2008年07月09日01時03分掲載
無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=200807090103383
歴史を検証する
日本がアジアで信頼されない理由 戦後責任について考えるシンポジウムで今日 中国人弁護士が語る
日本の戦後責任問題のひとつに、朝鮮半島や中国からの強制連行労働者への謝罪がある。中国人労働者の場合、全体の半分近くが北海道へ連行されており、過酷な労働を強いられて命を落とした人も多い。遺骨の返還や強制労働者への賠償といった問題は、いまだ解決されていない。北海道洞爺湖G8サミットを機会にこうした戦後責任について考えようと、7月9日、シンポジウム「市民がつくる和解と平和」が開催される。パネリストのひとりである弁護士の康健さんは、中国人強制連行の裁判にたずさわっている。国と企業に対し謝罪と賠償を求める裁判の判決に際して、昨年3月に来札した康健さんへのインタビューを紹介する。(木村嘉代子)
中国人の強制連行は1943年4月から1945年6月にかけて行われ、連行された3万8939人のうちの約42%にのぼる1万6282人が北海道に渡った。酷寒の地での過重労働は過酷であり、死亡率は日本の他の地域より高い。
本国に帰国できた中国人強制連行労働者のうちの42人(15人が他界)が1999年、国と企業に対し謝罪と賠償を求めて札幌地方裁判所に提訴した。
中国人強制連行・強制労働事件北海道訴訟は第1次、第2次とも敗訴となり、3回目の弁論は、2006年10月24日、判決言渡期日を翌年3月20日午前11時と指定して終結した。しかし、2月19日に札幌高裁は、判決言渡し期日を取消しと延期を通達。延期の理由は、最高裁で言い渡される別の強制連行訴訟の判断を見極めるためである。
原告の趙宗仁さんと弁護士の康健さんは、判決言渡し期日に合わせて来札したが、延期は翻されず。康健さんは失望を隠せない表情で、次のように語った。
「私は『慰安婦』問題にもたずさわっており、日本へ来る前に、ドイツの若いジャーナリストから取材を受けた。そのドイツ人は日本の歴史問題について調べていて、安倍(元)首相が『慰安婦』問題で『日本軍が強制した証拠はない』」と発言したことに驚いていた。「日本とドイツはかつて同盟国であったが、日本がこのように否定するのは恐ろしいことである」と彼は述べた。強制連行の事実について教えたら、非常に驚いていた。
政府の意向であろうが、マスコミ報道にも問題がある。日本では、小さな事件を大きく、大きな事件を小さく報道する。交通事故や火事といったニュースを連続して報道するのに、伝えるべき情報には少しのスペースしか使わない。
日本はアジアの人々に大きな被害をもたらした。南京虐殺以外にも、たくさんの殺戮があったのだ。教科書に書いていなくても、実際に起こった事件は、そこに住む人々に代々伝わっている。
日本の若者が戦争について知らないのは、大人の責任であり、政府の責任である。自分を欺くだけでなく、自分の中に閉じこもろうとしても、歴史はそこに存在している。騙そう、事実を隠そうとしても無駄で、被害者は認めない。別の問題に摩り替えようとするから、日本との信頼関係が築けないのだ。日本を信用できないのは、戦争責任が解決されていないからであり、仕方がない。
日本政府は、国民だけでなく、世界中の市民を欺こうとしている。しかし、現代のような情報社会では、うまく隠しきれるはずがない。
世界の怒りが日本に向けられていることに気づくべきだ。ドイツと日本の戦後責任のとり方は、明らかに異なっている。日本はなぜドイツに学ばないのだろうか。
なお、控訴は6月28日に棄却された。その日にも来札していた庚健さんは、厳しい表情でこうコメントした。
「8年の歳月を費やした判決は棄却だったが、この裁判が終わったわけではない。私は今日、裁判官の心の弱さを感じることができた。判決期日の取り消しと延期の理由を弁護士に質問されても、答えなかったのだから。法律は人権を守るためにあるのだが、今回の判決はそういう結果になっていない。裁判官は法律を汚してしまった。裁判官は、なぜ人権を汚したのだろうか。政府や企業が勝訴しても、決して栄誉にはならない」
国際シンポジウム「市民がつくる和解と平和」
〜東アジアとヨーロッパにおける持続可能な平和と市民社会の役割〜
日時:2008年7月9日(水)午前10時〜午後9時
会場:札幌エルプラザ・ホール(札幌市北区北8条西3丁目)
入場無料(資料代実費)/申込不要
<海外からのゲスト>
朴元淳(パク・ウォンスン)
弁護士、韓国NGO「参与連帯」元事務局長、「美しい財団」設立者、「希望製作所」常任理事
康 健(コウ・ケン)
弁護士、北京市方元律師事務所主任弁護士
クリスティアン・シュタッファ
ドイツ和解NGO「行動・償いの印・平和奉仕」事務局長
テッサ・モーリス‐スズキ
オーストラリア国立大学教授(日本史)
著書に『辺境から眺める』(みすず書房)、『北朝鮮へのエクソダス』(朝日新聞社)ほか多数
鄭 炳浩(チョン・ビョンホ)
漢陽大学校教授(文化人類学)
「ハナトゥル学校」校長として北朝鮮難民青少年の支援にあたる
プログラムなどの詳細はHPで
http://www13.ocn.ne.jp/~hoda/reconciliation.html
Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。