2007年12月01日16時08分掲載  無料記事
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山は泣いている

11・異国の地での外来種は厄介者 生態系のバランスを崩すおそれ 山川陽一

  「あ!ここにこんな木が…」緑に覆われている夏や、葉をすっかり落とした冬場には目につかなかったのに、春、花が咲く時期になってはじめて気がつくことが良くある。 
 
 6月中旬、白神の森林ボランティア作業に参加するため高速バスで盛岡から弘前へ向かう道中、車窓を流れる風景は、濃い緑のスギの植林地の中に、白い花をいっぱいにつけた広葉樹の明るい林がパッチ状に張り付いた山なみが続いて、見事な針広混交樹林帯を形成していた。 
 あの白い花はなんだろう、そう思いつつ良くみると、それは全部ニセアカシアである。ニセアカシアは、北米原産のマメ科の植物で、明治初期に日本に移入された。成長が早いため砂防目的で工事跡地などに植えられたものであるが、繁殖力が旺盛で、全国各地で野生化して一大勢力になった。車窓から見られる盛岡近郊の風景も、今の状態になる以前は、スギ一色の植林地が続いていたのだろう。スギを一部伐採した後、植林しないで放置された跡地にニセアカシアが入り込み、一気に繁殖したものと推定される。本来なら、その地の潜在植生である在来樹種が生えてくるところであるが、競争力旺盛なこの進駐軍に完全制覇されてしまったようだ。 
 
 こういう外来種の繁殖は、樹木に限らず、いまや、動植物のあらゆる分野に及んでいる。 
 野の花の代表格であるタンポポなどは、全国どこに行ってもイナバウア風に襟首(苞)をそり返したセイヨウタンポポが巾を利かし、一生懸命探さないと見つからない程日本種のタンポポの影が薄くなった。見つけたと喜んでも、実際には雑勾配が進んだアイノコである可能性が大きいらしい。 
 
 川や湖沼では、ブルーギルやブラックバスが勢力を伸ばし、在来の淡水魚を食い荒らしている。強い引きが魅力で、ゲームフィッシングの対象魚としてもてはやされ、遊魚関係者によるひそかな放流で全国各地に広まってしまったとささやかれている。最近は、ペットで飼われていたミドリガメ(カミツキガメ)やワニガメが川や池で野生化して問題になっている。 
 
 沖縄本島や奄美大島では、ハブ退治の目的で放されたマングースが、ハブをやっつけないで、島固有の希少動物のアマミノクロウサギやヤンバルクイナを襲って絶滅の危機に追いやってしまった。 
 
 昆虫では、ハウス栽培のトマトの受粉用にオランダから輸入されたセイヨウオオマルハナバチが、管理の不行き届きから野生化し、猛威を振るい始めている。マルハナバチは花から花へ渡り歩いて蜜をもらい、そのとき体についた花粉を雌花に受粉させて歩く共生関係が確立されている。セイヨウオオマルハナバチは、蜜を集める段取りまでは日本のマルハナバチと同じであるが、舌が短く、長筒の花にもぐって蜜を吸う構造になっていないので、花のどて腹に孔を開けて盗蜜するだけで、花粉運搬者として機能しない。しかも在来のマルハナバチを淘汰してしまうほど繁殖力が旺盛のため、いま北海道で大きな問題になっている。 
 
 これらと逆のケースもある。日本のクズは北米で、イタドリは英国で厄介者の害草としてつまはじきされているらしい。 
 
 外来種は、異国の地では邪魔者であっても、ふるさとの原産地では、大抵の場合悪者ではなく、生物多様性の複雑な構造を形成する一ピースとして組み込まれ、相互依存の関係の中で不可欠の役割を演じている。それぞれの地域には、地球に生命体が誕生して以来の気の遠くなるような進化の歴史の中で、地域固有の生物界の共生構造が出来上がっている。それは、あたかも、組みあがった一枚の壮大なジグゾーパズルのようである。安直な人為によって、勝手にピースの差し替えや追加、抜き取りをしようとすると、生態系のバランスを崩し大問題を引き起こす。 
 
(やまかわ よういち=日本山岳会理事・自然保護委員会担当) 


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