良になることを祈っている」と述べ、無罪であることを強調した。弁護士によると、実際に割礼を行なったのは、少女の親類の者だという。 
 
 これに対し、検察側は共犯者がいるとしても、アデム被告が事件に関与したことは間違いないとしている。被告・弁護側は、判決を不服として控訴する方針。 
 
 裁判では、少女がビデオテープの中で証言し、父親が「自分の性器を切り取った」と証言。また母親も「これは子どもや女性の権利への侵害だ。娘は前と同じには決してならない」と厳しい量刑を求めた。女性団体グループも支援活動をした。 


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