2007年03月18日14時05分掲載  無料記事
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「民衆の平和共存に向け国際社会が行動を」 パレスチナ問題でイスラエルのパペ教授

  パレスチナとイスラエルの民衆が平和的に共存できるようになるには何が必要なのか──。3月初めに来日したイスラエルのハイファ大学教授イラン・パペ氏(*)は、東京で行われた講演で、「パレスチナの問題はパレスチナだけの問題ではなく、世界が関わる問題」と述べ、イスラエルの頑なな政策を変えさせるには、南アフリカのアパルトヘイト(人種隔離)政策に対するように、国際社会が制裁やボイコット、投資の引きあげなど、平和と正義に基づく強いプレッシャーをイスラエル政府に送ってほしい、と訴えた。(加藤〈karibu〉宣子) 
 
 イスラエルは、来年2008年に「建国」と第一次中東戦争から60年を迎えるが、それはパレスチナからは「ナクバ(アラビア語で「破滅」を意味する)」と呼ばれ、村々の破壊と人々の虐殺・排除を伴った計画であった。ユダヤ人であるパペ氏はその犯罪を「民族浄化」の視点から解き明かし、反シオニストの立場から「民衆の共存」に向けて自国の歴史を見直す研究を続けている。 
 
 今回の講演は、そのような教授の話に耳を傾けることで日本の研究者や市民、在日外国人がパレスチナ問題への理解を深めようと、ミーダーン〈パレスチナ・対話のための広場〉と東京大学21世紀COE:共生のための国際哲学交流センターが主催した。3月9日、会場の文京区シビックセンターには100人を超える聴衆が集まった。 
 
▽イスラエル「建国」と民族浄化の歴史 
 
 パペ氏は、テルアビブにあったシンボリックな建物「レッドハウス」の話から始めた。「レッドハウス」は1947年からハガナ(建国以前の地下軍事組織)の司令部がおかれた建物である。初代首相となったベングリオンを含む11名の司令官が、ここで会議を開き、パレスチナ人の追放・「清掃」について討議しという。 
 
 ベングリオンたちは、「ユダヤ国家を作ろう」という19世紀末からのシオニズムのもと、ナショナリズムだけでなく植民地主義にも基づき領土をどう獲得するかを決めていく。彼は1937年以降の息子への手紙の中で、「パレスチナ人の運命をどうするか」について触れながら、「(英国統治領下にある)今はまだ、パレスチナ人がほかのアラブ諸国に移送される時期ではない」と語っていたという。 
 
 47年、イギリスがパレスチナ撤退を通告し、状況が変化する。シオニストの方針は、パレスチナにおいて3分の1のマイノリティであるユダヤ人の領有する領土を明確にし、百万人のパレスチナ人を強大な軍事力によって力ずくで追い出すことであった。11月に国連が出したパレスチナ分割案はパレスチナ人とユダヤ人の双方から拒否されたが、国際社会はユダヤ人国家の権利を認めた。48年5月14日イスラエルが「建国」を宣言、翌15日アラブ側が宣戦布告し第一次中東戦争が勃発するがイスラエルの圧勝に終わる。 
 
 パレスチナ人追放作戦は同年2月から開始される。12地域に分けて軍隊を置き、1日に7万5000人をハイファから追放、6−7ヶ月間に追放されたパレスチナ人は100万人に上る。虐殺・レイプ・略奪・投獄・強制労働収容所への収監が行われた。当時ニューヨーク・タイムスを除いて、報道は皆無であった。パペ氏はこれは「民族浄化」であったとし、その犯罪を認め、パレスチナ人の帰還権を認めよという。 
 
▽日本の市民にも期待 
 
 ユダヤ人は今でもイデオロギー教育と政治により、同じ状況にある。イスラエル人は左翼であれ右翼であれ、イスラエルの政治の中に組み込まれていて、アラブ人がマジョリティになると、民族浄化してでも彼らを排除しようとする。イスラエル国内のパレスチナ人は皆、民族浄化の対象である。1993年のオスロ合意にもとづく平和プロセスも占領と植民地化の基盤となってしまった。今現在ガザ回廊は刑務所のような状態にある。 
 
 パペ氏は、南アフリカのアパルトヘイト撤廃に大きな役割を果たした国際的な平和と正義の行動をイスラエル政府にも展開してほしいという。日本が果たせる役割については、政府としての制裁はムリだが、市民によるボイコット、メディアへの期待などを語った。 
 
 最後にレッドハウスとの対比で、テルアビブ大学にある学食の「グリーンハウス」の話をした。大学のために破壊されたシェイフ・ムワニスという村の家が書かれたレストランのことで、そこは自由な議論とつながりを持てるスペースなのだという。 
 
*パペ氏は1954年イスラエル生まれ。第1次中東戦争(1948年)に関する論文でオクスフォード大学博士号取得。帰国後、ハイファ大講師としてシオニズムを批判する立場から研究を続ける。現在ハイファ大歴史学教授。近著に『The Ethnic Cleansing of Palestine』(Oneworld Publications/2006)がある。『A History of Modern Palestine』の日本語訳が近々刊行される。日本語の翻訳書がないため、日本ではあまり知られていないが、イギリスなどでは会場に入りきれないほどの聴衆が集まるという。 


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