2008年08月05日20時54分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=200808052054122

山は泣いている

35・企業と環境 1パーセントクラブ運動を本物に育てたい 山川陽一

第9章 価値観を見直さないと・2 
 
 米国にパーセントクラブというものがあるのを知ったのは、30年も前のことだった。米国では多くの企業が1パーセントクラブとか3パーセントクラブに入って率先して社会貢献活動をしている! それはとても新鮮で、強くわたしの胸を打ったのだった。その後、経団連が欧米に調査団を派遣して、企業の社会的責任のシンボルとして日本にも1パーセントクラブが誕生した。 
 しかし、趣旨に賛同してクラブの仲間入りをし、利益や付加価値の一定額を社会貢献活動に使うことを決めても、少し景気が悪化して業績が低下したり、社長が変わったりしたのがきっかけになって、いつの間にか立ち消えになったりする企業も多く、なかなか本物にはならなかった。 
 
 企業に働く人たちのボランティア活動などへの参加とそれを後押しする制度の導入についても、多くの企業で取り入れられてきたが、日本の企業文化の中で確固たる地歩を確立してきたわけではない。バブル崩壊の時期には、これらの活動は真っ先にコストカットの犠牲になることが多かった。利益最優先社会のなかで一服の清涼剤の役目は果たしても、それが企業の盛衰を決めるほどの重要なファクターなのだという認識は、ほとんどなかったといっていい。 
 
 風向きが明らかに変わったと実感するようになったのは、今世紀を迎えてからである。21世紀は環境の時代といわれ、地球温暖化の問題、天然資源枯渇の問題、森林伐採と自然破壊の問題、その根底に横たわる人口問題が大きくクローズアップされるようになった。従来の延長線上では、人類は破滅に追いやられるということが、世界の共通認識になり、国も、地方自治体も、企業も、個人も、地球環境問題に無関心で存在することが許されない時代になった。 
 いまや、多くの企業の中に、社会貢献部、地球環境部、CSR室などという名称のセクションができ、出資者向けのレポートのひとつとして、会社のCSR(Corporate Social Responsibility)活動が別冊で発行されるほどの時代となった。企業の環境に対するスタンスが、株価にも重大な影響を及ぼす。 
 
 かつての企業のスタンスを知っている人たちは、手のひらを返したような最近の風潮に、戸惑いを感じている。とりわけ、逆風の中で自然保護の活動をやってきた人たちは違和感を覚えるようで、警戒の気持ちを緩めない。そう簡単に本質は変わらないゾということであろう。わたしなども、企業の方たちと接していて、世の中が大きく変わってきたという実感と同時に、時代の流れに合わせて俄か仕立ての環境派を装っても、少しも本質的に変わっていない内情を見せ付けられて、失望させられることもしばしばである。 
 しかし、日本に1パーセントクラブ運動が発祥した当時と今日では、その社会的背景がまったく異なる。もう、この流れは逆戻りできないだろう。環境問題に背を向けつづけていたら、いっときうまくいっても、将来大きな不利益となって必ず自分に返ってくる。いまは付け焼刃の俄か環境派でも、やがて時間が本物に育ててくれることを信じたい。わたしがお付き合いさせていただいている数社の企業は、すでに環境への配慮が企業風土になりつつあると感じさせてくれるのは、うれしいことである。 
(つづく) 
(やまかわ よういち=日本山岳会理事・自然保護委員会担当) 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。