2007年11月15日00時14分掲載
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同性愛カップルにも養子縁組の権利を 選択できないものほど差別すべきでない 仏・緑の党に聞く
ニコラ・サルコジ大統領は選挙公約で同性カップルの権利を保障するため、イギリスで導入されている「シビル・ユニオン制度」を実現すると公約した。この制度は結婚制度とは名前は異なるが、同性カップルに結婚とまったく変わらない権利・社会的保障を与える制度だが、現在のところ、サルコジ氏は公約を実現しようとする気配は見られない。フランスの緑の党は公約を実現し、同性カップルの結婚を合法化すべきだと政権に迫っている。同党前党首のヤン・ヴェーリングさんにこの問題をめぐるフランスの状況を聞いた。(及川健二)
緑の党はフランスでもっともLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)の人権問題に熱心に取り組んでいる。同性カップルの結婚合法化を初めてマニフェストに銘記した政党であり、同性愛者差別を禁止する法律を提案し、2004年12月に与党の賛成を受け、成立させている。緑の党はなぜ、LGBTの問題を重視するのか? 同党の前党首でイラストレーターのヤン=ヴェーリングさんは、メールでの質問に以下のように答えた。
――ヤンさんは2005年6月と2006年6月にパリで行われたゲイ・パレードに参加しましたね。同性愛者のパリ市長・ベルトラン=ドラノエさんの隣に立ち、先頭を歩いていた。緑の党がLGBTの権利のために熱心に働きかけている理由は。
ヤン・理由は簡単です。今日の私たちの社会の大きな問題のひとつは、差別が増えていることです。フランス人は自分の国が伝統的に人権に関しては世界一優れた国だと思っています。しかし、人権のことを言うなら、まずフランスに何も問題がないのか省みる必要があります。実際には問題だらけだと分かるでしょう。フランスでは、人が2人いたら2人とも同じ権利を持っているとは限らないのです。それが現実です。私たちは、差別を認識し、それに対して闘っています。差別は、例えば、長い間フランス人である人に比べ、外国人に向けられています。また、貧しい階層の出身か裕福な階層の出身かでも差別がある。性的志向に関しても差別があります。
LGBTは他の人々と同様の権利を有していません。異性カップルと比べて、結婚と養子縁組に関して同じ権利が認められていません。この2つは、本当の差別だと思います。
▼同性愛について国民運動連合と社会党を採点すると?
――与党である国民運動連合(UMP)の同性愛に関する政策についてどう思いますか。
UMPは同性愛の権利に貢献していると思いますか?
彼らは口で言うだけで、実際には行動していません。UMPはかなり的をしぼった政策をとっています。ある階層の同性愛のカップル、しばしば裕福で、異性愛のカップルと同等の権利は要求しないが、税金面で同じ権利を求めるような人たちです。そのため、UMPは税金面の問題を解決しました。しかし、UMPの議員たちの大半は、実際は「ホモ嫌い」なのです。彼らにとっては理解を超えていて自然に反すると思っています。そのため、同性愛者の権利が異性愛者と同等になるまで物事が進むことは決してないでしょう。UMPは「ホモ嫌いではないというイメージ」を保とうとしているが、UMPの上層部が戦略として「LGBTの権利」をうたっているだけで、根本では議員たちは同性愛者の権利には反対しているのです。だから、同性愛者の権利に関する法案には反対票を投じます。
たとえば、「同性愛は人類にとって脅威だ」と差別発言をして有罪判決を受けたクリスチャン・ヴァネスト下院議員はUMPと下院で同一会派を組んでいます。同性愛者が敵視するこの議員を会派に加えるとは、UMPの二枚舌を表しています。
さらに、ニコラ・サルコジ大統領は公約でイギリスのシビル・ユニオン制度を実現すると約束しましたが、いま現在、実現に向けて何ら行動を取っていません。税金に関しては政府が議会を通さずに決めたのです。UMPは二枚舌を使っていて、決して物事を前には進めません。
――社会党については。
社会党は以前に比べたらずいぶんと進歩しました。長い間ためらっていましたが、それは反対していたからではなく、LGBTカップルに同等の権利を認める必要性が理解できなかったからです。それが進歩し、社会党とともに私たちは異性カップルのみならず同性カップルも結べる結婚よりは緩い準結婚制度「パクス」を制定・実施したのです。パクスがつくられたとき、緑の党は社会党のパートナーとして政権に参加していました。パクスは同性カップルの権利を保障し、LGBTカップルを社会的・法的に認める最初の一歩となりました。
しかし、パクスで終わらせるのでなく、もっと先まで進まなければいけません。つまり、同性カップルの結婚と養子縁組の権利も合法化されなければなりません。現在のフランスでは成人の独身者は養子をひきとることができます。しかし、同性カップルが2人の子どもを養子にとることは禁じられています。この2つの問題について社会党は、パクスのときと同様に、最初は反対していました。それからノエル=マメール氏が男性同士の結婚を認め、論争になり、社会党は結局結婚についてはOKし、2007年になってやっと養子縁組にも賛成するようになりました。彼らは圧力をかけられて前に進むのです。そう信じているからではなく、そうしなければいけないから進むのです。
―パクスが1998年に施行されたとき首相だった社会党のリオネル・ジョスパン氏はパクスに賛成していますが、同性婚には反対していますね。
政権内部にいたので知っていますが、ジョスパン氏は当初、パクスには賛成ではなかった。その後、賛成に変わり首相のときにパクスを批准させました。当時、パクスが初めて下院で審議されたとき、社会党の議員がすべて退場してしまい、投票できず法案は一度、葬り去られます。その後二度目に、マスコミに叩かれて投票に至りました。つまり社会党はこの問題については本当にゆっくりしか進まないのです。ジョスパン氏は、LGBTの問題については既に十分なことをしたと考えています。パクスには賛成したし法案も大変だったけど通した、と。しかしそこで終わりで、これ以上はやらないという立場なのです。ジョスパン氏は社会党のなかでも古い世代ですが、社会党の若い世代は同性カップルの結婚と養子縁組の権利に賛成しています。パクスというシステムは残るでしょうし、いい制度だと思います。ただ、二人で暮らすときに様々な可能性がありますよね。同じ家に暮らしつつ何もしないか、契約としては軽い内縁にするか、もう少し進んでパクスするか、あるいは一番責任の重い結婚をするか。これらの可能性が同性カップルも含むすべてのカップルに与えられねばなりません。結婚はまだ同性カップルには認められていないわけですからね。
――緑の党が政権を執ったら、同性愛者の権利のためにどのような政策を提案しますか。
ヤン 第一に、同性カップルの結婚と養子縁組の権利を認めることです。第二にホモ嫌いに対する闘いを進めることです。人種差別や反ユダヤ主義同様、同性愛に対する差別を禁じる法律をつくり、これを罰しなければなりません。現在でも罰せられますが、LGBTであることが問題にならないようにもっと先まで行かなければなりません。今日、外国人、特に黒人やマグレブ人(※チュニジア・アルジェリア・モロッコの出身者やその2世・3世)には様々な困難がつきまといます。人種差別を禁じる法律があってもです。差別に対する闘いは十分ではありません。差別に対してもっと厳しい法律をつくらなければ、人々は差別をしてもたいした問題ではないと考え続けるでしょう。差別は本当にいけないことだということを伝えなければいけないのです。国家がこれを禁じなければ、許されていると思ってしまうでしょう。
▼子どもの「親を選ぶ」権利は?
――養子縁組をされる子どもは親を選べないという理由で、LGBTカップルの養子縁組に反対する人々をどのように説得しますか。
養子縁組するときは、いかなる場合でも子どもは親を選べません。親が子どもを選ぶのです。私が思うのは、いずれにせよ、子どもは親を必要としているということです。すべての子どもにとって、親がいないよりいる方が好ましい。子どものことを愛し、そして両親が愛し合っていれば、性は何の重要性もありません。男の両親でも、女の両親でも、男と女の両親でも、子どもにとっては何の関係もないでしょう。今日では、同性カップルに育てられた子どもについて調査した研究の結果が報告されていますが、異性カップルに養子にもらわれた子どもと比べて特別な問題はありません。同性カップルに育てられると子どもも同性愛者になるというのは全く誤りです。
―フランスでは結婚にキリスト教的な意味を持たせていると思いますが、それについては。
たしかにキリスト教的な意味もありますが、民事的な意味もあるでしょう。結婚とは教会で誓うだけでなく、国家に対しても誓うのです。それにフランスでは、結婚も政教分離していて、結婚するときはまず市役所で、それから教会でおこないますし、市役所だけで結婚式をして教会でしない人もいます。結婚には宗教的意味と民事的意味があるわけです。それぞれの人が結婚に対して自由に考える権利があります。私は結婚したくありませんが、それは私の問題で、結婚する権利は持っていたい。結婚は宗教的だとか古い制度だとか考えるのは自由です。でも、結婚するかしないかを決めるのは本人であって、国であってはなりません。
―緑の党のノエル・マメール下院議員がとりおこなったベーグル市の同性カップルの結婚についてどう思われますか。
もちろん賛成です。なぜなら、第一に私たちの考えに合っていますし、第二にフランスに大きな論争を巻き起こすことに成功したからです。ほかの政党や議員がそれに対して賛成したり反対したりするのは、何よりも彼らが結婚をとりおこなったからです。ベーグル市の結婚がなければ、同性カップルの結婚について議論されることはなかったでしょう。このような政治的・論争的行動をしたことはとても重要です。
▼選択できないものほど差別すべきでない
―ヤンさんが同性愛の存在を知ったのは、いくつの時、どのような状況においてですか。そのときどのように反応しましたか
私はストラスブールという大都市で生まれ育ち、たくさんの情報を得る手段があったので、社会には異性愛者以外の人もいるということはかなり早い時期に知りました。それについてショックを受けたことはありません。LGBTの権利のために闘わなくてはいけないと思ったのは、LGBTは選択してなるものではないと知ったからです。平等の権利が保障されなければならないのは当然ですが、特にその状況が自分で選んだわけではないとき、そのことで不利益を被ることがあってはなりません。例えば宗教に関しては、自分で選択できます。その選択できる宗教に関しても差別してはいけないのですから、選択できないものに関してはなおさら差別があってはならないのです。
▼増加するHIV新規感染者
―――毎年、フランスではHIVの新たな感染者数が増えています。この状況をどう考えますか。政府の政策は適切だと思いますか。
現在は、エイズに対する注意がゆるんでいる時期だと思います。公共機関の活動もゆるんでいます。エイズはもう解決済みの問題と思っている人もいます。性的交渉に注意が払われなくなり、特に今日ではコンドームの使用をやめてしまった人たちもいます。だから、私は積極的介入政策に戻る必要があると思います。10年前におこなっていたように、コンドームを無料で配ったり安く提供したり、学校や高校で注意を喚起したりする必要があります。10年間放置していたことを再び始める必要があります。エイズは全く解決しておらず、まだこの病気で亡くなる人がいるということを何度でも言い続けなければなりません。なぜなら、今日ではもうエイズでは死なないと思っている人もいるからです。また、エイズは発展途上国では更に大きな問題です。この問題には再び取り組む必要があります。
特に、この問題と一番関係のある社会階層で呼びかけなければいけません。といってもただポスターを貼るだけではだめです。施設に行って直接話し、資料を配り、特に若い人たちに説明しなければいけません。それから、安いコンドームの提供を再開するべきです。フランスではコンドームが高すぎます。実際に物を手にすれば問題を思い起こします。若い人のなかにはコンドームを手にしたこともない人もいるのですから。
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