2008年03月15日13時09分掲載
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チベット問題
中国における「民族自決」 孫文以来の漢民族中心主義 チベット暴動への視点
中国のチベット自治区ラサで14日、独立を求めるチベット仏教の僧侶や市民による大規模デモが起き、警官隊との衝突で多数の死傷者が出たと伝えられている。中国政府は、戒厳令が敷かれた1989年のラサ暴動と同様に武力鎮圧で収拾を図ると見られるが、独立を求める動きはチベットだけでなく新彊ウイグル地区でもくすぶっている。チベット問題、そして中国の民族自決について理解するには、横軸(違う国どおしの比較)、縦軸(時間的経緯)の両面で事実を整理し、正確に認識することが、今後の展開を展望する上でも非常に重要である。(寺田俊介)
中華人民共和国憲法における民族に関する規定は以下がある。
第4条「中華人民共和国の諸民族は、一律に平等である。国家は、すべての少数民族の合法的な権利および利益を保証し、民族間の平等、団結および相互援助の関係を維持、発展させる。いずれの民族に対する差別と抑圧も禁止し、民族の団結を破壊し、または民族の分裂を引き起こす行為は、これを禁止する。(中略)少数民族の集居している地域では、区域自治を実施し、自治機関が設置されて、自治権を行使する。いずれの民族自治地域も、すべて中華人民共和国の切り離すことのできない一部である。」
第52条「中華人民共和国は、国家の統一および全国諸民族の団結を維持する義務を負う。」
「民族自決」という表現は中華人民共和国憲法には盛り込まれていない。
中華人民共和国憲法に大きな影響を与えたであろうソ連憲法ではどうなっているか? ソ連憲法第70条は、「ソビエト社会主義共和国連邦は、社会主義的連邦制の原則にもとづき、自由な民族自決および同権のソビエト社会主義共和国の自由意志による結合の結果として形成された統一的な多民族連邦国家である」とし、第72条は、「各連邦構成共和国には、ソ連邦からの自由な脱退の権利が留保される」とある。
引用した憲法条文は1977年のものだが、この考え方はソ連邦創設時からあり、1977年に突然できたものではない。ソ連邦が1990年代前半に崩壊した時には、これらの規定が大きな役割を果たし、崩壊後は、各連邦構成共和国単位で新独立国家が発足したが、ソ連邦憲法の創設者達も、また西側のオブザーバー達も、これらの規定がまさか本当に重要な役割を果たすとはかっては思っていなかったであろう。
「三民主義」を唱えた孫文による、民族自決についての発言を、1924年の彼の講演から引用したい。(注:社会思想社刊の3巻本の孫文選集の第1巻所収の『三民主義』と題する講演記録から)。
─「中国が秦漢以後、つねに一つの民族で一つの国家を形成してきた」(p21)
─「われわれが古今の民族生存の道理に照らし、中国を救おうとし、中国民族の永遠の存在を願うなら、われわれはなんとしても民族主義をとなえなければならない。そうしてこそ、主義の力をじゅうぶんに発揮し、国家を救うことができます。では、中国の民族はというと、中国民族の総数は4億、そのなかには、蒙古人が数百万、満州人が百数万、チベット人が数百万、回教徒のトルコ人が百数十万人まじっているだけで、外来民族の総数は1千万人にすぎず、だから、4億の中国人の大多数は、すべて漢人だといえます。おなじ血統、おなじ言語文字、おなじ宗教、おなじ風俗習慣をもつ完全な一つの民族なのであります。」(p25)
─「漢人が苗族を雲南、貴州の境域に追っ払った結果、今では苗族はほとんど絶滅に近く、生存もできなくなった・・・」(p68)
中国で今も非常に尊敬されている孫文にとっては、中国の民族主義とは主に漢民族にとってのものであったようである。
王柯氏の著書『多民族国家 中国』(2005年、岩波新書)は、中国共産党の初期の少数民族政策を以下のように説明している。
同書から引用すると、1922年の中共第二次全国代表大会による決議案は、「辺境人民の自主を尊重し、モンゴル、チベット、回疆の三自治邦の成立を推進し、その後自由連邦制の原則に基づいて連合し、中華連邦共和国を樹立する」と唱えていた。また1934年の「中華ソビエト共和国憲法大綱」では、「中華ソビエト政権は中国領内の少数民族の自決権および各弱小民族が中国から離脱し、独自の国家を樹立する権利を有することを承認する」と主張し、「民族自決」と「連邦制」を唱えていたという。
このような中国共産党の初期の少数民族政策は、現在の少数民族政策にそのまま繋がることはなかったようである。
中国の民主化運動家ですら、民族自決には無理解である。
中国が民族問題にどう対応するかについて展望するにあたっては、上記のような歴史的な背景で、どのような選択肢をとれるのかについて考えていく必要があるだろう。
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