2007年12月20日11時19分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=200712201119284

日中・広報文化交流最前線

海外中国語メディアは世界との架け橋 井出敬二(前在中国日本大使館広報文化センター長)

  世界では多くの中国語メディア(華僑系メディア)が活動している。彼らは「自分達は、中国と海外の『架け橋』としての役割を果たしたい」とよく言う。この「架け橋」というのは、「中国から海外へ」と「海外から中国へ」の双方向の情報の流れをつなぐものだと思う。 
 今回は世界における中国語メディアの状況を若干紹介し、次回は筆者とこれらの海外中国語メディアとの交流を紹介したい。 
 
●「世界中国語メディア年鑑」からの紹介 
 
 中国で出版されている「世界中国語メディア年鑑」をもとに、世界の中国語メディアの状況などを紹介したい。 
 この年鑑(中国語で「世界華文傳媒年鑑」)は、中国のメディアである中国新聞社と世界華文傳媒年鑑社が2003年以来出版しており、2007年版は4冊目である。中国には公的な通信社として、新華社と中国新聞社があるが、中国新聞社は特に海外の華僑向け発信をするという任務を担っている。この年鑑は、中国において公刊されており、定価は498人民元(約8千円)と印刷されている。 
 (因みに、この中国新聞社は『中国新聞週刊』という週刊誌を中国で出版しており、それは日本において翻訳され月刊誌『月刊中国NEWS』として本年から出版されている。中国新聞社の幹部が本年7月に筆者に述べたところでは、海外で『中国新聞週刊』の現地語翻訳版を出版するのは、日本が初めてということであった。) 
 
 2007年版(07年8月刊)は中国大陸以外の世界各地の約500もの中国語メディア(新聞、雑誌、テレビ、インターネット)を紹介している(注)。 
 (注:各地、各国における中国語メディアとして、以下の数のメディアが紹介されている。 
 香港64、マカオ21、台湾97、ブルネイ1、インドネシア14,タイ9、マレイシア23、フィリピン5、シンガポール12、インド1、東チモール3、ベトナム1、韓国2、日本27、トルコ1、オーストラリア23、ニュージーランド18、ハイチ2、米国61、カナダ43、ブラジル2、アルゼンチン5、キューバ1、パナマ2、ペルー5、スリナム2、ベネズエラ4、モーリシャス2、南アフリカ4、ナイジェリア1、ケニア2、マダガスカル1、ベルギー4、ハンガリー9、スペイン4、ギリシア1、フランス6、ロシア11、英国4、アイルランド1、ウクライナ1、オランダ2、スロヴァキア1、オーストリー4、イタリア6、ドイツ6、ルーマニア5) 
 
 この約500ものメディアは必ずしもすべてを網羅している訳でもないようだ。たとえばイタリアは6つのメディアが紹介されているが、イタリアにいる華僑系ジャーナリストによれば、「最近、イタリアに来る中国系移民の人数の増大に伴い、中国語メディアは、毎年3〜5のペースで増えている」とのことである。 
 
●「世界中国語メディア・フォーラム」での発表 
 
 2005年9月に中国湖北省武漢市で「第三回世界中国語メディア・フォーラム」という会議が開催されており(主催は中国新聞社、中国共産党武漢市委員会、武漢市政府)、そこには約200の海外の中国語メディアの幹部達が参加している。この会議もいわば公的な会議と言える。そこで、米国、欧州、オーストラリア、日本などから参加した華僑系メディア幹部達が種々発表(論文)しており、その文章も、この「世界中国語メディア年鑑」に収録されている。 
 多くの発言者が、「外国で中国に対する関心が高まっている(“中国熱”)ので、中国語メディアへの期待も大きくなっている」「外国で中国は誤解されているので、正しい中国の姿を伝えよう」といった発言をしている。2005年という戦後60周年の節目の年だっただけに、歴史問題に関連して日本に対する抗議活動を組織したとの報告を行った在欧州華僑系ジャーナリストもいる。 
 
 それ以外に筆者の目を惹きつけた記述は、主に米国から参加した華僑系ジャーナリストの発言である。以下の通り紹介したい。 
 
 ◆謝一寧・米国「僑報」総裁発言: 
 中国国内におけるAIDS報道から論をおこし、中国の役人達で報道の自由を理解していない人がいると指摘している。2002年末に新聞出版分野を担当している中国政府職員をインタビューした際に、「中国の国情を考慮すると、『新聞法』を制定することはできない。その理由は、報道の自由の含意は大きすぎる、報道の自由の理解も種々あり一様ではない、だから『新聞法』を制定する条件は整っていない、云々」。 
 これに対して、謝氏は以下の通りの批判している。まず、中国で立法を担当しているのは全国人民代表会議であるから、政府職員が立法について決めるのはおかしい。次に、改革開放以来、中国(政府)自身が「拡大社会主義民主、健全社会主義法制」をいつも強調している。数十年の計画経済下では、ニュースメディアも党・国家機関の一部として行政上の管理に服していたが、中国が市場経済化した後、報道についての法律を制定することは必然性がある。中国の役人がニュース報道を妨げるのは、彼らの既得権益を守ろうとするものである。 
 
 ◆劉暁東・米国「僑報」編集長: 
 自分達(「僑報」)は、客観報道を確保するために、中国関連および一般ニュースの報道にあたり、以下に留意していると説明。 
 (1)価値判断を含む表現・語句を報道の中で使用しない。他方、中国大陸で教育を受けた記者、編集者は往々にして自覚しないまま、価値判断を含む表現を記事の見出しなどに使っている。 
 (2)報道中には価値判断そのものを記述しない。 
 (3)バランスのとれた報道に留意する。中国が「反国家分裂法」を公布した際、賛否両論を掲載した。中国の報道においてバランスが欠如していることは、長期的かつ重大な問題である。中国国内のメディアがよく使う「一致して認識」「一致して支持」「一致して反対」といった表現は、文体の問題とともに、客観性、バランスの問題もある。 
 (4)理性的に評論すべきである。我々は台湾独立、日本軍国主義復活には反対するが、口汚く罵ることをしてはならない。 
 (5)報道は後で検証できるようにしておく必要がある。批判的な記事を書く場合には、引用文、インタビュー録音、メモ、写真などは確認できるようにしておく。これがジャーナリストの職業道徳である。 
 (6)報道にタブーがあってはならない。 
 
 ◆蘇彦韜・米国「EDI鷹龍傳媒有限公司」総裁発言: 
 米国の主要企業と協力して各種活動を実施していると紹介しているが、その米国主要企業として、マクドナルド、JCペニー等と並んで、TOYOTA、HONDAが記述されている。 
 (筆者注:つまり、これらの日系企業は既に米国企業として認知されているということのようであり、また日系企業は華僑系メディアとの協力を実施しているということでもある。) 
 この蘇氏はまた、在米中国系市民達の意識として、「中国への帰属感、中国(政府)の現行政策に対する共感は少ない」として、中国に関する「客観、公正、全面的な」報道が必要だと述べている。 
 
 上記のような在米華僑系ジャーナリスト達からの発信は、中国と海外の間の『架け橋』の重要な一部を構成するものだと言えよう。筆者と在日華僑系メディアとの交流については、次回以降紹介したい。(つづく) 
 
(本稿中の意見は筆者の個人的意見であり、筆者の所属する組織の意見を代表するものではない。) 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。