2007年12月31日17時58分掲載  無料記事
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橋本勝21世紀風刺画日記

第80回:自衛隊よ 国際貢献より、宇宙貢献を!!

 2007年末の延長国会、給油延長のための新テロ特措法、薬害肝炎、消えた年金などの難問をかかえている時、なんか妙に盛りがっていたのが、UFO・宇宙人論争だ。政府のおエラ方が自説を得意気に展開、特に石破防衛大臣が、防衛問題という観点から、まるで少年のように目を輝かせて熱弁をふるっていて、なんか憎めない人だなあと思わず笑ってしまった。ということで私もこの宇宙人論争に参加することにした。 
 
 宇宙人が地球へやってくるといえば、SF映画でもおなじみの題材。でもそのほとんどがアメリカ製、ハリウッド映画の独壇場といってよい。それは現実の宇宙開発が、アメリカ、ソ連によって行われていることの反映である。しかしソ連は、現実で手いっぱいで虚構まで手が回らなかったみたい。 
 
 さて、その宇宙人もののSF映画であるが、単なる夢物語というより、人間の歴史が投影されている。人類史における異文明の出会いは、強者が弱者を征服する歴史であった。ヨーロッパの国々による、アメリカ大陸への進出は、征服そのものであり、それは先住民の大虐殺というすさまじいものであった。これにキリスト教の布教が重なり、遅れた未開人を導く聖なる使命であるとしたのはなんとも厚かましい。 
 
 つまり、来るべき人類と宇宙人の出会いも、この地球上の人間の歴史を投影し、進んだ文明の宇宙人によって、人間が征服される人類の危機といった形でとらえられる。H・G・ウエルズ原作の「宇宙戦争」(53)がこれだ。つまりSF映画の宇宙人もののほとんどが、対宇宙人の戦争映画ということになる。これには人間の理解を絶する生物の宇宙人がせめてくるというのもある。怪物の宇宙人のでる「エイリアン」(79)などが代表的。 
 
 こうした宇宙人もののパターンを破ってくれたのが、スピルバークの「未知との遭遇」(77)と、「ET」(82)。友好的な宇宙人と、地球人の心温まる交流シーンは感動的だった。 
 
 実は、70年代末から80年代初めは、米ソの冷戦があわや熱核戦争へと発展しかねない時であった。米映画の宇宙人にはそのときの政治状況が敏感に投影されている。そこにはアメリカの敵のイメージがある。冷戦時代は、世界を征服せんとする共産主義への脅威があり、その邪悪なる宇宙人(共産主義者)との戦いは、アメリカの聖なる使命であった。そんな冷戦時代の仮想敵が「アカ」であるとすれば、さしずめ今は「テロリスト」ということになろうか。ブッシュの単純な思考力は多分に通俗的ハリウッド映画の影響を強く受けている。特に西部劇と、それにSF映画だ。「テロとの戦い」もイスラム教をバックにするテロリストという異文明人(宇宙人)から地球を守る聖なる戦いということになる。そんなアメリカに協力し、国際貢献ということで給水活動をやった自衛隊のナンセンスさよ。いっそ、火星へ出かけ、水が枯渇して苦しむ火星人のために、給水活動という、宇宙貢献をしたほうが有意義だったと思うのである。(橋本勝) 


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