2007年01月15日01時00分掲載
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人工的な音の氾濫で「静寂さ」を失う現代人 多くの都市の現象
現代社会はいろいろな人工的な音であふれている。車のきしむ音、上空を飛ぶヘリコプターの音、他にも携帯電話の呼び出し音、オフィスのコンピューターの音もある。音のない静かな世界と思われていた国立公園でも、例外ではなくなっている。人間は音に恒常的にさらされると、精神的、肉体的にも影響を受けるといわれている。同時に人間は常に周りを音で囲まれているうちに、人にとって重要な静寂の時間を失う恐れがあるという。(ベリタ通信=江口惇)
米紙サンディエゴ・ユニオン・トリビューンなどによると、世界中で騒音が強くなっている。香港に住むある女性は、米国の知人であるランディー・トムさんに対し、外出するときはいつも、都会の騒音を消すために耳栓をしていると伝えている。トムさんは、ハリウッドで音響担当の編集者だが「今や、世界中が香港のようになっている」と話す。
最近、公になった米環境保護局(EPA)の10年前の調査によると、米国民の2500万人が健康に影響を与える騒音のレベルにさらされているという。騒音公害を減らす運動をしている組織「ノイズ・ポリューション情報センター」(本部バーモント州)では、20世紀は世界の歴史の中でも、最も音がうるさいかったと話している。
現在は多くの都市が、騒音に悩んでいる。過度の音は、人間の健康などに影響を与え、生活の質を落とす結果になる。米紙サクラメント・ビーによると、科学者たちが昔から、騒音の人間に与える影響を研究してきた。しかし、こうした研究は、ある音に長期間さらされることへの影響を調べるのが多かった。
しかし、現在は人間の経済活動が活発化し、すべての人が日常的にさまざまな音にさらされている。高速道路を走る車の音や、テレビの音など、人間の耳に自然と入ってくる。こうした日常的に聞こえる音が、人間にとって精神的、肉体的にどのような影響を与えているかは、あまりわかっていない。
この結果、人間が「静寂」を意識する機会もなくなっている。自然の生きているといわれる国立公園は、騒音のない代表的な世界だが、ここにも騒音は侵入してきている。飛行機の音や、ポケットベルなどの人工的な音がそれだ。確かに公園は他に比べれが、静謐なところだが、それでも年々、その領域が狭まっているのが実情だという。
世界保健機関(WHO)が1995年と99年に実施した調査では、地域社会の騒音、例えば、道路、飛行機、建築などの音は、人の生産性を落とし、血圧の上昇を招くという。特に子どもたちにとっては学習意欲に影響を与えるといわれている。
人間は年々静寂さを感じ取ることに得られる安寧さを奪われ、人々は騒々しい音の世界に慣らされて育っていく。
「サイレンス(静寂)」の著者クリスティーナ・フェルドマンさんは、「静寂は教師だ」と書いている。静寂さの中で、人は孤独と友愛、喜びと悲しみ、そして衝突と平和という最も深いことを学ぶ。人が海や山を訪れ、喜びを語るのは、静寂さの持つ力だと指摘している。
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