2007年09月14日18時31分掲載  無料記事
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中東

「出口なきイラク戦略」と野党は批判 現状維持で突っ走るブッシュ政権

 ブッシュ米大統領は13日、泥沼化している対イラク戦争をめぐり、民主党や与党共和党の一部から要求されていたイラク戦争の政策見直しを行わない考えを表明した。大統領は現在支持率が36%に低迷し、世論はイラク戦争反対に傾いているが、ことし1月から始まった増派作戦で治安面で回復がみられ、成果があがったことを強調し、初めて駐留米軍の撤収日程を明らかにした。しかし、08年7月半ばまでに撤収する兵士数は、1月に始まった増派分をそのまま減らすというもので、結果的に駐留兵士は2006年12月段階の兵士数とほぼ同じか、あるいは多目の「13万人+アルファ」の数字に戻るだけ。野党民主党は、「イラクに対し、出口なき、無制限な軍事的関与を続けるもの」と強く反発している。(有馬洋行) 
 
 米国世論は3人のうち2人は戦争に反対している。2006年11月の米連邦議会中間選挙で、野党民主党が大きく躍進し、上下両院で多数を握ったが、これはブッシュ政権のイラク戦争などに反対する国民が民主党に集まったものだった。 
 
 このため、ブッシュ大統領を担ぐ共和党は、08年の大統領選挙を控え、民主党候補にホワイトハウスを奪還されると危機感が広がり、一部の共和党実力者からも、撤退などの具体的な日程を公表し、国民の間に広がるブッシュ・共和党批判の声を和らげるべきだとの意見が上がっていた。 
 
 こうした思惑が広がる中で、ブッシュ米大統領は13日夜、テレビのゴールデンアワーに対イラク戦争についてホワイトハウスから演説し、ことし1月から開始された3万人の増派作戦が成功したため、2008年7月半ばまでにイラク駐留米軍兵士を約3万人撤収させることを明らかにした。 
 
 撤収は今月から直ちに始まり、クリスマスまでに5700人の兵士が帰還する。現在の駐留米軍数は16万9000人で、予定では来年7月までに増派前の13万人台の規模に戻る見通しだ。しかし、7月以降の撤退見通しは明らかにされていない。 
 
 今回の撤退日程の公表は、ブッシュ大統領が、共和党の議会関係者の“懇請”に応えたものといえるだろう。しかし、これによって共和党に対する世論の風当たりが和らぐかはかなり疑問だ。 
 
 また大統領は、イラク指導部からの要請もあり、米国がイラクとの「永続的な関係」を続けるためにも、ブッシュ大統領の任期が切れる2009年1月を超えて、米軍の関与は必要との認識を示した。03年3月の開戦から4年半が経過し、米軍兵士の死者数は3775人に達し、これまでに4500億ドルが費消されている。 
 
 民主党は、米軍のイラクからの大規模撤収を呼びかけているが、ブッシュ演説の後、ペローシ米民主党下院議長は、米軍の駐留が10年間に及ぶ恐れがあると、政策変更に動かないブッシュ大統領を批判。戦費も今後5年間で7000億ドル必要になると指摘している。 
 
 ブッシュ大統領は、来年7月以降も13万人規模を継続する考えを示唆しているが、大統領が言及した「永続的な関係」が、具体的にどのような形を目指すものかははっきりしない。 
 
 米軍が恒久的な軍事基地を確保するのかなど、具体的にブッシュ大統領が何を頭で描いているのかは、不明な点も多い。確かなのは、ブッシュ大統領の任期中は、イラクから撤退せず、現状維持で突き進むという考えのようだ。 
 
 ことし1月始まった増派作戦は、テロに見舞われた首都バグダッドなどの治安を回復し、治安を回復させた後で、宗派間の政治的和解を実現し、各種の法律を整備して、安定した政府を実現させるというのが最大の狙いだった。 
 
 しかし、最近米議会で証言したイラク駐留軍のペトレイアス司令官の発言にもあるように、バグダッドやイラク西部のアンバル県で治安回復がみられたものの、政治和解は「マイナス」の評価になっている。ブッシュ大統領は、治安回復だけを取り上げ「成功した」と強調しているが、かなり自分に都合のいい解釈といえなくもない。 
 
 イラクのアンバル県では13日、親米のイスラム教スンニ派のアブドルサッタール・アブリーシャ部族長が仕掛けられた爆弾で殺害されている。 
 
 かつて治安の悪かったアンバル県は、地元部族と米軍が協力し、アルカイダ系の武装勢力を追い込んだ例として、ブッシュ大統領も賞賛。3日にイラクを電撃訪問した際も、同部族長と面会していた。ブッシュ演説は、この部族長が殺害された直後に行われるという皮肉な状況になったが、これもイラクの今後の進展が依然、不透明なことを象徴している。 


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