2006年11月18日22時01分掲載
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二極化社会を問う
過労死促進法(日本版エグゼンプション)で11兆円を横取りする経営者
もっともらしいカタカナで言われるとついごまかされてしまう。“日本版エグゼンプション”もそのひとつである。厚生労働省が労働政策審議会労働条件分科会に諮問し、現在審議が進んでいる「労働時間規制適用除外のための労働時間法制」のことだ。「過労死促進法」あるいは「サービス残業公認法」と言い換えると、その本質が見えてくる。(大野和興)
労働者の労働時間は労働基準法で1日8時間、週40時間内と定められ、これを超過する場合は労働者と協定を結んだ上で割増賃金を残業代として払わなければならない。現在審議中の労働時間法制はこの規定を適用除外(エグゼンプション)し、何時間でも残業代なしで働かせることができるようにしようというもの。米国で法制化されている「ホワイトカラー・エグゼンプション」がモデルだ。小泉構造改革の流れの中で議論され、いよいよ法制化に向け労働政策審議会で議論が始まった。
厚生労働省は11月10日に開かれた労働政策審議会労働条件分科会に、法制化に向け論点整理したものを「素案」という形で提出した。それによると、この制度は「自由度の高い働き方に相応しい制度」であるとして、対象者を以下のように想定している。
1、労働時間では成果を適切に評価できない業務に従事している。
2、業務上の重要な権限及び責任を相当程度伴う地位にある。
3、業務遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしない。
4、年収が相当程度高い。
1,2,3はきわめてあいまいで、どうにでも解釈できる余地が大きく、「適用除外」の範囲がどんどん広がる恐れがある。「4」の年収についても、審議会でが経営者側委員から、「働き方で区分すべきで年収は必要ない。仮に年収で区分するなら400万円程度にすべきだ」などといった意見が出された。年収400万円というのは、正規雇用の中堅労働者の水準だろう。この400万円という数字は日本経団連が2005年6月に発表した提言に盛り込まれている。
この制度が実際に適用されるとどういうことが起こるのか。労働運動総合研究所(代表理事:黒川俊雄・戸木田嘉久氏)が「年収400万円以上のホワイトカラー」を基準として推計した数字がある(http://www.yuiyuidori.net/soken/)。
それによると、労働時間規制の適用除外とされている管理監督者を除外した対象者は1013万人。彼らが実際に行っている残業を金額に直すと11兆5851億円になる。これは1人あたりの年平均額にすると、114万3965円。これだけの金額が経営者に「横取り」されると同研究所報告は述べている。
10月24日には過労死した労働者の遺族やうつ病などで健康を害した労働者ら20人が、厚生労働省や連合(高木剛会長)に「私たちの悲しみ苦しみを二度と繰り返して欲しくない」と日本版エグゼンプション反対の申し入れをした。申し入れ書は長時間労働の危険性や労働現場の実態を訴え、制度の導入で違法な労働状態が合法化される危険性を指摘している。
厚生労働省は審議会の報告を12月末までに得て、来年2月には法案を国会に提出する意向だ。こうした動きに対し、東京ユニオンなど小さな労働組合や労働弁護士、個人による「共同アピール運動~過労死促進法に反対する~」(http://www.jex-no.org/)やブログ「日本版エグゼンプションは死を招く」(http://blog.goo.ne.jp/exenpsion06/)などによる地道な反対運動が始まっている。
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