2006年12月27日16時50分掲載  無料記事
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誘拐におびえるメキシコ富裕層の子弟 隔絶された社会に生きる

 中米メキシコでは誘拐がビジネスとして定着している。金持ちを誘拐し、多額の身代金を取るやり方だ。富裕層の子弟は、誘拐が怖くて、普通の子どものように、公園で遊んだりすることもできない。子弟を私立学校に連れていく運転手は銃で武装しており、さらに金銭的に余裕のある家庭では、ボディーガードを子どもたちにつけている。誘拐され、多額の身代金を請求されることに比べれば、この程度の“セキュリティー費用”は決して高くないようだ。(ベリタ通信=江田信一郎) 
 
 実業家や金持ちを誘拐すのは、メキシコに限ったことではない。コロンビアでも頻繁に起きている。誘拐し、家族の身代金を要求するのが手口だが、悪質なのは何だかんだといって何度も身代金を取るやり方だ。身代金を払っても人質を帰さないことも起きている。 
 
 米メディアによると、首都メキシコ市に住む富裕層の子弟は、治安が悪化している一般社会から、事実上隔離される形になっている。誘拐が多発する場所に近寄らないのが、最大の防犯対策である。 
 
 富裕層の子弟は、家庭では、ナニー(子守り)が身の回りの世話を焼く。学校などに行く場合は、運転手は銃を携帯し、子どもを守らなければならない。メキシコは貧富の差が激しく、メキシコ統計当局によると、11%の特権層が、メキシコの富の88%を支配しているという。こうした子どもたちは、中南米諸国で多くみられる学校にも行けない貧困な子どもたちとは、まったく別世界に住んでいる。 
 
 富裕層の子弟は、放課後はダンス、水泳、チェス、体操などのレッスンを受ける。乗馬に通っている16歳の少女は、公園に行くのかとの問いに、逆に「メキシコに(行けるような)公園があるのか」と問い返し、治安の悪さを指摘している。 
 
 誘拐一味は、金持ち層のリストを持っているといわれ、目立つ行為は危険な結果をもたらす。このため子供たちの行動範囲も狭められている。高級ショッピング街での買い物、友人たちを自宅に呼んでのパーティーなど、限られたものになっている。 
 
▼隔離で社会を理解不能 
 
 富裕層はこうした治安の悪化に対し、自衛策を講じているわけだが、作家のグアダルペ・ロアエサさんは、富裕層の子弟は、貧困な一般社会から隔絶されていると述べ、その様子を「金の鳥かご、つまり“刑務所”に住んでいる」と指摘している。その上で「彼らは自分たちが住んでいる社会を理解できないでいる」と警告する。 
 
 またロアエサさんは、こうした若者の間に拒食症や、麻薬が広がっていることを明らかにしている。 
 
 メキシコの富裕層は、子どもたちがスキーで足を追ったりすることよりも、誘拐されることを心配している。子どもたちが各自、携帯電話を持ち、逐一連絡を取っている家庭もある。ある母親は、「彼らは小さいバブルの中にいる。完全に保護されている」と話す。金持ち層が週末に繰り出す高級モールでは、運転手やボディーガードが家族を見張る光景が目撃されている。 


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