2006年11月25日10時29分掲載  無料記事
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インドネシアが「宗教名」記入義務制を存続へ 民主化に逆行、差別助長と反発の声

  インドネシアの民主化が一歩後退しそうな気配だ。1998年5月に崩壊した旧スハルト強権政治の象徴といわれた、住民登録証(身分証)への「宗教名」記入義務が、存続される見通しになったからだ。インドネシアはイスラム教を国教にしてはいないが、同教徒数は世界最大。宗教名記入は、イスラム教徒以外にとっては、“踏み絵”のような意味を持ち、差別を助長するとの懸念の声も上がっている。(ベリタ通信=都葉郁夫) 
 
 ユドヨノ政権は、民主改革に取り組んでいるが、同国会の特別委員会が旧政権の非民主性を象徴する“遺物”のひとつ、住民登録証(身分証)への「宗教名」記入義務を存続させることを決めた。 
 
 国会との対立を回避したいユドヨノ現政権も同存続に合意する方針を表明したため、国会が早ければ年内に同存続を盛り込んだ「住民登録法案」を可決するのはほぼ確実。 
 
 特別委員会が可決した住民登録法案では一応、宗教名欄を「空白」にすることも認めているが、その場合、教育、就職、結婚などさまざまなケースで、宗教に起因する差別が生じる可能性もある。 
 
 このため人権擁護関係者や民主化運動の活動家たちに加え、少数派の宗教信者や地方の土着信仰を守っている国民らの間からは「宗教名欄の存続は宗教差別を助長し、社会制度の民主化要求に逆行するもの」と強く反発する声が出ている。 
 
 インドネシア共産党(PKI)によるとされるクーデター未遂事件(1965年9月30日)を鎮圧したスハルト将軍(当時、後に大統領)は、実権掌握後、全国規模でのPKI弾圧・取り締まりを強化した。PKIは宗教を“麻薬”として否定していたため、スハルト政権は、住民登録証に「宗教名欄」を設け、書き込まないものを共産主義者とみなすシステムを作り上げた。 
 
 スハルト政権時代に認められていた宗教はイスラム、カトリック、プロテスタント、ヒンズーと仏教の5宗教。その後、主にジャワ人の間で根強い土着信仰「クジャウェン」、さらに最近では儒教も“公認宗教”に加えられた。 
 
 今回の住民登録法案ではそれ以外の信仰を持つ者は、宗教名欄を空白にはできるが、PKIアレルギーがいまだに強く残るインドネシアでは、「空白」は「共産主義者」とみなされる懸念がぬぐい切れず、さまざまな場面で差別につながる恐れもある。 
 
 公認宗教の関係者たちも宗教名欄の存続に危機感を強めている。地元の英語紙ジャカルタ・ポスト電子版(18日付)によると、インドネシア司教評議会のスセトヨ司教は宗教名欄の存続について、「国会と政府が目先の政治的利害を優先させた結果であり、身分証明書への宗教名記入義務化は基本的人権の侵害だ」と批判。 
 
 さらにスセトヨ司教は「信仰を深めるのは個人の心に根ざした問題で、宗教名を記入したからといって、信仰が高まるわけではない」とし、宗教と愛国心高揚とを結び付けようとする政治的動きに警告を発している。 
 
 イスラム研究者のブディ・ムナワル・ラフマン教授(パラマディナ大学)も「政府は信教の自由および宗教を持たない自由を保障せねばならない」と主張した上で、「宗教名欄の存続は政治家たちの支持集め目的に悪用される恐れがある」と指摘、記入義務がもたらす“負の側面”に懸念を示している。 


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