2008年08月04日12時44分掲載  無料記事
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チベット問題

中国政府「ダライラマはよく変わる人間」 経済中心に全方位的政策で解決 中国チベット学研究センター総幹事・ラパピンツォ氏インタビュー

  チベットの精神的指導者、ノーベル平和賞受賞者、平和の使者、宗教指導者……これはいずれもダライラマに冠せられた呼び名である。しかし北京政府の目に映るダライラマは「よく変わる人間」である。 
 チベット独立分子が国外で聖火リレーを妨害して以来、北京はダライラマに対して持っていた印象に間違いないと感じた。ダライラマの主張は常に定まらないと見えるのだ。 
 
 聖火リレーが国外で何度も襲撃されたとき、ダライラマはオリンピックのボイコットには何度も反対を表明していた。しかし、中国の指導者がダライラマに対し、こうした活動をやめさせるよう影響力を発揮するよう求めたとき、ダライラマはチベット青年会の行為はコントロールの範囲内にないと表明した。5月始め、ダライラマ側の代表と中共中央統一戦線工作部(訳注:中国内の少数民族、宗教組織、民間企業や党外知識人など、香港、マカオ、台湾との調整工作を行う組織)の要人2人との会談が行われ、6月に交渉を再開するとした。 
 四川大地震後、ダライラマは犠牲者のために祈りを捧げた。彼はヨーロッパ訪問の際に、中国政府が地震で示した情報公開は進歩だと言い、チベットが中国に属することを認めながら、双方の会談が決裂すればチベットで再び「深刻な暴力」事件が起きる可能性があると言い出した。6月5日、新華社はチベットで3件の爆破事件を未遂のうちに発見し、16人の僧侶を逮捕し、ダライラマが首謀者だと発表した。政府側の新華社がダライラマを「首謀者」としたことは北京が重大な疑いを抱いていることを示している。 
 
 近ごろ、ダライラマの個人代表と北京とで新たな交渉が行われた。北京の目は、チベット問題の解決にカギとなるのはダライラマが過激なチベット独立派の行為をやめさせるために本当に影響力をおよぼす気があるかどうかにかかっていると見ている。中央統一戦線工作部の管轄下にある中国チベット学研究センターの総幹事、ラパピンツォ(拉巴平措)氏によれば、党総書記・国家主席の胡錦涛のチベットに対する方針は20年来一貫しており、ダライラマの「主張がよく変わる」と述べた。しかし、北京は8月のオリンピック期間中、ダライラマが影響力を発揮してチベット独立派に騒ぎを起こさないよう希望している。 
 
 ラ氏が総幹事をしているチベット学研究センターは1986年に設立されたもので、中国ではいま政府側の最も権威ある研究機関として140余人の研究員を擁している。そのうちの多数はパ氏と同様、チベットで生まれ育ったチベット人だ。 
 80年代、胡錦涛がチベット自治区の党委員会書記であったとき、パラピンツォはチベット自治区政府で宣伝部長を務めていた。当時、胡錦涛の指導のもと自治区政府は常に経済を工作の主軸としてきたと語る。こうした政策の制定は、1989年3月のチベット騒乱がきっかけだった。当時、胡錦涛は思い切った措置をとり、はやいうちにチベット情勢を安定化させた。胡錦涛のもとで工作していたラ氏は胡錦涛の断固たる姿勢を印象深く思ったという。 
 「反乱制圧後、胡錦涛は北京へ行き、当時の江沢民総書記と中央政治局常務委員会にチベット情勢を説明した。あのとき政治局常務委員会はまる1日かけてチベット情勢と今後の対策について討論したと記憶している。その委員会で胡錦涛はチベットの安定には経済を主体とする政策をとるべきだと提示し、常務委員会の一致した賛成を得た」 
 
 ラ氏によればチベット問題において中央は常に「一つの中心、すなわち経済を中心とする。二つの大事、すなわち経済開発と社会の安定。そして三つの確保、すなわち経済開発の加速を確保し、社会の安定を確保し、人民の生活水準を上げることを確保する」ことを通してきた。経済を主体とするチベット政策は決定されるや、中央から予算を出すほか、各省・市がチベット支援をすることを求められた。90年代からチベットの経済成長は年に2桁以上を保っているとラ氏は言った。 
 
 経済が改善されている状況でなぜ2008年の今日、チベットで騒乱が起きるのか。ラ氏は「我々の工作に何も問題がなかったとは言えない。しかし、ダライラマ集団がオリンピックという年を利用して騒ぎを起こしたことが騒乱の主な原因だ」と認めた。チベットで生まれ育ち、チベット研究に長年従事してきたラ氏は北京の分析として指摘した。かつてダライラマとインドへ逃亡した大多数は特権階級の貴族であり、彼らはチベット社会の変革を見ようとしない。北京がチベットで行ってきた改革に怒りを持つのも当然だというのだ。 
 
▽北京とダライラマはなぜ合意できなかったか 
 
 ラ氏によれば、中央政府はダライラマが高齢で、本人もチベット問題が解決されることを望んでいるとわかっているという。それで彼の家族も過去20年余り、ずっと中央政府と接触していた。ダライラマの兄はしばしば中国を訪問し、ダライラマの甥の一人も香港に居住し中国本土にもよく行っているという。北京では中国の近年の大きな変化や経済成長、そしてチベットの経済的改善や社会状況をよく知っていると見ている。しかしダライラマの代表と北京とはどう接触しても合意に達しない。 
 
 「ダライラマはよく変わる」というラ氏は、最初にダライラマと改めて接触したのは鄧小平だと言った。文革終結後、鄧小平が政権を掌握すると、ダライラマは北京に対し文革時期のチベット政策を批判した。そこで鄧小平はチベット社会の安定のためにダライラマに「急いで帰るように」と求めた。しかし89年の天安門事件後、ダライラマは「不安定な政府と交渉してなんになるか」と言い、北京との接触を断った。その後、現実の原因によってその代表がまた北京と接触を始めた。02年から今年の3・14事件まで、双方は6回にわたって接触しているが、いずれも会談は不調に終わっている。それはダライラマの主張がすぐ変わるからだ。 
 
 ダライラマの大チベット区の要求は北京にとっては独立要求と変わりない。しかし、北京の言う「変わりやすい」チベットの精神的指導者に向かってどう対応していいのか。ダライラマが急進的なチベット青年回を抑えられないと言っていることについて、ラ氏によれば、北京は亡命チベット人と亡命政府が決して一枚岩でないことを知っているという。「ダライラマの言うことを聞く人もいれば、聞かない人もいる。そうではあってもダライラマは一定の影響力を持っている」 
 
 北京はいまもチベット独立派がオリンピックを妨害し騒乱を起こすと、責めるのは「ダライ集団」である。この定義はダライラマ本人に目立ってほしくないというものであり、広く亡命政府とその他のチベット独立組織や個人をも指している。しかし、ダライラマがその気になれば急進的チベット人を抑えられないことはないと北京は考えている。そこで北京はダライラマがチベットにおけるいかなる暴力的行為にも反対するとはっきり表明してもらいたいのだ。しかし残念ながらいまもそうした姿勢は見られない。逆に会談が決裂すれば暴動が発生すると脅している。このままでは北京はダライラマへの誠意に大きな疑いを抱くだろう。 
 
 ダライラマ側代表と中央統一戦線工作部との会見について、ラ氏はよいスタートだったと述べた。オリンピックを前にして両者が接触したことにより、チベット独立派の妨害が減るからである。チベット社会の安定を考え、中央はダライラマに影響力を求め、独立派がまずオリンピックへのいかなる妨害の企てや活動を停止するよう求めた。ダライラマ側がこの点を保証すれば交渉条件を出せるかどうか考慮できるという。 
 
 1981年、胡耀邦はチベット問題解決のために5つの条件を提示した。その一つは、ダライラマがチベット独立を放棄すれば帰国を歓迎し、全人大副委員長などの地位を与えるというものだ。「ただしチベットに行く必要はない。年に何度か行って見てくればいい」。 
 
 それから20数年が過ぎ、現在の北京はダライラマの帰国を歓迎するのだろうか。ラ氏はそれには答えず、独立派の問題について、ダライラマが帰国しても「この問題はなくならないだろう」と述べた。ラ氏によれば、冷戦時代、チベットは国際的な議題だったが、現在、複雑な世界情勢にあって状況は違っているという。「中国は近年急速に発展し、世界には脅威に感じる人もいる。チベット問題も国際情勢と深く関係しており、今回の暴動が突然起きたように、我々はこんな大事件が起きるとはまったく思ってもいなかった。いま、チベットの経済は100%よくなっている。やはり誰かが事を起こしたのだ」 
 
▽チベット文化の救済工作 
 
 北京は、チベット問題の徹底した解決には経済だけでは効き目がないと意識するようになったようだ。ラ氏は、彼が総幹事となっているチベット学研究センターは設立された89年から現在までチベット文化の救済工作を行ってきたと述べた。今年、中央政府は数千万元を投じて230部の大蔵経を出版し、チベット医薬大全も整理したという。ラ氏は、青蔵鉄道開通2年目のいま、政府はチベットの観光業を促進するとともに、チベットの自然環境や文化の保護と育成にも注意を向けるべきだと考えている。新しい国際情勢、国内情勢について、北京が打ち出したのは経済を主体とする全方位的な政策のようである。 
 
原文=『亜洲週刊』08/7/20譚衛児記者ルポ 
翻訳=納村公子(*拉巴平措氏の表記は漢字の中国語読みに基づく) 


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