2007年02月09日10時13分掲載  無料記事
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米国の刑務所で増えるエイズ感染 下院議員が検査の充実を提案へ

 米国の刑務所でのエイズウイルス(HIV)感染が深刻なものになっているという。男性の収容者同士の性行為などによって、狭い刑務所内に感染が広がっているためだ。また感染したまま刑務所を出た者が、一般社会でエイズウイルスを広げる恐れもある。刑務所内のエイズ感染の危険性は以前から指摘されているが、抜本的な改善策は取られていないのが現状だ。(ベリタ通信=江田信一郎) 
 
 こうした危険な状態を食い止めようと、ウオーターズ下院議員(民主党、ロサンゼルス選出)が、昨年に引き続き、受刑者が連邦刑務所に入所したり、同刑務所から出所する際に、自動的にエイズ検査を行うことを柱にした法案を提出する予定だ。しかし、エイズ検査は強制ではなく、受刑者の承諾を必要とする。従って受刑者には検査を拒否できる余地がある。 
 
 エイズ感染を防止するためには検査実施後の心のケアや、刑務所スタッフの教育訓練など総合的な対策が必要という。米議会予算局(CBO)の試算では、年間75万ドルから200万ドルの経費がかかるとみられている。 
 
 同議員は昨年秋にも、同様の法案を提出したが、人権保護団体の全米市民自由連合(ACLU)や、同性愛者(ゲイ)の権利保護活動家が、義務的なエイズ検査は、受刑者が将来的に差別を受ける危険性があるとしていち早く難色を示した経緯がある。 
 
 米国の刑務所内のエイズ感染をめぐっては、世界保健機関(WHO)や国連合同エイズ計画(UNAIDS)がかなり以前から、問題視し、改善の勧告を行なってきている。具体的には、コンドームの受刑者への配布や、注射器類の洗浄の許可などを挙げている。 
 
 しかし、米国の刑務所は、所内での性行為を禁止しているため、勧告をすんなり受け入れられない事情がある。 
 
 つまり、コンドームの配布は、所内での性行為を事実上認めることになり、司法省の方針と矛盾するとの主張だ。この結果、現状では、自ら進んで検査を要求したときとか、収容者がエイズ感染と思われる症状を見せたときに、検査などが行なわれている。 
 
 一方、医学専門誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン」によると、刑務所内では、かなり危険な性行為が行なわれているという。 
 
 コンドームが配布されていないため、ラテックス手袋やサンドイッチ入れる袋などを使った間に合わせのものが使われることもあるが、多くが感染防止策がないまま性行為を行なっている。この結果、男性受刑者が、所内でエイズに感染する確率は、普通の人たちに比べ、3倍から5倍という高さになっている。 
 
 刑務所内では、薬物や注射器もどこからか持ち込まれ使用されている。この結果、C型肝炎なども広がっている。 
 
 米国の刑務所は、受刑者の3分の2がアフリカ系米国人(黒人)やラティーノ(中南米系)という。この結果、エイズ感染がマイノリティー(少数派)社会を中心に広がっている。元受刑者の女性パートナーにもエイズが広がっているという。 


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