2007年04月25日15時08分掲載
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生協法改訂の危険な中身(下) 危機感のない生協界は鈍感力がある? 金 靖郎
これまで2回にわたり、現在国会で審議中の生協法改定案の問題点をみてきた。そこで明らかになったことは、(1)市民の自主的自立的組織であるはずの生活協同組合に対する国の監督権限の強化、(2)市民活動であるはずの生協事業への資本の参入、が法改訂の名のもとに進められようとしていることだ。では当の生協はこのことをどうとらえているのか。生協内部で働く筆者は、生協自身にほとんど危機感が見られないことに驚き、そこに市民社会とかけ離れてしまった協同組合の思想的危機をみる。(大野和興)
◆農産物自由化さけぶ日本生協連
これまで述べてきた協同組合を否定する動きに対して、生協界で問題する声は聞かれない。先ほどの一人一票原則の否定の動きについても農協はよそのことだし、自分たち生協は関係ないと思っているのか批判の声は皆無だ。表立って批判しているのは唯一生活クラブ生協ぐらいである。
日本の生協のほとんどが加盟する団体の日本生活協同組合連合会(以下日生協と略記)はいわば民間企業が集う経団連のような業界団体とも言えるものだ。この日生協は2005年に農業問題に関して、消費者が高い関税により損をしており、農産物の関税をもっと下げなければならないという提言を発表した。
農業を切り捨て、工業製品などの輸出で生き延びようという財界と見間違うような意見を表明したのだ。
生協と言えば、産直が代名詞になるぐらい、日本の農業を守ることが運動のスローガンとなっていた組織だ。生産者と直接提携し、無農薬・減農薬の農産物を消費者に提供し、消費者は安全な食品が食べられる一方で消費者が買い支えることで生産者の暮らしもささえられる、そうしたお互いの助け合い、それが産直運動の原則であり、生協が推進してきたことだ。
しかし、その生協運動がいまや、農産物の関税自由化を叫ぶようになるとはひどい変わりようだ。利益追求の民間資本を後追いするだけの存在に生協運動は成り下がろうとしているのであろうか?
◆管理強化とき規制緩和を引き換える
外からは解散命令権強化など圧力を受けつつ、内では思想を失い、民間資本と代わらぬ考え方に転向しつつある。どうやら外と内の両面で協同組合の解体が始まりつつあるように思える。
生協法では、県域規制、つまり、同一県内のみでしか事業ができないとした規定があり、生協の事業活動は制限されてきた。これは民間企業、中小零細の小売商にとっていわば生協が脅威であり、生協を押さえ込みたいという意図から、条文として入れられたという背景がある。
同じく生協の利用は組合員に限るといういわゆる員外利用規制が生協法で規定されている。これも同様な意図から入れられたと言われている。
今回の生協法改定ではこうした規制が一部緩和される。隣の県であれば、商品の宅配などの事業を行って良いという規制緩和も含まれており、員外利用規制について認めても良い例外の部分を増やす内容となっており規制緩和となる。
このような規制緩和があり、今回の法改定について生協界は概ね好意的に捉えている。日生協は今回の改正案に大賛成で早期に成立を図るように、国会議員へのロビー活動を呼びかけている。
しかし先にふれたように今回の法改定は解散命令権や役員の解任命令権など恐ろしい内容が含まれている。共済との兼業規制も含まれている。ほとんど、規制を強化するだけで、ほんの一部県域規制など規制が緩和されるのにすぎない。
それにも関わらず法案をそのまま丸のみして早期成立を図ることに邁進しているだけである。これではアメにつられて、ムチをうけいれる、あるいは毒饅頭を食らうようなものでないだろうか?せめて先にふれた解散命令権や解任命令権について削除を求めていくべきだろう。
業界の狭い利害だけで動いて、憲法改悪の流れの一環である可能性のある条文に対してなんら異議も挟まないとは情けない限りだ。最近、生協関係の労組の活動家と話していて、このまま行けば、法人税優遇措置もなくなるし、協同組合の危機ではないかと指摘したところ、日生協はもはや民間企業と同じ土俵に立とうとしているのだと話していた。
自分が今まで参加してきた生協運動について悪く言うのは自己否定するようなものと非難されるかも知れないと思うが、大きな流れとして、生協運動は思想的に転向、つまり株式会社と同じ存在に堕落しつつあるように見受けられる。
農協にしても生協にして各個ばらばらにされ、協同組合の原則の解体という攻撃を前にしても何ら抵抗しえない存在となりつつある。いわば企業社会へ同化することで生き残りをかけているというだけだ。
◆市民社会を巻き込んだ議論を
しかしそれは本当に生き延びる道とはとても思えない。今回の法改定が出てきた背景には協同組合そのものを否定する大きな政治的社会的流れがあると思うし、農協、生協と個別ばらばらに対応しているのでなく、組織の垣根を越えて、協同組合同士連携することが必要だ。
民間資本やそれを背景とした政府の攻撃に対して、協同組合には独自の価値があるのだという論理を対置し、広く大衆を巻き込んだ運動を展開すべきだと思う。
元々、日本の農業を守る運動において、生協と農協は連帯してきた実績があるし、食料の自給率向上は消費者も生産者も同じように願っていることだ。そうした素地があるのだから生協と農協が連帯することは自然な流れだと思うのだ。
そして、今起こりつつ協同組合の解体の危機は協同組合のみの力によっては乗り越えられないだろう。それを取り巻く市民、社会も巻き込んだ論儀が必要だ。
それは新自由主義、市場原理主義ともいうべき考え方が広まり、今の格差社会ともいうべき状況がつくられた中にあって、このままの路線で良いのか?といった事を問い直すことにつながるであろう。そうした大衆的な討議と運動の中でしか、生協運動の再生、協同組合の危機の克服はありえないだろう。
今回の生協法改定について現時点で組織的にどの生協からも反対意見は出てきていない。先ほど触れたように危険な内容を含んだ内容にもかかわらず、全くといって良いほど危機感がないのだ。最近、鈍感力という言葉が流行になっているようだが、どうやら生協の世界も鈍感力がすぐれているようだ。
私の所属する生協においてもこの法案には反対はしないようだ。私個人としてこの内容は不当な内容が含まれており、条文の見直しを図るべきだと考えている。
少なくとも解散命令権、解任命令権の部分には反対だ。そもそも間違いを犯したら国にあれこれ言われて初めて改善するのでなく、自ら間違いを正すべきである。消費者の自治組織である生協において役員は組合員にのみ責任を負うべきだ。
間違った役員がいれば組合員みずからが解任要求し、やめさせるべきだ。国があれこれいう事はかえって生協から自浄作用する能力を奪うもので組織の腐敗を招くのではないだろうか?
最後に繰り返しになるが、この生協法改定はきわめて重大な問題をはらんでいると思う。生協界だけでなく協同組合全体にも大きな意味を持つだろう。そして憲法改定の流れとも関係するであろう。一人でも多くの方がこの問題に注目し、その内容について論儀して欲しいと思う。
狭い業界的な利害で生協法は考えられるべきでなく、市民を広範に巻き込んだ中で考えられるべき問題だと思う。もし生協運動が企業社会に単純に同化していくだけであったとしたら、それは日本社会にとってもマイナスだ。ぜひこの問題に注目していただきたいと思う。
注:生協法改定案の全文は厚生労働省の以下のURLから見る事が出来る。法案の正式名称は「消費生活協同組合法の一部を改正する等の法律案」というものだ。
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/soumu/houritu/166.html
P.S 私はこの生協法改定について、今後とも情報を集め、それを分析した上で広く世に訴えていくつもりです。特に、「改憲草案での公益という言葉の意味と自民党の狙い、法律の専門家から見たこの改定案の条文についての解釈、反対運動などの動きなど何か情報があれば、以下の所までお寄せ下さい。ご協力をお願い致します。
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