2006年12月25日18時56分掲載
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愛犬が遭難した飼い主の下へ救助隊誘導 現場は凍てつく米ユタ州の山中
米ユタ州の山中でトレーニング中、女性トライアスロン(鉄人レース)の選手が、足を滑らせ転落した。骨盤を骨折し、歩くことができなくなった。その窮状を救ったのが、一緒にいた愛犬だった。現場は夜は激しい寒さに見舞われる。事故から3日目に、救助隊が現場近くまでやってきた。救助隊は、はげしく吠え立てる犬を発見した。しかし、犬は救助隊に近づこうとせず、むしろ自分についてくるようなしぐさをみせた。救助隊は犬の後を約8キロ追った結果、遂に負傷して倒れている女性を発見した。(ベリタ通信=江口惇)
米メディアによると、トライアスロンの国際大会で優勝経験もあるダネル・バレンジーさん(35)は12月13日、ユタ州モアブにある山道で、スポーツ着を身に着け、ランニングのトレーニングを開始した。トライアスロンとは、一人で遠泳、自転車、マラソンをする耐久レース。
当時の気温は5度以下。2時間のトレーニングの予定だった。愛犬タズも一緒だった。タズは3歳でジャーマン・シェパードとゴールデンレトリバーの混血。
山道は凍っていた。バレンジーさんは足を滑らせ、約18メートル転落した。骨盤を折り、手足に多くの切り傷ができた。家族、友人らのことが頭に浮かんだ。「死ぬことはできない」と感じた。しかし、歩くことはできなかった。山道を這いつくばり、400メートルの距離を約5時間かかけて進んだ。しかし、人里離れた山中に人影はない。
遭難第一日目は、寒さに耐えるために上半身を頻繁に動かした。夜は気温は、氷点下6度以下に下がる。タズを腹に乗せ眠った。2日目にも救助隊は来なかった。タズは何度か、助けを求めるつもりか、バレンジーさんを残し、立ち去ったが、必ず戻ってきた。持ってきた水がなくなった後は、水溜りの雪解け水を飲んだ。
この間、ユタ州モアブにあるバレンジーさんの自宅に、彼女が戻っていないのを知った隣人が14日に、警察と、コロラド州に住むバレンジーさんの両親に連絡した。警察は当初、バレンジーさんが何かの事件に巻き込まれた可能性もあるとして、コロラド川や湖も捜索した。遭難3日目の15日朝、タズは、バレンジーさんを残して再び姿を消した。
一方、救助隊が同じ15日正午過ぎ、バレンジーさんの乗り捨てられたピックアップ・トラックを山中で発見した。その時、救助隊は、激しく吠えたえる犬を見つけた。捜索願が出ている犬の姿に酷似していた。犬を保護しようとしたが、拒むかのように逃げ回った。救助隊は犬の後を追い、バレンジーさんを発見した。事故から52時間経過していた。
バレンジーさんはヘリコプターでコロラド州デンバーの集中治療室に搬送された。骨盤が4箇所で折れ、足には凍傷が起きていた。しかし、致命的でなく、3カ月から6カ月後には、歩けるようになるという。
バレンジーさんは、愛犬が彼女の命を救ったと感謝している。ベッドの上で「タズを思い切り抱きしめたい」と語った。
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