2007年03月16日15時11分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=200703161511535

両親を焼死させた少年に支援の輪 寛大な処置求める

 米ニュージャージー州で、16歳の少年が自宅に放火し、母親と父親を焼死させる事件が起きた。犯行自体は極めて悪質なものだが、少年はがんで苦しむ母親の看護を続けてきた。しかし、母親は、放火が起きる1週間前には、苦痛の伴うがんの化学療法を拒否したため、母親の死が現実のものになっていた。少年を知る関係者は、最愛の母を失う恐怖が少年を放火に駆り立てたのではと、寛大な処置を求めている。(ベリタ通信=江田信一郎) 
 
 米メディアによると、2月13日午前1時ごろ、同州グラスボロにある民家で火災が起きた。消防隊が駆けつけたところ、自宅前に手にやけどを負ったグラスボロ高校2年のジェイソン・ヘンリーと、体に大やけどを負っている母親のミッシェル・ヘンリーさん(39)と、父親のスティーブン・エドワードさん(43)を見つけ、病院に収容した。 
 
 父親は重度のやけどのため、翌日死亡。母親も一週間後に死亡した。この間、警察は、ヘンリーが自宅に放火し、二人を焼死させた疑いが強まったとして放火・殺人の容疑で逮捕した。ヘンリーはガソリンを自宅にまき、放火したとされる。 
 
 事件以降、少年は少年収容施設に入れられている。検察側は、放火・殺人という凶悪性から、少年を裁判で「成人」として扱うことを検討している。この場合、裁判で有罪になれば、終身刑となる場合があり、一生獄中で暮らすことも考えられる。しかし、未成年として裁かれれば、刑はかなり軽いものになる。 
 
 一方、事件の重大さにもかかわらず、その後少年への支援の輪が広がり始めた。少年は学校での物静かで勉強好きの子だったという。ただ母親が5年間にわたって、血液のがんといわれる白血病と闘っていた。少年は、トラック運転手の父親が仕事で戻れないときは、母親の看病のために、遊ぼうという級友たちの誘いを断ったりしていた。 
 
 その母親は、放火の一週間前に化学療法をやめる決断をしていた。過去に二度にわたって苦痛を伴う骨髄移植を受けていた。焼死したエドワードさんの兄、グレンさんは「母親が治療を止め、衰弱している母親をみていた(ヘンリーの)ストレスは信じられないほどだったと思う」と述べ、仮に彼を一生獄中につないでも、何の目的が達成されるのだろうか、と寛大な処置を求めている。 
 
 近所の知人の女性は、母親の病気が何らかの事件の引き金になったと思っている。その女性の夫が2年前にがんで死亡したときに、ヘンリーは震えていたという。このため、その女性の話では、母親のミッシェルさんは、落ち込んでいるヘンリーに向かって、「私のがんは、死んだ彼のものとは違うので、“私は病魔に勝てる”」と、ヘンリーを元気づける必要があったという。 
 
 少年の家族や友人たちは「少年は両親を愛していた」と口をそろえる。少年は母親の看護のためにベッドの傍の床で寝たこともあるという。少年の通うグラスボロ高校の級友たち100人は2月末までに、ヘンリーは未成年として裁かれるべきだとする嘆願書に署名し、裁判所と検察に提出している。 
 
 事件の凶悪さから考えれば、これだけ学校や地域社会から支援の輪が広がるのは珍しいことだという。 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。