2006年12月16日14時59分掲載
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日中・広報文化交流最前線
「大国の台頭」の歴史を学ぶ中国 井出敬二(在中国日本大使館広報文化センター長)
11月後半、中国中央テレビ(CCTV)2チャンネル(経済チャンネル)で、「大国の台頭(中国語で「大国崛起」)」と題するシリーズ番組(毎回約50分間、12回放送)が放送された。これは、欧米と日本の過去500年の近代化の過程を紹介し、中国が今後大国としてどう振る舞うべきかについての考察も紹介している。2003年11月の中国共産党政治局での勉強会(銭乗旦北京大学歴史学部教授が「15世紀以来の世界の主要国の発展」を政治局メンバーに講義した)から出てきた問題意識を踏まえた番組である。
外国の歴史を紹介するこれだけの大型テレビ番組は、中国では珍しいようである。3年近くの作業、かなりの費用と人手をかけた番組として、中国で話題を集めている。
中国の多くのメディアがこのシリーズテレビ番組に注目して報道しており、またニューヨークタイムズ紙(12月9日付)もこの番組に触れながら大国としての中国について報道している。番組内容は本でも出版され(各国毎に1冊ずつ)、早くも2万部の売り上げが見込まれているそうである。DVD化もされ市販されているが、既に海賊版DVDも出ているそうである。このテレビ番組と、中国メディアの反響を見ての興味深い点を紹介したい。
●明治以来の日本の近代化も紹介
CCTVは日本を含め各国にテレビ取材クルーを派遣し、総計100名近い有識者にインタビューを行っている。
第1回から第11回までは、スペイン、ポルトガル、オランダ、英国、フランス、ドイツ、日本、ロシア、米国の9カ国の近代化の過程を取りあげる。
日本編(一回分)は、明治時代の日本の努力〜明治維新、岩倉遣欧米使節団、富国強兵、自由民権運動など〜を紹介している。大久保利通が傑出したリーダーとして紹介されている。加藤周一、奥平康弘・東大名誉教授、升味準之輔・都立大学名誉教授、依田喜家・早稲田大学名誉教授、三菱経済研究所・成田誠一常務理事ら錚々たるメンバーがインタビューを受けている。
日本の近代化を理解する上で重要な点として、明治時代の自由民権運動も紹介されているが、これは中国では珍しい。日本の戦中、戦後の紹介は比較的短いが、戦後の平和憲法、主権在民を紹介し、平和主義が戦後の日本の復興に重要であったと説明している。中国テレビ局による訪日取材番組は色々あるが、この番組の訪日取材は、1ヶ月半をかけ(2005年9月〜10月)、かなり力が入っていると言える。
ロシアについてはソ連邦崩壊前のソ連の躍進(レーニンの新経済政策を高く評価)を中心に、米国については第二次世界大戦前(資本主義諸国の不況とルーズベルトのニューディール)を紹介し、改革開放政策の意義を強調する。何故ソ連邦が崩壊したかについての事情は紹介していない。
最終回(第12回放送分)では、中国、欧米、日本の有識者のインタビューを中心に、列強の台頭の要因として、思想面、産業育成、平和的環境などの重要性を指摘している。
●中国国内で大きな反響
この放送は、高い視聴率が見込まれたであろうCCTV1チャンネルではなく、比較的地味なCCTV2チャンネル(主に経済番組を放送するチャンネル)で放送された。それでも大きな反響が出ている。
中国の主要メディアに出ている様々な反響を以下の通り紹介したい。(「新京報」「環球時報」「中国新聞週刊」「瞭望東方週刊」「瞭望新聞週刊」等。)
─中国人のために歴史教育をする番組は非常に新鮮だ。9つの国家の発展の理由が、対外侵略と植民地主義だけに依るといった歴史教育が中国ではあったが、それへの批判は重要だが、これら諸国の台頭の理由は、先進的・合理的な社会制度、思想文化、教育・科学技術、傑出した指導者の存在である。このように多角的な歴史理解を助ける番組と言える。
─中国は例えば教育でもまだ遅れている。15歳以上で高等教育を受けている割合は4.6%に過ぎない。先進国の平均は28.1%である。先進国に比べて50年遅れている。
─平和発展の道こそが、中国が歩むべき道である。(注:中国では以前は「中国の平和的台頭」という表現を使っていたが、最近は、「平和的発展」という表現に変わっている。)
ウェブ・サイトで現れている評価は、肯定的、否定的双方がある。肯定的コメントは、諸外国の経験に素直に学ぶべきというもの。否定的コメントは、結論が不明確、現在の中国に対する具体的提言が無い、といったものである。
筆者の目を惹いた二人の識者の意見を最後に紹介したい。
邱震海フェニックステレビ評論員:中国は物質的な発展はしているが、制度構築、民族精神面の発展は未だなされておらず、価値観が混乱している。西欧の発展の背景にある理性精神〜妥協、秩序、法制度、民主、個人の自由、生命の尊重、人間の尊厳など〜を中国も必要としている。(12月11日付「中国新聞週刊」)
周艶氏(本番組の編集長):私達(中国人)の世界理解、世界の歴史に対する理解は全く不十分である。この番組を通して、中国人が、更に世界を、そして歴史を理解することを希望する。(12月7日付「瞭望東方周刊」)
(つづく)
(本稿中の意見は、筆者の個人的意見であり、筆者の所属する組織の意見を代表するものではない。)
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