2007年02月27日12時01分掲載
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中東
勝利か審理再開か イラク戦争派遣拒否のワタダ中尉の軍法会議(2)
自ら派遣拒否兵で軍法会議にかけられた経験のある、ジェフ・パターソンのワタダ中尉軍法会議報告の続きです。米ワシントン州フォートルイスで開催されたワタダ中尉軍法会議は2月7日、「審理無効」を宣言して閉じられました。審理後半の報告はは、ワタダ中尉の主張を正面から取り上げたくないという自分の底意を隠して、手続き上の問題に拘泥する判事の様子を描いています。その姿は何だかこっけいでもあります。中尉の弁護士は、「審理無効」によって裁判が復活することはありえないと主張していますが、今後の政府の巻き返しについてはいくつかの可能性も指摘されています。(TUP速報)
原題:ワタダ中尉、軍法会議審理無効は明らかに勝利である
ジェフ・パターソン
(前号からの続き/末尾に問題となった「訴訟上の合意」抄訳を添付しました)
▽判事、判断を誤り意見の不一致を主張する
水曜日(2月7日)午前、予定されていたワタダ中尉の証言に先立ち、ヘッド判事は予想外にも訴訟の合意文書に異議を唱えた。この判事の異議は、陪審に対する説明を求めた一見些細な提案にもとづくものだった。この弁護側からの提案は、単に「ワタダ中尉は、イラク戦争は違法であるという信念にもとづいて意図的に赴任しなかった」ということを陪審に説明することを求めたものだった。サイツは、それ以前の申し立てがすべて拒否されたので、この説明が許可されるとの「期待はまったく」もっていなかったと後で語っている。
しかし、ヘッド判事は、イラク戦争の合法性は自分の満足にはまったく無関係なことだと知的に問題にケリをつけていたので、「意図的に派遣命令に従わなかった」というワタダ中尉の事実合意は判事の意見では「有罪告白の合意」となった。
弁護人たちの反対にもかかわらず、ヘッド判事は、ワタダ中尉に意図について質問すると言い張った。証言台に立たせてではなく、被告席に座ったままでである。サイツはそのような質問には何ら法的根拠がないと反対したが受け入れられなかった。
ワタダ中尉は再び次のように述べた。「私が意図的に移動しなかったのは、イラクでの軍事行動に参加することは、戦争犯罪と自分が違法な戦争と信じるものに加担することだと考えたからです。」 ヘッド判事は、しかしあなたは自分に「移動を行う義務がある」と考えたでしょうと質問した。「いいえ、私は自分にそのような義務があるとは考えませんでした。私は、自分が違法と考える事柄を行うよう命令されていたのです。政府と軍の下した裁定は私と反対でしたが、だからといって、それで私の考えが否定されるわけではありません」と中尉は答えた。
ヘッド判事は、事実に関する合意についての自分自身の誤解(ワタダ中尉や弁護人や検察の誤解ではなく)にもとづいて、ワタダ中尉は、罪を認めると同時に無実を主張しようとしていると考えたらしい。
他のどの関係者からも賛同を得られない、自分で陥った解決可能なはずの矛盾のために、ヘッド判事は先へ踏み出し、事実合意についての審問を開始した。サイツは「こんな審問を行う権限は判事にはなく、これは正当化しえない」と抗議した。
▽検察、弁護にまわる
「正式事実審理前の合意の意味に関して、意見の相違があってはならない。現在双方の合意がない。」とヘッド判事は宣言し、「法的義務かそうでないか」にかかわらず「あなたはどう考えたのか?」とワタダ中尉に質問した。「[合意書に] 付加的証拠があり、それが私の弁明になると考えます」と中尉は答えた。
サイツが繰り返した。「その限りでは、それは事実に関する合意であって、自白書ではありません。これは私たちの一貫した立場です。」
検察側のヴァン・スウェリンジェン大尉は、政府にとって事態が悪化しつつあるのを見て取って、被告側弁護士のエリック・サイツの支持に回った。「双方が事実に合意しました。合意がありました。ワタダ中尉がイラク戦争は違法であるという考えにもとづいて中尉が無実を主張していることには、何の疑念もありません。検察は、これがあくまで事実の合意であることに同意します」とスウェリンジェンは述べた。
しかしながら、ヘッド判事は、ワタダ中尉の信念は裁判に無関係だと決定してしまっており、これを極度の厳格さで貫く構えであるため、スウェリンジェンの意見はとても受け入れられなかった。最後にもう一度、ヘッド判事は質問した。「派遣はあなたにとってどういう意味をもつでしょうか」。lワタダ中尉は答えた。「私にとって、自分が違法と考える戦争に従事することを意味します」
弁護側も検察側も、ワタダ中尉の考えは、明瞭に述べられており、一貫していると言った。「しかしながらこの合意文書に関して、被告側は、先に争われた申し立てと異議に関する将来の訴訟上の請求権を放棄しません」
「政府は私の問題を理解しますか」とヘッド判事は検察側に聞いた。「率直に言って理解しません」とヴァン・スウェリンジェンは、腕を組みうつむいたまま答えた。「被告は無実を主張しています。被告が証拠があるというなら、法廷はそれを聞くべきです」と、この軍法会議を先に進めることを期待するスウェリンジェンは、「ニュルンベルグ弁護」[被告は上官の命令に従っただけなので罪には問われないとする]その他どんな問題でももちだしてほしいといった様子で提案した。
▽弁護側の反対をおして審理無効とされた
「今この場で、どう受け入れろというのか」と、ヘッド判事は合意を放棄した。合意書を無効にされて、検察はもはや陪審に示すべき証拠がなくなった。ヘッド判事は、検察に対し訴訟の延期に従わず再開することを認めようと言ったが、証言の日を取り消すことについては、「いったん鳴らしたベルをどうやって元にもどすのか」と、気取った言い回しで尋ねた。すべては、無効にされたすでに陪審員検討済みの合意文書にもとづいているのである。
これらすべてにおけるヘッド判事の動機については、ワタダ中尉が合意に関する誤解の問題で上訴する可能性を閉ざすつもりだったということが考えられる。他の関係者は、サイツの「二重危険」の警告にもかかわらず、判事は検察が「やり直し」をしても問題ないと思い込んだのだと考えた。
検察団に上官と訴訟の方針を協議する時間を与えるため何度か長い休憩があった後、ヘッド判事は「政府としての選択は?」と検察側に聞いた。ヴァン・スウェリンジェンはがっくりして、つぶやいた。「この時点において、政府としては審理無効を提議します」
ヘッド判事は、ただちに新たな審理を3月19日に開始すると決めたが、日時については被告側弁護士の都合によって変更もあるとし、早くて5月となる可能性が高いとした。「この裁判は訴訟事件一覧表の最優先事項となる」
▽今後の「米国対ワタダ」裁判は疑問
瑣末な問題のために裁判を放棄しようとしたのでないとすれば、ヘッド判事は自分が何を提案したか十分理解しているように思えない。被告側主席弁護士のエリック・サイツは、この劇的な1日を説明して、「専門家として私は、ワタダ中尉が二重危険の効力によって再度裁判にかけられることはないと考えている。弁護側は、審理無効を正当化するようなことは何もしていない。判事は自分だけで、あるいは政府の申し立てによりこの裁定をすべて行ったのだ。二重の危険に対する保護は、憲法上の問題として適用される」と述べ、「この裁判は何週間か何ヶ月前の状態に戻った。これは二度と復活することはない、また復活できないと私は考えている」と付け加えた。
この時点で、さまざまな可能性がある。政府が、いったん取り下げた起訴内容2件を何とか再び持ち出して、ジャーナリストを再召喚する可能性。ワタダ中尉が春か夏に新たに禁固6年の刑を受ける可能性のある軍法会議にかけられる可能性。さまざまな可能性のうち、どれが最も確率が高いか示すことは不可能である。
ひとつはっきりしていることがある。太平洋岸北西部、全米、全世界から千人を超す人々がフォートルイスに集まり、軍法会議の終わる週末にワタダ中尉のために中尉が収監されないようにという一心で集会とデモを行った。昨年6月に始まったワタダ中尉と軍内で抵抗する人々を支持する、かつてない全米規模の運動がこのたびの成果をもたらしたことは疑いない。
フォートルイスのスポークスマンがニューヨークタイムズに語ったように、ワタダ中尉の軍務契約の終了が近いことを考えると、新たな裁判を政府が起こすことができなければ、このたびの審理無効により、またもう一つの可能性、陸軍で初めてイラク派遣を拒否した将校が、この3月に退職し現役引退を許可されるという可能性がきわめて現実的になったといえる。
(TUP/池田真里)
原文:http://www.lewrockwell.com/orig8/paterson1.html
(参考)以下は「訴訟上の合意文書」の抄訳です。
合衆国陸軍第4巡回裁判所
合衆国 対 エーレン・ワタダ 合衆国陸軍中尉
第一軍特別部隊大隊司令部付中隊
ワシントン州フォートルイス
(郵便番号98433-9500)
事実に関する合意
検察と弁護人は、被告による明示的同意を得て、次の3点につき合意し、ここに明記する。すなわち、以下の事実は真実であること、これらの事実を証拠として認められないとする可能性のあるすべての証拠規則、軍法会議規則にかかわらず、これらの事実は証拠として認められること、および、これらの事実ならびにここに参考として同封する資料は、軍パネル[陪審に相当] により、本軍法会議の原告の請求と被告の反駁および判決言渡し手続き前の各段階において考慮されることができ、また適切な量刑決定における判決言渡し当局を含め、軍判事、軍パネル、上訴裁判所、または召集当局により考慮されることができること。これら合意された事実は、たとえ他の場合には証拠として認められなくても、本軍法会議においては証拠として認められる。被告は、これらの事実を証拠として許容することに関し、被告が持ちうる異議をすべて放棄する。ただし弁護人は、以前に提起した申立および異議に関する今後のいかなる請求をも、この合意によって放棄することはない。
合意された事実
起訴内容と起訴明細
1.2006年2月、ワタダ中尉はナショナル・トレーニング・センターにおいて、部隊が近々イラクに派遣されることを知りつつ彼の部隊と訓練していた。2006年3月から6月までの数多くの機会に、ワタダ中尉は、2006年6月に部隊とともにイラクへ配置される義務が彼にあることを通知された。2006年6月に数回、ワタダ中尉は、彼については2006年6月22日の朝配置される義務のあることを通知され、詳細な搭乗情報を与えられた。
2.2006年6月7日、ワタダ中尉はワシントン州タコマにおいて、イラクに派遣されないという決意についてビデオテープにより声明を発表した。添付のビデオ(同封物1参照)はこの意見公表の真正で完全に公正かつ正確な表示である。2006年6月7日におけるこのスピーチにおいて、ワタダ中尉は次のように述べた。
<以下今井恭平さん訳によるワタダ中尉の声明>
http://blogst.jp/momo-journal/archive/64
3.2006年5月28日[原文6月7日に手書きで修正]、カリフォルニア州サンフランシスコにおけるニュース記者セーラ・オルソンのインタビューにおいて、ワタダ中尉はイラクに派遣されないという決意について意見を公表した。セーラ・オルソンは、このインタビューをワタダ中尉の了解を得て2006年6月7日公表した。このインタビューにおいて、ワタダ中尉は次のように述べた。
<以下Truthout からセーラ・オルソンのインタビュー>
http://www.truthout.org/cgi-bin/artman/exec/view.cgi/61/20326
4.2006年6月22日10時00分頃、ワタダ中尉は意図的にイラク行きの飛行機による移動を履行しなかった。ワタダ中尉は2006年6月22日の飛行機に搭乗することとされていた(フライトナンバー BMYA9111173)。彼の部隊は、2006年3月、4月、5月、6月に数多く彼に通知しており、また特に彼に対し搭乗要件を詳述した必須文書を渡していたので、彼は、義務である移動の日時を含め派遣に関する搭乗情報について知っていた。さらに、ブルース・アントニア中佐はワタダ中尉に対し、2006年6月22日マッコード空軍基地からのフライトについて話していた。また派遣の搭乗詳細について特にワタダ中尉に指導助言していた。2006年6月19日、ワタダ中尉は指導助言報告書に、移動の詳細も含め彼の派遣義務を承認するとして署名した(同封物2参照)。2006年6月22日午前、ワタダ中尉が大隊の搭乗呼び出しに応じなかったとき、アントニア中佐はワタダ中尉に再度指導助言し、彼に装備を引き出して、旅団の搭乗呼び出しに出頭するよう命令した(同封物3参照。この文書は実際に署名されたのは2006年6月21日
ではなくて2006年6月22日午前である)。ワタダ中尉は、旅団の搭乗呼び出しに出頭せず、オフィスにとどまった。その後すぐ派遣される兵士たちを載せてバスはフォートルイスからマッコード空軍基地へ向かった。ワタダ中尉は、バスに乗ることを選択しなかった。2006年6月22日10時00分頃、マッコード空軍基地で派遣される兵士たちは飛行機、フライトナンバーBMYA91111173に搭乗し、イラク、モスルに向かった。ワタダ中尉は意図的に飛行機に乗らず、その結果フライトナンバーBMYA91111173による移動を履行しなかった。
5.2006年8月12日[原文は12日となっているが実際は14日]、ワタダ中尉はワシントン州シアトルにおける「平和を求める復員軍人」全米大会において、意見を公表した。添付のビデオ(封入物4参照)はこの意見公表の真正で完全に公正かつ正確な表示である。2006年8月12日ワタダ中尉は次のように述べた。
<以下今井恭平さんのワタダ中尉スピーチ抄訳>
http://blogst.jp/momo-journal/daily/200608/17
6.この事実の合意に見いだされるワタダ中尉の意見表明は、すべて真正である。すべての当事者はこれら意見表明とインタビューの真実性と信頼性に合意する。[以下原文がありません。原文全12ページとされているうちの11ページまで。また途中6,10ページが欠けています。途中欠けているのはセーラのインタビューの一部、復員軍人会でのスピーチの一部です]
原文はシアトル・タイムズ掲載のもの
http://seattletimes.nwsource.com/ABPub/2007/02/07/2003562033.pdf
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