2007年05月01日00時20分掲載  無料記事
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時事英語一口メモ

【22】「長い戦争」と「修辞的窮地」

ブログ版 
 
 ブッシュ政権はイスラム過激派との戦いを”Long War”(長い戦争)と呼んできたが、中東地域を管轄する米中央軍司令部は、この表現の使用をやめた。下院軍事委員会もこの言葉の使用を禁止した。米国は、いま戦っている戦争をどう呼んだらいいのか決められない“rhetorical quagmire”(修辞的窮地)に陥っている。(鳥居英晴) 
 
 “Long War”という言葉は、中央軍司令部のジョン・ビザイド司令官が2004年に使い始めた。ビザイド司令官が3月に辞任し、代わって就任したウィリアム・ファロン司令官が使用中止を決めた。米軍が中東で長期にわたって駐留するという誤ったメッセージを与えるためだとしている。 
 
 この決定を伝えたのは同軍司令部があるフロリダ州タンバの地元紙、タンパ・トリビューン(4月19日)。ニューヨーク・タイムズ紙やロイター、AFPなどが後追いした。 
 
 同紙によると、中央軍司令部広報官、マット・マックラーフリン海兵隊中佐はその理由を、"In this case, the idea that we are going to be involved in a 'Long War,' at the current level of operations, is not likely and unhelpful." (「長い戦争」に関与していくという考えは、現在の水準の作戦では、役に立たない) 
 
 "The change in vernacular is a product of our ongoing effort to use language that describes the conflict for our western audience while understanding the cultural implications of how that language is construed in the Middle East," McLaughlin wrote in an e-mail. 
 
 (マックラーフリンのメールによると、「用語の変更は、その言葉が中東でどのように解釈されるかという文化的意味合いを理解しつつ、西側の人々のために、この紛争をどう呼ぶのがいいのか努力している結果である」) 
 
 "We remain committed to our friends and allies in the region and to countering al-Qaida inspired extremism where it manifests itself. But one of our goals is to lessen our presence over time, [and] we didn't feel that the term 'Long War' captured this nuance." 
 
 「同地域の友人や同盟国にコミットし、アルカイダの過激主義に対抗していくが、われわれの目標のひとつは、われわれのプレゼンスをやがて減らしていくことであり、“長い戦争”という言葉はこのニュアンスを含んでいないように感じられる」 
 
 同紙によると、これは中央軍の文化・言語の専門家の勧告によるもので、ファロン司令官が了承したという。同広報官は、"We continue to look for other options to characterize the scope of current operations." (別の言い方は検討中である)としている。 
 
 ビザイド司令官が”Long War“という使い始めてから、ブッシュ大統領も2006年1月の一般教書演説で、"Our own generation is in a long war against a determined enemy."(われわれの世代は決然とした敵との長い戦いの中にいる)と述べた。 
 
 同年2月に発表された国防総省の「4年ごとの国防見直し」(QDR2006)では、"The United States is a nation engaged in what will be a long war."(米国は長い戦争に入っている)という文章で序文が始まり、第一章の表題は”Fighting the Long War”であった。そして、”long war”という言葉は34回も使われた。 
 
 QDR2006では、“This war is both a battle of arms and a battle of ideas – a fight against terrorist networks and against their murderous ideology.”(この戦争は武器による戦いであると同時に思想による戦い、テロ・ネットワークと殺人イデオロギーとの戦いである)とした。また、“Victory will come when the enemy’s extremist ideologies are discredited in the eyes of their host populations and tacit supporters, becoming unfashionable, and following other discredited creeds, such as Communism and Nazism, into oblivion.”(勝利は、ナチズムや共産主義に対して勝利した時と同様に、敵の過激主義的主張が支援者の信用を失い時代遅れのものとなったときに訪れる) 
 
 ニューヨーク・タイムズ紙(4月24日)によると、ホワイトハウスや国防総省が中央軍の決定通りに”Long War”という言葉の使用をやめるかどうかは不明という。中央軍司令部はまた、アルカイダに対して使っていた"Salafist Extremist Network"という言い方もやめた。さらに、米下院軍事委員会も最近、同委員会の報告書では”global war on terror”、”long war”という言葉を使用するのを禁じた。 
 
 9・11テロ事件以来、ブッシュ政権は対テロ戦略を”Global War on Terror(GWOT)”という呼び方をしてきた。ネオコンのエリオット・コーエンやノーマン・ポドレツは、“Cold War”(冷戦)が“World War III”(第3次世界大戦)であったという論理で、“World War IV”(第4次世界大戦)という呼び方をするよう働きかけたが、流行らなかった。 
 
 ラムズフェルド国防長官は、”war”という言葉が狭い軍事行動を示唆することから、”war on terror”という言葉を嫌っていた。2005年に、"global struggle against violent extremism"(暴力過激主義に対する世界闘争)という呼び方に変えようとしたが、大統領の反対で潰された。 
 
 保守系シンクタンク・ヘリテッジ財団の研究員で「Winning the Long War: Lessons from the Cold War for Defeating Terrorism and Preserving Freedom」という著書があるJames Jay Carafanoは、ワシントン・タイムズ(4月28日)で下院軍事委員会の動きを批判した。 
 
 Acknowledging that America is waging a long war is essential. It must be recognized to ensure this nation takes the right steps to win. It's just as important as when we called the Cold War "cold," which helped Americans understand we couldn't defeat the Soviet empire through direct military confrontation. 
 
 (米国が長い戦争を戦っているということを認めることが不可欠である。勝利するためには正しい措置を取らなくてはならない。冷戦を“冷たい”と言ったように重要である。米国人が、直接的な軍事対決ではソ連帝国を打ち負かすことはできないことを理解するうえで役立った) 
 
When Congress tries to call a particular war by the wrong name, it risks losing sight of what needs to be done. 
 
 (議会が特定の戦争を間違った呼び方をしようとすると、何をすべきか見失ってしまう危険がある) 
 
Simply changing words won't change the war's nature. Changing words substitutes rhetoric for substance and sound strategic thinking. 
 
 (単に言葉を変えることでは戦争の性格を変えることにならない。言葉を変えることは、本質と健全な戦略的思考の代わりに、修辞を用いることである) 
中央軍司令部の決定に批判的なネオコン論者のMax Bootは、ウォールストリート・ジャーナル紙(4月25日)への寄稿を、皮肉を込めて次のように締めくくっている。 
 
 Perhaps Centcom can sponsor a contest to “name this war.” Oops. Sorry. Can’t call it that. Maybe “name this thingamajig”? 
 
 (中央軍司令部は「この戦争に名前をつける」コンテストをしたらどうであろう。おっと、失礼。戦争という言葉は使えないんだ。「この何とかいうものの名前をつける」とでも言おうか) 
 
 クリントン大統領のスピーチライターであったTed Widmer は、ボストン・グローブ紙(4月28日)で“Fighting words The administration's rhetorical quagmire”(売り言葉 政権の修辞的窮地)と題し、次のように述べている。 
 
 We are trapped in a rhetorical quagmire every bit as profound as our military stalemate. And this rhetorical predicament itself represents a deeper failure: an inability to understand our historical moment. 
 
 (われわれは、軍事的行き詰まりと同じように、修辞的窮地に深くはまっている。この修辞的苦境は、歴史的瞬間を理解することができないという、より難しい失敗を表している。でいる) 
 
 If we can't describe this war, we've already lost it. We are Americans ― we can handle the truth. 
 
 (もしこの戦争の名前をつけることができないのなら、すでに負けているということである。われわれは米国人である。われわれは真実に耐えられる) 
 
参考サイト 
 
http://www.tbo.com/news/metro/MGBJ65IOO0F.html 
http://www.iht.com/articles/2007/04/24/news/war.php 
http://washingtontimes.com/commentary/20070427-090101-9079r.htm 
http://www.cfr.org/publication/13196/name_that_war.html 
http://www.boston.com/news/globe/ideas/articles/2007/04/29/fighting_words/ 


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