2007年12月03日20時51分掲載  無料記事
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「ミャンマーに帰れば殺される」 宙に浮くロヒンギャ難民 日本在留求めた裁判闘争続く  

   群馬県館林市に住む在日ビルマ・ロヒンギャ協会会長のアウンティン・フセインさん(38)は、最古参のロヒンギャ系難民である。「中国の雲南省から来た中華系の人もミャンマーにはいます。彼らは(標準語の)ミャンマー語を話せなくてもミャンマー国民ですが、私たちはミャンマーで生まれビルマ語ができても国民扱いされません」。流暢な日本語で語るフセインさんは、バングラデシュとの国境に近い南西部のアラカン州の出身である。総人口に占める割合は4%。一説によれば250万以上。彼らは移民ではない。ミャンマーでもう数世代になるイスラム教徒である。(李隆) 
 
 少数派となったイスラム教徒はフィリピン南部のミンダナオにもいる。彼らも多数派のカトリック教徒に差別されている。しかし、憲法の理念上では対等である。 
 これに対してロヒンギャは1978年、ネウイン政権に迫害を受け、30万人が難民としてバングラデシュに流出。1982年の市民権法の改変で無国籍となったという。 
 第二次世界大戦後、理念的にも国民国家の枠から排除された民はミャンマーのイスラム教徒だけだろう。 
 
 第三世界は、西洋流の国民国家の模倣に狂騒し、反植民地運動のために宗主国の社会構造を手本に国家を作るという皮肉な事態を経験した。ミャンマーの場合は、近代国家作りの過程で、総人口の6割を占める仏教徒のビルマ人が国民国家の中心となった。60年代以降、政教分離を廃し、仏教を国教化して、イスラム教徒への憎悪を国民に注入しながら135の民族を束ねた。 
 1988年に現在の軍政が成立後、ロヒンギャはアウンサンスーチーさんの民主化を支持して弾圧され、91年から92年にかけて、タイ、マレーシア、バングラデシュに28万人のロヒンギャが流出。35万人のインドシナ難民に迫ったが、彼らの悲劇は日本では知られなかった。 
 
 そのロヒンギャの4人の青年が7月30日と8月24日に福岡地裁であいついで難民認認定しない処分の取消等を求めて提訴した。 
 
▼「どうか助けて」 
 
 原告の一人は、ミャンマーから陸路タイに脱出。タイで難民生活をしていた実兄からもらった2000ドルをブローカーに支払い、昨年春、偽造パスポートを持ち、日本に来て入管の手前で偽造パスポートを破棄し難民申請をしたが認められなかった。他方、入管側は、正規のパスポートで入国しようとした経済難民であるとし原告の言い分を否定する。 
 
 大きな争点のひとつは日本政府も調印している難民条約にもあるノン・ルフールマンの原則が彼らに当てはまるかどうか。ノン・ルフールマンの原則は、人権侵害を受ける危険性がある国への送還を禁じる。 
 不法滞在組も含めると日本にミャンマー人が一万人以上いるが、群馬県館林市にはロヒンギャは最大のコミュニティがあり120人程度がいる。彼らはぎりぎりの生活の中で蓄えた1500万円を投じ、同じスンニ派のパキスタン人と3500万円をかけて小さなモスクを建てている。 
 「ロヒンギャには国民登録もありませんでした。移動の自由、教育の機会もなかった。人権侵害以外のなんですか。今もあのころと同じですよ」と館林市でもう16年目を迎えたフセインさんはミャンマーの陰鬱な国内情勢を説明する。 
 
 意見陳述要旨書の中で別の原告はこう述べた。 
 私の叔父さんは,ミャンマーの軍隊に家を燃やされ,家族を殺されました。 
 私とおじさんの親戚は,その事件のことを警察へ尋ねに行った後,警察から尾行され,暴力をうけました。私はその場から逃げました が,私と一緒にいた親戚は,つかまって,殺されたそうです。私は,帰ったら絶対捕まります。捕まったら,絶対殺されます。 
 どうか,私を助けてください。お願いします。 
 
 4人の原告は、一年以上収容された長崎県大村市にある大村入国管理センターから仮放免され、群馬県館林市に一時的に身を寄せてい る。 
 フセインさんは彼らの保証人になり、一人あたり保釈金50万円を集めた。 
 
▼このままでは一生、大村センターに 
 
 大村市の柚之原寛史牧師(長崎インターナショナル教会)は、毎週一度、大村入国管理センターに面会に行く。そのたびに柚之原さんは異様な光景を目にしてきた。 
 
 看守役の職員は身元を隠すために名札もつけていない。戸外で運動できる時間はたったの45分。刑務所と違い作業時間はない。閉鎖環境の中で精神の異常をきたす者が多い。それでも精神安定剤を飲ませる以外の治療は行わない。最近まで常勤医もいなかった。 
 人道的配慮と待遇改善を市民団体関係者が求めても、センター側は保安を理由に拒否。だが、入管も彼らロヒンギャをミャンマーに強制送還することはできない。ミャンマーの軍事政権がロヒンギャ族をミャンマー国民と認定していないからである。強制退去できず、支援者が出てこないと、一生ちゅうぶらりんのまま施設に残る道しかない。 
 
 入管も食費などのコストを考え、身元保証人が名乗り出てくれば仮放免にする傾向にあるが、見せしめのためか、最低でも一年間は入管センター生活を強いられる。 
 「ロヒンギャは強制送還にもできません。仮放免にもせず、管理センターに長く入れておくことは嫌がらせでしかありません」と柚之原さんは苦悩する。 
 
 現在、不法入国者の収容先は三箇所。茨城県牛久市の東日本入国管理センター、大阪府茨木市の西日本入国管理センター、長崎県大村市の大村入国管理センターである。 
 
 いずれの入国管理センターも外圧の産物である。70年代後半からボートピープルがインドシナから日本にもやってきたとき、米政府や欧州各国からの要請を受けて、彼らの収容先として生まれたのが同センターである。職員に人権擁護意識は乏しく「難民申請者を人間扱いない」としばしば指摘されてきた。 
 
 今年10月18日には、大阪の西日本入国管理センターに収容されている約40人が「支給される食事に毛虫などの異物が混入している」と訴える事件も起きている。 
 
▼軍事政権べったりの在ミャンマー日本大使 
 
 ビルマ市民フォーラム運営委員でフォトジャーナリストの山本宗補さんは「山口洋一元ミャンマー大使は軍事政権側のプロパガンダを鵜呑みにして週刊新潮に書いていますが、こんな悪質なデマ記事がビルマ語に翻訳されて軍事政権に利用されるわけです。日本の高官も言っているぞ、と。ひどい外交官です。この男は民主化を拒否する軍事政権のPRマンそのものですよ」と憤慨する。 
 
 ミャンマーのODAの8割が日本から来ていた時期がある。霞ヶ関では無名の山口洋一元大使も、現地では影響力がある。問題とされた山口元大使の原稿の要点は次のとおり。 
 
(1)NLD(スーチーさんが率いる政党)が市民に金を払ってデモ隊に参加させた。 
(2)デモ隊が投石し、武器を奪おうとしたので、治安部隊が止むなく発砲した。 
(3)スーチーさんが米国から資金や物資を提供された。 
 
  被害者を加害者にするという悪質なデマの定石を踏襲した典型がここにある。 
 
 アウンサンスーチー女史単独取材で知られる山本宗補さんによれば、第三国再定住プログラムが、タイ政府の協力で国際移住機関(IOM)を通じて始まった。2006年は米に2681人、豪に757人、ノルウェーに355人、フィンランドに208人など、合わせて4913人のビルマ難民が欧米の先進10カ国に再定住。このうちの4519人はカレン難民キャンプ出身者だという。 
 
 背景には地理的要因がある。ロヒンギャはバングラデシュとの国境から近いアラカン州にいるため、タイ国境から遠く、流出先は隣国のバングラデシュが多かった。 
 「イスラム教徒はロヒンギャ以外にもいますが、(60年代の)ネウィン政権以降、とくにはロヒンギャ族が目の仇にされました。教育の場でも差別されていたほどです.」と政府主導で広まった反ロヒンギャ族感情の起源と根深さを山本さんは嘆く。 
 
 次回裁判は来年1月。その日、アウンティン・フセインさんは群馬から福岡入り。日本語ができない仲間のために法廷で通訳する。支援者は、松井仁弁護士と大倉英士弁護士ら12人の弁護団とアムネスティ日本やカトリック正平協などの市民団体の方々。アウンティン・フセインさんと支援者は傍聴者を求めている。 
 
 支援者の連絡先はy-aoyagi@r8.dion.ne.jpもしくは電話 080-6420-6211(青柳行信さん)。 
 
ロヒンギャ協会 
http://www.rohingya.org/index.php 
 
 ミャンマーとラヒンギャ関係については次のサイトの情報も有益である。 
 http://homepage2.nifty.com/munesuke 山本宗補フォトジャーナリストの個人サイト 
 http://www.burmainfo.org/index.html ビルマ情報ネットワーク 
 http://www1.jca.apc.org/pfb/     ビルマ市民フォーラム 
 http://www.rohingya.org/index.php4 アラカン州ロヒンジャ全国組織 
 http://www.osaka.catholic.jp/sinapis/index.shtml カトリック大阪司教区社会活動センター・シナピス 


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