2006年11月24日13時43分掲載
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常時監視の目におびえる国民 軍政下のビルマをアルジャジーラがルポ
カタールの衛星テレビ、アルジャジーラの英語版ニュースサイトは22日、軍政下のビルマ(ミャンマー)の現地ルポを伝えた。ダール・マククルッデン・クアラルンプール支局長は、軍政の厳しい報道規制のため正確で公正な取材は不可能だったとしながらも、日々監視の目に脅やかされている人びとの心のうちなどを拾い上げている。軟禁中の民主化運動指導者アウンサンスーチーの自宅の撮影も、当局の目をかいくぐり成功した。同記者は滞在数日で被害妄想になったと述べ、「わたしたちは出国することで解放されるが、ミャンマーの人びとは祖国を離れないかぎり変わらぬ状況のなかで暮らさざるをえない」と結んでいる。(ベリタ通信)
マククルッデン記者によると、軍政は当初、3人からなる取材チームの要望を受け入れ、一般市民や希望する場所への取材を認めてくれそうに見えた。これは軍政内部のハト派の意向らしく、彼らは外部世界との関係を望んでいる。ところが数日後、取材チームにつく広報担当者は取材日程の提出を求めるようになった。外国のジャーナリストを警戒する、軍政の自主独立派が巻き返しに出たようだ。
アウンサンスーチー邸の撮影を最優先取材リストにあげた。首都ヤンゴンの彼女の家が面した通りは、一日12時間、午前6時から午後6時まで車の通行が認められているが、銃をもった兵士がパトロールし通りの両端にはチェックポイントが設けられている。もう一ヶ所、多数の政治犯が収容されているインセイン刑務所の建物の撮影も加えた。しかしいずれも、「国家の微妙な問題」との理由で却下された。
だが滞在最終日の早朝、取材陣のヴェロニカ・ペドロサが密かにホテルを抜け出し、小型ビデオカメラで朝がすみのかかるスーチー邸の撮影に成功した。アルジャジーラのサイトに掲載された写真を見ると、門の上には、朱色に黄色の「闘う孔雀」をあしらった旗が3枚掲げられている。彼女の率いる国民民主連盟(NLD)の党旗だ。
市街の撮影で、ある建物にカメラを向けると、広報担当者がカメラの前に立ちはだかった。あとでわかったところでは、NLDの本部が置かれていた建物で、現在は閉鎖されている。
軍政の大臣との会見は土壇場で中止になったが、首都機能を移転中のピンマナの取材は、外国のジャーナリストとして初めての許可が与えられた。新しい道路は建設現場の泥にまみれていた。
取材の間中、取材チームの仕事を手伝ってくれるビルマ人から、取材を申し込んだ外国人ビジネスマンの窓口担当者にいたるまで、あらゆる人が陰に陽に示される当局の威嚇におびえて口を開こうとしなかった。ある外交官は広報担当者の面前で、「社会のあらゆる階層の人たちすべてが、びくびくしている」とアルジャジーラに語った。
「ミャンマーでもっとも有名な人の名前は誰か」との質問に、あるビルマ人は心得顔でうなずいた。だが具体的な名前は挙げようとしない。「あなたはご存知のはずです」と言うだけ。人々はアウンサンスーチーのことを「ザ・レディー(the Lady)」とだけ呼び、名前は示さない。誰が禁じたわけでもないが、人びとはそれを口にすることの代償を知っているからだ。どこで聞き耳を立てていて、当局に密告するものがいないとは限らない。
そのような状況下でも、危険をかえりみず立ち上がろうとしている勇気ある人びとの何人かにもアルジャジーラは会うことができた。
街中を秘密警察や鎮圧部隊のメンバーが徘徊しているわけではない。ではなぜ、ビルマの人びとは軍政反対のスローガンを叫ぶことができないのか。マククルッデン記者は「1998年の民主化運動に対する弾圧が人びとの記憶にいまだに生々しく残っている」ためだと見ている。
この年の9月、民主化を求めて首都をはじめ全土で立ち上がった非武装の国民に対し、軍は無差別の発砲を繰り返し、女性や子ども、僧侶までふくめた1000人以上を虐殺した。混乱収拾を大義名分に権力を掌握した軍事政権、国家法秩序回復評議会(SLORC、現・国家平和発展評議会=SPDC)は、1990年に複数選挙制による総選挙を実施し、その結果にもとづいて民生移管すると公約した。選挙ではNLDが議席の8割以上を獲得する圧勝をおさめたが、軍政は公約をホゴにし、内外の批判にもかかわらず現在に至るまで独裁権力の座に居座りつづけている。
*アルジャジーラの原文
Reporting from Myanmar
http://english.aljazeera.net/NR/EXERES/69B9AD9E-B6E0-4A67-8288-2A0E7CBAFB9F.htm
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