2007年06月11日16時04分掲載  無料記事
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時事英語一口メモ

【27】「資本主義の王」と国家資産基金 中国の陰謀?

ブログ版 
 
 投資リターンを最大化するために、外貨準備の一部を運用するsovereign wealth fund(SWF)の設立がここ数年相次いでいる。中国が外貨準備のうち30億ドルを米プライベートエクイティ(private equity)大手のブラックストーン・グループに投資することを決めたことで、英文の新聞・雑誌はSWFについて相次いで取り上げている。SWFは巨大化することが見込まれており、外貨準備の債券(bond)から株(equity)へのシフトは国際金融市場に大きな影響を与えそうだ。(鳥居英晴) 
 
 SWFに関する記事で必ず引用されているのが米国の投資銀行モルガン・スタンレーの通貨首席エコノミスト、スティーブ・ジェン(任永力)のレポートである。彼は、外貨準備のSWFへの構造的シフトの重要性を強調してきた。sovereignとは統治者、主権国という意味。金融関係でよく出てくるsovereign bond(ソブリン債)は、国債、政府機関債など、中央政府により発行・保証された債券。sovereign debt ratingsは国債の格付のことである。レポートの日本語訳では、sovereign wealth fundは「国家資産基金」と訳されている。これが定訳になりそうだ。 
 
 ブルームバーグ・ニュースのコラムニスト、ウィリアム・ペセックは“A $12 Trillion Monster Threatens Globalization”(12兆ドルのモンスター、グローバリゼーションを脅かす)と題するコラム(6月8日)で次のように述べている。 
 
 Until now, sovereign wealth funds grew out of oil revenues and were used to stabilize energy markets. Amid high oil prices, they're morphing into public wealth accumulation accounts. And as currency reserves swell, governments are scrambling to make better use of them than parking the cash in U.S. Treasuries. 
 
 (今まではSWFは石油収入から生まれ、エネルギー市場を安定させるために使われていた。石油価格が高騰する中、それらは公共資産蓄積勘定に変わっている。外貨準備が膨らんでいくとともに、各国政府はそれを米国財務省証券として預けておくより、もっと有効に使おうと躍起になっている) 
 
 アジアでは1997年の金融危機以来の10年間で、数兆ドルの外貨準備が積み上がった。 
 
 Officials in Beijing, Tokyo, Seoul and elsewhere have in a sense created a financial monster. They can't easily dump reserves; markets will get wind of it, drive asset values lower and leave governments with massive losses. They also can't stop stockpiling reserves because their currencies would surge. 
 
 (北京で、東京で、ソウルで金融モンスターが生まれている。外貨準備を容易に投売りすることはできない。市場がかぎつけ、資産価値は下落し、政府は膨大な損失を被ることになる。外貨準備の積み上げを止めるわけにもいかない。なぜなら、通貨が値上がりしてしまうからだ) 
 
 モルガン・スタンレーのリポート(5月8日)によると、世界全体のSWFの規模は、現時点で2兆5000億ドル。2011年末までには、世界全体の外貨準備の規模を上回る可能性があり、2015年には12兆ドルに達すると見込まれる。これは米国の現在の国内総生産に匹敵する。 
 
 SWFを運用しているのはアラブ首長国連邦のアブダビ投資庁(ADIA、資産残高8750億ドル、1976年設立)、シンガポール政府投資公社(GIC、同3300億ドル、1981年)、シンガポールのテマセク・ホールディングズ(同1000億ドル、1974年)など。英紙フィナンシャル・タイムズ(5月24日)によると、SWFを設立している国は、25カ国に上る。 
 
 中国は3月、1兆2000億ドルを超す外貨準備について、リターン拡大とリスク分散を目指し、その一部を運用する国家外貨投資公司を設立すると発表した。同公司は、中央匯金投資公司(国有商業銀行の持ち株会社)を母体に、2007年内に設立される予定。運用規模について、中国国営メディアは最大2000億ドルになる可能性があると報じている。その最初の投資先がブラックストーンになった。 
 
 プライベートエクイティ会社は経営改革の必要な企業を買収し、利益を生み出せるようになってから、売却することで儲けを得ている。ブラックストーンは、中国による出資とは別にニューヨーク株式市場で40億ドル規模の株式公開を予定している。 
 
 モルガン・スタンレーのジェンによれば、アジアの非石油輸出国が一段と重要な役割を担うようになる。石油を中心にしたSWFの割合は次第に低下し、2015年ごろには全体のうち半分になる。中国の国家外貨投資公司は2009年までにADIAを追い抜き、単体として、最大のSWFにのし上がると見込まれる。ジェンのレポートは次のように述べている。 
 
 Back in the 1980s, Japanese investors bought US properties. In early 2000, Russian investors bought football clubs and Middle Eastern investors bought race tracks. The SWFs of tomorrow are likely to have quite a different taste in assets. 
 
 (1980年代、日本人投資家は米国の不動産を購入した。2000年初頭、ロシア人投資家はサッカークラブを買い、中東の投資家は競馬場の購入した。将来のSWFは資産に対してまったく異なる趣向を示す可能性が高い) 
 
 Higher-tech companies and even foreign banks could be primary targets of these funds. The US is expected to be defensive on this front. 
 
 (ハイテク企業だけでなく外国銀行さえもSWFの主たるターゲットになりえる。その場合、米国は守勢に立たされそうだ) 
 
 Financial protectionism is the flip-side of trade protectionism, in my view. While the arguments in favor of and against trade protectionism are clear, the pros and cons of resisting foreign capital are not yet clear, and how various countries will react is also unclear. 
 
 (金融保護主義は貿易保護主義の裏面である。保護貿易主義については、その賛否両論は明快だが、外国資本に抵抗することの賛否は今のところまだ明確ではなく、各国がどのように反応するかも不明確である) 
 
 In any case, I believe that there is a distinct risk that foreign funds turning from creditors to owners will trigger reactions from the recipient countries that will undermine globalization. 
 
 (債権者から所有者に変わる海外基金は、これはグローバリゼーションへ悪影響を及ぼす可能性のある、受け入れ国からの反応を引き起こす危険がある) 
 
 I believe that SWFs will become absolutely massive in size in the not-so-distant future, and will have powerful implications for the financial markets…I am increasingly concerned about financial globalization as a reaction to the emergence of these funds. 
 
 (SWFはそう遠くない将来、規模の上で決定的に巨大化し、金融市場にとって大きな意味を持つようになると思う。わたしは、金融のグローバル化をこうしたファンドの台頭に対する反応としてますます、関心を持っている) 
 
 
 英誌エコノミスト(5月24日)は、“The world's most expensive club”(世界で一番の金持ちクラブ)と題するSatoshi Kambayashiの記事を載せている。 
 
 With $1.2 trillion in foreign-exchange reserves and the pool growing by more than $1 billion every day, China casts a giant's shadow over the global financial markets, even if it has mostly used the money to pile up American Treasury bonds. The announcement on May 21st that it would invest $3 billion of its reserves in Blackstone, a New York-based private-equity firm soon to issue shares, shows that it is prepared to barge into murky private markets as well as liquid public ones. 
 
 (外貨準備が1.2兆ドル、しかもそれが毎日10億ドルずつ増えていく中、それで米国債を買うだけだとしても、中国は世界の金融市場に巨大な影を落としている。中国が5月21日、株式をまもなく公開する予定のプライベートエクイティ会社のブラックストーンに30億ドルを出資すると発表したことは、中国が流動的な公的市場だけでなく、秘密めいたプライベート市場にも進出しようとしていることを示している) 
 
 Of the biggest sovereign funds, only Norway's provides anything close to transparency. Each year it discloses its investment portfolios and returns. Without such a window on their investments, it is hard to fathom the interests of other funds―how they vote on shareholder motions, for example. There are likely to be questions about strategic objectives, too. What will they care about most? Economic returns, political objectives, securing strategic resources? It will be hard to tell. 
 
 (最大のSWFのうち、ノルウェイだけが透明性を保持し、毎年、資産構成と収益率を公表している。このため、他のファンドの狙いを推し量ることは難しい。戦略目標は何なのか。一番の関心は何なのか。経済的利益なのか、政治目的なのか、あるいは戦略資源の確保なのか。見分けるのが難しくなるであろう) 
 
 SWFが投資する資産が、摩擦を起こすこともある。シンガポールのテマセクがタイのタクシン前首相の通信会社を買収した際、騒動に巻き込まれた。昨年1月、タクシン一族は通信最大手シンの株式約50%をテマセクに733億バーツで売却した。この取引は個人によるタイ証券取引所での株売却として所得税が課税されなかった。これがきっかけで、反タクシンの運動がバンコクで盛り上がり、9月のクーデターへとつながって行った。 
 
 国営中国海洋石油(CNOOC)は2005年、米ユノカルを買収しようとしたが、米議会などから反発を招き、撤退を余儀なくされた。ブラックストーンの議決権のない株の取得で、中国はユノカルの取引を妨害されたような制約を避けることができるであろう。 
 
 “Crony capitalism? It is a marriage made in heaven―a partnership that does not want investors to ask questions with a country whose firms do not want investors to ask questions. I worry about the serious conflicts of interest this generates. More generally, government entities shouldn't be in the business of investing in private firms,” opines Raghuram Rajan, of the University of Chicago's Graduate School of Business. 
 
 (シカゴ大学ビジネススクール教授、ラグラム・ラジャンは次のように言う。「縁故資本主義ではないか。これは理想的な結婚である。投資家から何も言われたくない企業と、投資家から何も言われたくない国との組み合わせである。わたしは、これから発生する重大な利害相反について憂慮している。一般的に言って、政府機関は私企業に投資すべきではない」) 
 
 ラジャンは国際通貨基金(IMF)の調査局長を務めていた。 
 
 フィナンシャル・タイムズは5月24日、“How sovereign wealth funds are muscling in on global markets”(SWFはどのように世界市場に入り込んでいるのか)というTony TassellとJoanna Chungによる記事を載せた。 
 
 各国の中央銀行が外貨準備の運用を債券から株式へと変えることの大きな問題は、米国債への影響である。 
 
 If buying eases, bond yields could rise and prices fall. Although countries with large foreign exchange reserves in US bonds are unlikely to want to risk damaging the value of their investments through heavy sales of them, a greater share of new reserve accumulation will flow into non-bond assets. 
 
 (もし買いが手控えられると、債券利回りは上昇し、価格は下落する。外貨準備の大部分を米国債にしている国々は、それを投げ打って投資価値を損なう危険は冒したくないであろうが、新たな外貨準備は非債券資産へ流れるであろう) 
 
 国際通貨基金(IMF)は最近、SWFのような公的機関が世界の金融市場で大きな役割を演じていることの危険性について警告した。 
 
 The operations of SWFs can also raise political issues. Even if they are set up as independent bodies, they still face questions over whether funds are operating on a purely commercial basis or to fulfill broader government aims. “In some cases, assets may be shifted for political-strategic reasons rather than economic and financial reasons,” said the IMF. 
 
 (SWFの運用が政治的問題を引き起こす可能性もある。独立した機関として設立されたとしても、ファンドが純粋に商業的なベースで運用されているのか、広範な政府の目的を満たすために運用されているのかという疑問に直面する。IMFは「ある場合には、資産が経済的・財政的理由ではなく、政治戦略的理由で動かされるかもしれない」と言う) 
 
 
 “The Chinese plot against capitalism An odd coupling of communism and private equity”(反資本主義の中国の陰謀 共産主義とプライベートエクイティの奇妙な組み合わせ)と題するエコノミストのコラム(5月29日)は、ブラックユーモアだと思うが。 
 
 Private-equity firms are the new kings of capitalism. They buy up controlling stakes in big companies, and raise profitability by improving corporate governance. Until now, that is. What better way for China to set back capitalist industry than by buying into private equity, and thereby exerting its pernicious influence beyond the scrutiny of public stockmarkets? 
 
 (プライベートエクイティ会社は資本主義の新たな王である。彼らは大企業の支配的な保有株式を買い、企業ガバナンスを改善して収益性を上げる。今までのところはそうである。中国にとって、資本主義産業を妨害するために、プライベートエクイティの株を買って、公募株式市場の審査を超えた破壊的影響力を行使することほど上手い方法があるであろうか) 
 
 プライベート・エクイティ会社を"new kings of capitalism"と最初に呼んだのはエコノミスト誌(2004年11月25日)である。 
 
 And don't let's be fooled by all the recent talk that China has embraced capitalism―to the point of allowing that American business icon, Starbucks, to set up shop in the Forbidden City. This is surely a Muhammad Ali-style rope-a-dope move to make the enemy complacent before the decisive blow is struck. This column knows a plot when it sees one. This is China we are talking about―and capitalists, especially Americans, should be afraid, very afraid. 
 
 (中国が資本主義を受け入れたなどという最近の話にだまされてはいけない。米国企業の象徴、スターバックスが紫禁城の中に店を出すことが許されたというのもそうである。これはまさに、モハメド・アリの消耗作戦である。決め手となる一撃を撃つ前に、敵を満足させるのである。陰謀は分かっている。こと中国に関しては、資本家、特に米国人は十分気をつけるべきである) 
 
 
参考サイト 
 
http://www.morganstanley.com/views/gef/archive/2007/20070504-Fri.html#anchor4840 
 
日本語訳(PDF) 
http://www.msdw.co.jp/securities/jef/wib/070508/index.html 
http://www.msdw.co.jp/securities/jef/wib/070320/index.html 
 
http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=20601039&refer=columnist_pesek&sid=aPh8aKUVEjFI 
http://www.economist.com/printedition/displayStory.cfm?story_id=9230598&fsrc=RSS 
http://www.ft.com/cms/s/ffcc6948-0a21-11dc-93ae-000b5df10621,Authorised=false.html?_i_location=http%3A%2F%2Fwww.ft.com%2Fcms%2Fs%2Fffcc6948-0a21-11dc-93ae-000b5df10621.html&_i_referer= 
http://www.economist.com/daily/columns/businessview/displaystory.cfm?story_id=9247909 


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