2008年07月28日16時58分掲載  無料記事
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山は泣いている

34・東京郊外の山中に自生のシュロが… 実感する地球温暖化 山川陽一

第9章 価値観を見直さないと・1 
 
 気温が25度Cを超えると夏日、30度Cを越えると真夏日、35度Cを超えると猛暑日と呼ぶ。つい2,30年前くらいまでは、猛暑日などという分類の必要性は想像できなかったのだが、いまや東京で37‐38度Cの日も珍しいことではなく、誰も驚かなくなった。2004年7月には東京で39・5度Cを記録している。 
 
 最近東京近郊の山の中に分け入ると、シュロの幼木が目に付く。庭木としてのシュロ以外は、自生のシュロは南の地方のものであるはずなのに、どうしたことだろう。 
 
 わたしが子供のころは、冬の朝、目を覚ますと、窓ガラスが結露で結氷し、氷の花を咲かせていた。そんな朝は、必ず都心のわが家からもクッキリと富士山を遠望することが出来た。寒風に、大人の手はひび割れし、こどもたちはあかぎれやしもやけで真っ赤な手と真っ赤なほっぺたをしていた。近年は、手袋やマフラーが邪魔になるほどの暖冬が多い。 
 そのころの桜の花の開花は4月の声を聞いてからで、小学校の入学式の日は、桜の花に囲まれていた印象が強い。今は、4月に入るともう葉桜で、3月中に桜が開花してしまうのが普通になった。確実に一、二週間は季節が繰り上がっている。 
 
 定性的な話ばかりしたが、それらを実証できるデータがここにある。 
 気象庁の調べによると、過去50年間に桜は4.3日、梅は5.4日、椿は9・4日開花時期が早くなった。 
 過去100年、世界の平均気温は0.7度C上昇し、日本は1.0度C上昇した。その間、東京は2・9度Cの異常上昇を示している。そのうち1.9度Cは都市化によるヒートアイランド現象によるものと推測されている。 
 北海道大学の調査では、過去30年間にヒマラヤ全体の氷河湖の面積が1.5倍に増えたと報告されている。 
 
 地球は今、1万2千年前の氷河期を境に間氷期に向かっているから、潜在傾向として温暖化の方向であることは間違いない。人工が介入できない宇宙規模の現象として生じるこの寒暖のサイクルは如何ともし難いが、その変化は、悠久の宇宙の流れと等しく緩慢である。ひとりの人間が生きている間の変化は微々たるもので、実感できるほどのものではない。その間に現存する生物が変化に適応する時間的余裕を与えており、人為による温暖化現象とは明確に区別して考える必要がある。 
 
 IPPC(気温変動に関する政府間パネル)のレポートによれば、2100年までに、地球の平均気温は1.4度Cから5.8度C上昇すると予想している。その原因は、化石燃料の燃焼や、森林破壊など人為によってもたらされる温室効果ガスの増大である。これは、産業革命以降に起きた現象で、第二次世界大戦後は加速度的に上昇速度を早めている。 
 NASAの最新の発表によれば、特に、この30年間は10年当たり0.2度と急上昇した。あと2,3度気温が上昇すれば、海面は25メートも上昇し「私たちが知っている地球と別の惑星になってしまう」と科学者たちは心配している。このトレンドが続いたとき、地球に現存する生物(人間を含む)はその急激な変化に適応できないで、破局の道を歩まざるを得ない。 
 
 今、人々は、口でこそ21世紀は環境の時代と言い、「持続可能な開発」を唱えるが、実質的行動はほとんど伴っていない。日本が京都議定書で約束した地球温暖化ガス排出量6パーセント減(2008‐2012年)も、残された時間はわずかしかないのに、今日現在8パーセント増というとんでもない数字になっている。 
 それにもかかわらず、国をあげて大騒ぎする風も無い。超大国のアメリカや中国は、京都議定書自体に背を向けてはばからない。結局のところ、人間は、破局がわが身の目前に迫らないと行動できない、自己中心の愚かな動物なのだろうか。 
(つづく) 
(やまかわ よういち=日本山岳会理事・自然保護委員会担当) 


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