2008年01月19日10時43分掲載
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二極化社会を問う
日雇い派遣は先進国のなかの新たな奴隷階級 全治3ヶ月の労災事故体験記
2007年12月24日、私は事業停止命令を受けた某派遣大手に登録し、翌25日から派遣先の某食品工場で働き始めた。そして、2日目である26日に、労災事故に遭った。どうやら冷却機と呼ばれるらしい、大きな機械を洗浄中に転倒し、右肩を骨折したのである。(攝津正)
私は痛い、痛いと言っているのに、派遣先の食品工場の総務の対応は冷たいものだった。会社の湿布を貼るか、自分で歩いて津田沼の病院に行くか、会社の車で病院に行くか選んでくれ、会社の車で行く場合は担当者が仕事をしているから40分くらい待ってくれとのことだったが、何のことはない、担当者はパートで入った大学生と談笑していたのだった。派遣元の派遣会社に電話したが、状況は同じで、「自分で病院に行くか、会社の車で病院に行くか、選んでください」とのことだったので、「労災じゃないですか、会社の病院に行くのが当然でしょう」と言うと、向こうも「そうですね」とのこと。
病院に運ばれ、レントゲンを撮ってみたら、やはり骨が折れていた。「全治1ヵ月半です」と医者は言う。
翌日、精密検査だった。MRIなどをやってさらに調べると、ほかにもおかしいところが見つかり、全治3ヶ月という診断に変わった。入院し手術を勧められ、1日考えて、翌日手術を決意し入院した。年が明けて1月7日に手術し、現在も津田沼にある病院に入院治療中である。退院は月末になる予定で、退院後もリハビリテーションに通院せねばならず、それも半年や1、2年かかるという。少なくとも当面は、仕事は勿論、音楽活動なども全くできない。酷い怪我を負ったものだと天を仰ぐ。
入院治療費は、派遣先か派遣元か分からないが、企業側が負担している。某派遣大手本社が、労災保険の手続きも進めている模様である。
食品工場では1日8時間、拘束は9時間超の肉体労働だった。それでいて、手取りは名目6、700円、実質6,000円である。往復の交通費と食費が自腹だからだ。
わずか2日の体験だったが、いろいろなことが分かった。先ず工場には、アジア系のみならず南米系も含めて、外国人(の女性)がとても多いということ。工場内の注意書きも、日本語とスペイン語?の2ヶ国語で書いてある。工場で働く労働者は、帽子の色で正規雇用と非正規雇用が区別されており、その比率は7:3くらいである。そして、女性、高齢者、外国人が多い。恐らく職安などに行っても職は無いだろうと思われる高齢の人が、日々派遣会社に搾取されて長時間低賃金労働に従事しているのである。
ヘーゲルの『精神現象学』の、主人と奴隷の弁証法では、奴隷は労働を通じてスキルを身に付けることを通じて、主人に対して優位に立つ。しかし永遠の未熟練労働である日雇い派遣には、スキルを身に付けるとか熟練するといった契機が無い。それは先進国といわれる日本の内部に生じた、新たな奴隷階級、第4世界である。
状況は、囲い込み運動で土地を追われた農民が産業労働者(プロレタリアート)になっていったという資本主義のそもそもの発生に近い。中小・零細の自営や農民はどんどん滅びてください、われわれは国際競争力のあるグローバルな資本だけを優遇します、というのが小泉改革とやらの本質だから、旧中間層は没落し、労働力以外売るものを持たないプレカリアートに転落する。そこに待っているのは無権利状態、不安定、不安である。
このような現実をもたらしているのは言うまでもなく、ネオリベ(新自由主義)である。だが、それは昨日や今日始まったことではない。20年以上前から、サッチャー、レーガン、中曽根の時代から支配層が着々と進めてきたプログラムがネオリベなのだ。資本の移動が自由化されて、資本は海外に安い労働力を求めて出て行った。今はそれでは物足りず、国内に安い労働力の市場を作り上げてしまっている。それが日雇い派遣である。
外国人の待遇を日本人並みに引き上げるのではなく、日本人の待遇を外国人並みに引き下げるというのが、新たな労働のエートスの本質である。低賃金で無権利な膨大な人々が働いている。ワーキングプアと呼ばれる現実である。そこから抜け出すのは容易ではないが、派遣法の見直しと、労働者協同組合法の制定が急務であろうと思う。
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