2008年05月03日13時43分掲載
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生存の危機が生みだす戦争への不安 札幌で憲法25条と9条を考えるシンポジウム
5月3日は日本国憲法の施行から61年。それを前に、憲法25条(生存権の保障)と9条(戦争放棄)を考える「憲法シンポジウム 生活と平和は譲れない」(週刊金曜日・週刊金曜日読者会共催)が、札幌で4月20日に開催された。第一部では、佐高信氏を司会に、雨宮処凛(作家)さんと道幸哲也北大法科大学院教授(労働法)が生存権を脅かされている生活者の現状について議論。第二部では、高橋哲哉東大教授(哲学)ら5人のパネリストが、「平和なくして生存権は保障されない」と憲法9条をテーマに、それぞれの立場から発言した。330人以上が会場に詰めかけた。(木村嘉代子)
第一部「憲法25条をめぐって〜地域格差・生活格差はなぜうまれる〜」でまず、道幸北大法科大学院教授は、「ここ数年、労働を学ぶ学生が増えている。彼らは自分の権利を守るために必要だと気づいたからだろう」と紹介。「職場が閉塞状態にある今、労働者に権利のあることを知らない人が多い。 フリーターがきちんと権利を主張することを教える必要がある。日本国憲法では団結権が保障されており、二人でも組合を作ることができる。これは世界的に見ても稀である。日本には団結権があるのだから、上司と対等に話し合いができ、労働条件の維持や環境の改善が可能だ。職場における民主主義をどう築くかが課題といえる。生存権を主張する時代というのは、異常で危険な証拠である」と語った。
雨宮処凛さんは、「4月29日、札幌でインディーズ系・プレカリアート系のメーデー“自由と生存の連帯メーデー in 札幌”が行われる。インディーズ系労働組合は、既存の組合からはみだしている人々の組合で、派遣社員やフリーターが参加している。彼らの共通認識は、憲法25条の生存権が脅かされている、というところにある。派遣会社とサラ金が手を結び、年収200万円以下の若者層をターゲットにした貧困ビジネスも増加している。こうした状況で、生存の問題から助け合っていこう、と若者たちが立ち上がった」と貧困にあえぐ現在の若者の現状を説明した。
第二部「憲法9条をめぐって〜平和なくして生存は保障されない〜」では、週刊金曜日の北村肇編集長が司会を担当。5人のパネリストが、次のような発言をした。
高橋哲也東大教授
「このシンポジウムは、第一部が憲法25条で、第二部に憲法9条が議論されている。これがまさに現在の状況を象徴している。これまでは9条が問題になっていた。25条がクローズアップされるのは、グローバル化によって日本社会の人々の生活がズタズタに壊れている証拠であり、憲法問題が生活に大きく関わりはじめているといえる。生存権を脅かされるというのは、日々戦争と同じ状態に追い込まれている人たちが存在し、憲法9条が実現されていないことを意味する。憲法9条を称えたり誇るのではなく、実現していくことが大切である」
雨宮処凛さん
「将来は餓死か自殺かホームレス、戦争でも起きなければ自分の生活が良くならない、と若者たちは追い込まれている。最近は、外国人労働者との競争も強いられている。日雇いに集まってくるのは、日本の若者や高齢者、南米人、中国・朝鮮人で、“どこの国で働いているのかわからない”といった声も聞こえてくる。戦争は貧困層の若者を必要とする。憲法など関係なく、貧困者を集めればいいだけのことである。自分たちがターゲットにされているのだから、“貧乏人だからといって戦争に駆り出されない”と抵抗し、その思いを同世代の若者に伝えていきたい」
杉浦ひとみ弁護士
「心が健全で、食に満たされている状況において9条が語られるのは、それほど問題ではない。25条が重要視されるということは、9条を変えられる危険性をはらんでいる。子ども時代に平和ではなかったがために、『魂を変えられてしまった』と大人になってもトラウマから抜け出せないでいる人がいる。教育基本法はひっくり返さなければならない。あきらめないで、恨みの連鎖を断ち切り、同じ思いの人がつながることが大切だと思う」
加藤多一さん(童話作家)
「老人の視点と北海道の視点から発言する。戦後60年以上、なしくずしの民主主義がどうかわっていったか、変遷を見ている。11歳で終戦を迎えたのだが、兄が徴兵されたときは国旗を振っているのがうれしく、沖縄で戦死した兄の村葬も誇らしかった。洗脳が大きい。北海道には遺産がある。負の遺産として、先住民族への圧搾と同化、中国・朝鮮人の強制連行と虐待、植民地支配のノウハウを教える帝国大学、生態系破壊型の公共事業。その一方で、イラク訴訟に火をつけたのは北海道であることも伝えておきたい」
越田清和さん(さっぽろ自由学校「遊」理事)
「東ティモール・コーヒーのフェアートレードを札幌から展開し、同時に現地の状況を伝えていきたい。日本が東ティモールにPKOを派遣した際、『来て欲しくない』という声が上がった。ポルトガルの植民地だった東ティモールは、日本に占領された過去の記憶から、日本の軍隊の再来に激しい抵抗があった。当時、東ティモールは国作りをはじめたばかりで、基本憲法を策定しようとしていた。日本のPKO派遣で、『憲法は破ってもいいのか?』と疑問が起こった。武力行使を伴うPKOにもかかわらず、日本で議論にならないのは問題だ」
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