2006年12月23日13時56分掲載  無料記事
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日中・広報文化交流最前線

中国の若者が熱狂するアニメ文化 井出敬二(在中国日本大使館広報文化センター長)

  中国の若者がアニメに熱中していることは知っていたが、12月、そのすごさを改めてかいま見る機会があったので紹介したい。 
 12月2日、宮崎駿映画作品の多くの曲の作曲者として有名な久石譲氏ご自身が出演されたコンサートが北京市内で開催され、多数の中国人の若者が詰めかけた。 
 また12月3日、北京電影学院で開催された中国大学生アニメ・コンテスト表彰式で、多くの若者が将来のアニメーターを目指してしのぎをけずっていることを見る機会があった。 
 
●久石譲氏コンサート 
 
 久石譲氏ご自身が指揮とピアノ演奏をされた演奏会開催は、中国大陸では初めてとのことであった。中国愛楽楽団というオーケストラと共演された。会場の保利劇場は北京有数のコンサートホールであるが、1500席が満席になる大変な盛況ぶりであった。 
 北京で開催される有料のコンサートが満席になるというのは非常に珍しい。 
 久石氏がコンサート舞台にあがると中国人の若者から一斉に歓声があがり、同氏作品「天空の城ラピュタ」「となりのトトロ」「千と千尋の神隠し」「ハウルの動く城」「花火」などが演奏される度に大きな拍手が起きた。予定された曲の演奏が終了後も拍手が鳴りやまず、アンコールで更に三曲演奏があった。 
 
 北京でこの公演を準備した王曉京氏は、女子十二楽坊の仕掛け人としても有名なやり手である。彼の事前宣伝が巧みであり、多くの報道が事前に出るような仕掛けをしたようである。この王氏が筆者に教えてくれたところでは、チケットは8日間で完売し、補助席まで入れたそうである。 
 
●学生アニメ・コンテスト 
 
 12月3日、中国人学生によるアニメ・コンテスト結果発表が、北京電影学院であり、筆者も参加してきた。同学院は中国有数の映画関係大学であり、その中にある動画学院も中国有数のアニメ関係学部である。動画学院への毎年の入学者は約150だが、5千名もの受験者がいるそうである。 
 
 今回のアニメ・コンテストでは、中国全土の学生達がアニメ作品(10分間程度の短編)3千本(一部には外国からの応募もある由)の応募があり、その中から入選作品千本、優秀作品4百本が選ばれた。3日の授賞式では、18の賞の授賞式が行われ、その中の最優秀作品(『サーカス団』)に対して「日本大使賞」の賞状を筆者より授与した(受賞者は動画学院の3名の学生:殷堯、呂睿丹、楊黎)。 
 この『サーカス団』は10分間の習作であり、古いサーカス場に迷い込んだ女の子を描くもので、ストーリーが展開するという程の長いものではないが、コンピューター・グラフィックスの技術は素晴らしいものがあった。 
 
 3千本の応募作品が集まったというのも半端な数ではない。中国のアニメ教育関係者の話では、中国では300の大学、専門学校で8千人もの学生が学んでいるそうである。卒業後はアニメーター、ゲームソフト開発者、デザイナー等の道に進むそうである。 
 授賞式で、日中新世紀会の吉村善和事務局長より、日中の学生で「明日」を主題とするアニメ作品の制作の企画を2007年実施することを発表した。 
 
 コンテスト発表会では、北京電影学院・張会軍院長、同学院動画学院・孫立軍院長、中国及び諸外国(日本、米国、欧州、アジアのアニメ産業、アニメ関係大学等)のアニメ関係者、文化部、全青連宣伝部長、国家発展改革委、港澳台弁公室、姜昆(著名な芸能人、政治協商会議メンバー)、陳佩斯(有名なお笑い芸能人)、中国のテレビ局関係者などが参加し、会場の大講堂も立ち見の出る盛況ぶりであった。 
 今回の学生アニメ・コンテストは、中国中のアニメを学ぶ学生達から多数の応募があり、それ以前のコンテストと比べ質・量ともに格段に拡充されたものだった。また著名な芸能人、諸外国の関係者も招くなど、相当熱意が込められていた。中国政府がアニメ産業育成に力を入れていることとも関係があるが、将来これらの若者がいかなるアニメを産み出すのかは目が離せない。 
(本件報道:www.asahi.com/international/jinmin/TKY200612050267.html) 
 
 中国の若者を文化行事で沢山集めたい場合、アニメ関係のイベントであれば、かなりの参加が見込める。来年(2007年)開催予定の日中の学生によるアニメ制作は、芸術的交流を通じて、共感を養う素晴らしい企画だと思う。双方向のコミュニケーションを伴う交流がやはり重要だと考える。(つづく) 
 
(本稿中の意見は、筆者の個人的意見であり、筆者の所属する組織の意見を代表するものではない。) 


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