2008年06月27日00時55分掲載
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ブラウン英政権の1年(上) 「言いたいことがない首相」、「それでも当面続投するだろう」
ゴードン・ブラウン英首相が現政権を発足させてから、27日で1年となる。当初の人気は上々だったが、住宅金融大手の取り付け騒ぎなど経済問題が次から次へと発生し、後手の処理に回った政権の支持率は急降下。先月行われた統一地方選で、与党・労働党は最大野党保守党に大きく水をあけられて大敗した。ブレア政権で経済アドバイザーだったデレク・スコット氏とBBCの政治部長ニック・ロビンソン氏は、26日、ロンドンの外国プレス協会に集まった報道陣に対し、ブラウン政権の1年の業績に厳しい評価を下したが、適当な「ポスト・ブラウン」の候補者がいないこともあって、当面はブラウン続投が続くと予測した。質疑応答の中での両者の見方を紹介する。(ロンドン26日=小林恭子)
ーブラウン政権はこのまま続くだろうか?
ニック・ロビンソン氏:続くかもしれないし、何らかの変化があるかもしれない。党内では様々な意見がある。ブラウン政権がもたらした労働党へのダメージを最小限にするために、党首(ブラウン氏が兼任)を変えるべき、という声が出た。また、2010年までに行われる予定の総選挙が終わってから変えるべき、という声もあった。
決め手になるのは、秋の党大会の時だ。ここでブラウンが党首ではもう選挙に勝てないとなったら、変わることもあるだろう。これを乗り切れるようだと、年内は変更はない。
もしブラウンが党首ではなくなるとしたら、今度は誰が引き継ぐかだ。一時、ジャック・ストロー法務大臣が引き継いではどうか、つまり一種の管理内閣としてだが、そういう話があった。ストロー自身も、「そうなる可能性」を意識して、人前に出る時は鏡を良く見てネクタイを直そう、という気持ちになったと聞く。しかし、これは現段階では実現は低いだろう。デービッド・ミリバンド外務大臣も常に候補者の1人と言われているが、まだまだ、という感じがする。
思い出して欲しいのは、1989年、サッチャー首相(当時)が保守党党首の座を追われたのは、党内全体にサッチャーではもうだめだという空気があったためだ。(第2野党の)自由民主党のチャールズ・ケネディー元党首が(飲酒問題がきっかけで)辞任したのも、党内にこれを支持する機運があったから。ブレア前首相が辞任時期を発表したのも、元は労働党内の一部が画策した動きに触発されたものだが、党内に時期公表への圧力が働いたからだった。現時点では、労働党内がブラウン下ろしでまとまっていない。
ブラウンで労働党が選挙に勝てるのかどうか?厳しいが、勝てないこともないと思う。
デレク・スコット氏:前首相のブレアと比較して、ブラウンはコミュニケーション能力が低いと言われてきた。これは本当だと思うし、やっと本当のブラウンがどんな人物かが国民にも見えてきた、ということだろう。首相就任前、ブラウンがどんな人物か、どんな政策、信条を表に出すのかと、様々な憶測が出た。誰も分からず、「首相になれば、分かるだろう」と言われたものだった。しかし、1年経って、今でもよく分からない人が多いだろう。結局のところ、ブラウンにはあまり言いたことがないのだと思う。
経済はこれからも悪化するだろうし、これが上向きにならないことには、ブラウンが何を言っても国民に信じてもらえないだろうと思う。絶望的状況だ。
ロビンソン氏:現政権に不安定さがあるのは確かだ。しかし、政治理論は必ずしも正しくはないと思う。つまり、地方選での結果、労働党は惨敗した。BBCによれば、「過去40年間で最低」だ。これほど悪い状況で、首相が次の総選挙で勝てたことがない、と政治理論家は言うだろう。しかし、理論は現実とはまた違うのではないかと思う。
ブラウンが現在の低空飛行状態から再度国民の支持を上げていくには、1つか2つの衝撃的な事件が必要だ。これは野党保守党の党首デービッド・キャメロンについても言える。保守党に政権を任せてもいいと、国民が本当に思うようになるには、大事件が必要だ。衝撃的な事件とは、例えば洪水などの災害かもしれないし、テロかもしれない。ブラウンがこれをきちんと対処することによって、「仕事ができる首相」、「信頼できる政治家だ」と国民が思えるようになる。
1980年代、時の首相サッチャーを「嫌い」という人はたくさんいた。しかし、よく聞いて見ると、「嫌いだけど、政治家としては尊敬している」と言う人が多かった。国民の間では、この意味での尊敬感がブラウンに対してまだあると思う。
今、保守党党首キャメロンは人気が上々だけれど、政権を任せられるかというと、まだ十分ではないと国民は思っているのではないか。
具体的には、ブラウンは「何故英国が好経済を維持できたのか、今後はどうしたら良くなるのか」を国民に分かりやすく説明することだ。医療サービスや学校など、公的サービスをどうやったら向上できるかを示すことだ。国民の懸念を解決するような具体的な政策を出していく。
しかし、2010年で総選挙があったとして、ここで労働党が勝った場合、(総選挙はほぼ4年ごとに行われているので)あと5−6年はブラウン政権が続く。あと5年もブラウンでいいのかどうか?労働党自身もまだ説明できない状態だと思う。
―低所得者層への税率倍増問題が特に国民の大きな反感を買い、これが直接的には地方選での労働党の大敗につながった。530万人の低所得者が影響を受ける見込みとなった。ブラウン首相はもともと、これをどう見ていたのだろう?
ロビンソン氏:この問題はメディア側も当初気づいていなかった。3月、首相にインタビューした時、課税率の問題に触れた。首相はこれを問題視しておらず、他の政策で低所得者層を支援できると考えていたようだった。
―保守党党首キャメロンの政治家としての強さをどう見るか?
ロビンソン氏:昨年夏、(能力別の)「グラマー・スクール」に関わる教育問題で保守党は批判を受けた。しかし、この時、キャメロンはこれに動揺しなかった。首相としてやっていけるのかどうかはまだ分からない。保守党内では、キャメロンがロンドン中心、都市に焦点を置きすぎていると批判する人もいる。支持率が高いから、不満の声を抑えている保守党員がたくさんいる。しかし、批判にびくともしないという点は評価できる。
キャメロンは、「労働党政府はトップダウンだ」、「あれをやれこれをやれ、と指示が多すぎる」、と批判している。「学校側にもっと自由裁量の機会を与えるべきだ」、と主張している。これは耳によく聞こえ、人気も出るだろう。しかし、一旦保守党が政権を握ってしまえば、同様になるのではないだろうか?英国は中央集権的政治で、メディアもその傾向があると自分は見ており、キャメロンの保守党政権もそうなると思う。
―ブラウンの対欧州・EUへの姿勢をどう見るか?親欧州ではないようだが。
スコット氏:政府のリスボン協定に対する態度は幻滅だった。もっと積極的な態度を示すべきだ。つまり、アイルランドが国民投票で批准を否決したが、「リスボン協定は既にだめになった」と英政府も真正面から認め、ではこれからどうするかの代案をEUの加盟諸国に率先して出すべきだ。ブラウンもブレア前首相も、どちらもEUに対してまっとうな戦略を持っていない。
ロビンソン氏:ブラウンはフランスのサルコジ大統領、ドイツのメルケル首相、イタリアのベルルスコーニと良い関係を保っていると思う。EUに関してはいまだ疑い深い気持ちを持っているようだが、「友人を作る必要性」を感じたのだと思う。
―ブラウン首相は、ブレア政権下で10年間、財務相だった。経済は好調で、財務相として高い評価を受けていた。ところが、首相になってからは取り付け騒ぎに発展した、住宅金融会社ノーザンロック問題など、経済がらみの問題の処理が常に後手に回った。「経済に強い」はずのブラウン氏が何故こんなことに?
スコット氏:私自身は、財務相としてのブラウン氏を評価していない。前保守党政権の末期から経済は好転に向かっていた。その遺産を受け継いだだけなのだと思う。「長期的な見地」から英経済の方向を決めてきた、とブラウン氏はよく言うが、このところ大きな問題とされている、10%の所得税率廃止の件だが、実は、この税率を導入したのは、1998年で、ブラウン氏自身(当時財務相)だった。それを今回10%を撤廃し、基本所得税率を20%とした。事実上、低所得層にとっては税率が倍増になった。自分の政策を180度変えたことになる。10年で変えるというのは、あまり長期的なやり方とは思えない。
―ブラウン氏の「次」として、ミリバンド外務大臣がその1人と噂されている。どう評価するか?また、ブラウン氏が財務相だった頃、同じ財務省にいて右腕として働いたエド・ボールズ氏(現在学校担当大臣)はどうか?
スコット氏:ミリバンド氏のスピーチなどを聞いていると、特色がない。まるで官僚の言ったことをそのまま話しているようだ。ボールズ氏は「魅力のないブラウン」(=全く魅力がない)だと思う。
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