2007年10月15日13時07分掲載  無料記事
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<書評>日本国際ボランティアセンター編『軍が平和をつくるんだって? アフガニスタンで起こっていること』  評者・小倉利丸

  11月1日で期限が切れる「テロ対策特別措置法」の延長問題が国会の争点になっている。しかし、「対テロ戦争」という戦争の実態はいっこうに明らかにされないまま、「国際社会での責任」という言葉だけが一人歩きしているのが実情だ。そんななか、アフガニスタンで人道支援の活動をしているNGO「日本国際ボランティアセンター」(JVC)が、アフガニスタンで行われている対テロ戦争の実態とその欺瞞性をつくブックレットを発行した。 
 
  このブックレットは、軍隊による人道支援や復興援助が本当に好ましいといえるのかどうかという問いかけに焦点をあてて、第一部「JVCからの報告」と第二部「シンポジウム」の二部構成をとり、第一部では、政治情勢が不安定で治安が安定しないなかで、軍隊自体が人道支援に乗り込む弊害をアフガニスタンの事例から明らかにしている。 
 
  第二部では日本政府関係者などもふくめて立場の異なる人たちを交えたシンポジウムの記録である。 
 
  自衛隊のイラク派兵も戦闘部隊を送るのではなく人道支援だから問題はないという口実が通用したように、軍隊が人道支援をすることに疑問をもたない人たちは、政治家やマスコミ含めて多数意見のように見える。 
 
  しかし、本書はアフガンの具体的な事例によって、軍民一体となった人道支援や復興援助は戦争から平和への確実な道筋をつけるどころかむしろ、NGOや民間ボランティアもふくめた全ての人々を危険にさらすと現実を具体的に示した。 
 
  たとえば、軍と文民がチームを組んで復興支援を行うアフガンの地域復興チーム(PRT)では、戦闘が終結しない段階から軍がNGOや民間団体をまきこむ。軍は人道支援の枠組を利用して作戦に必要な情報収集をおこなったり、人心掌握のために物資ばらまいたり、NGOの拠点を勝手に利用しようとする。 
 
  その結果として、一般の人たちにとって軍隊と人道支援のNGOとの区別はつきにくくなり、NGOや民間ボランティアグループは「中立」性を保てなくなる。 
 
  本書は、このこれまで建前として語られてきた人道支援の中立性が現実には「幻想」でしかないことを具体的に示すと同時に、人道援助の政治性を見据え、政治的に正しい人道支援の構築を目指すことが必要だという問題提起を投げかけている。 
 
  第二部のシンポジウムを読むと、逆にこうした問題提起が決して容易ではないことに気づかされるのだが、しかしそうであるからこそ人道支援名目で軍隊を派兵すべきでないという原則の重要性にあらためて気づかされる。(ピープルズプラン研究所共同代表、富山大学教員) 
 
  定価476円+税。ご注文は日本国際ボランティアセンターまで。電話03−3834−2388、FAX03−3835−0519。 


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