2006年12月11日00時25分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=200612110025451

メディア王マードック氏が批判の矢面に “告白本”問題尾を引く

 保守系テレビ局FOXニュースの実質的指導者であるルーパート・マードック氏が、元米プロフットボール選手のO・J・シンプソンさんの“告白本”出版をめぐるいざこざから、批判の矢面に立たされている。本は、1994年に起きたシンプソンさんの前妻ら2人の殺人事件に関するもので、メディア王であるマードック氏に率いるテレビ、出版会社が、出版に関与していた。世論の反発を浴び、本の出版はキャンセルになったが、マードック氏側が、前妻らの遺族に対し、本のキャンセルを行なう前に、“口止め料”の支払いを持ちかけていたことが明らかになっている。(ベリタ通信=江田信一郎) 
 
 1994年6月、シンプソンさんの前妻ニコル・ブラウンさんと、その友人ロナルド・ゴールドマンさんの血まみれの死体が、ロサンゼルスにあるニコルさんのコンドミニアムの庭先で発見された。 
 
 シンプソンさんが捜査線上に浮かび逮捕されたが、95年の裁判では無罪になった。しかし、民事裁判では有罪となり、遺族に対し、3350万ドル(約40億円)の支払いが命じられた。しかし、シンプソンさんは収入がないとの理由でまったく払っていない。 
 
 本はこの殺人事件を取り扱ったもので、題名は「もし私が犯人なら」。当初のふれこみでは、シンプソンさんが殺害を告白するものとなっていた。11月30日の出版を予定し、FOXテレビでも、11月27日と29日に2回に分けて、本の出版の宣伝のために、シンプソンさんとのインタビュー番組の放映を企画していた。 
 
 しかし、世論の反発の声が強まり、マードック氏も放映直前の20日に本の出版と、インタビュー番組の放映キャンセルを決めた。この直後、遺族らが他のテレビ局に出演し、中止が決まる前に、マードック氏の代理人から、事実上の“口止め料”の支払いを持ちかけられたという。 
 
 提案は、数百万ドルをと推定される本の収益を遺族に引き渡すという内容だった。遺族らは、マードック氏側は、金を払うことで、遺族を黙らせようとしたと批判。遺族らはこの申し出を拒否した。マードック氏側も、この申し出の事実を認めたが、“口止め料”との批判を否定している。 
 
 一方、シンプソンさんも本の出版がキャンセルされた後、各メディアの取材に応じ、本の中で殺害を自白しているとの内容は事実ではないと反論した。本は、ゴーストライターが執筆したが、企画の初めから、自分は殺人を犯していないことを指摘したという。 
 
 「ライターに会った最初の日から、自分が(殺人を)犯していないことを明確にした。告白するようなことは何もない」 
 
 シンプソン氏は、この企画は、子どもたちへの財政的支援のために行なったもので、あくまで資金を得るのが目的だったと強調した。契約料は350万ドルとされ、金はシンプソン側に払われている。 
 
 「“血のついた金”であることは明白にしている。子どもたちも理解している。しかし、(シンプソン事件に関連して)本を書いた他のライターとどこが違うのか」 
 
 その上で、自分に対する今回の批判は甘受するが、マードック氏も倫理的に高いところにいるとは言えない、と批判した。 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。