2008年08月11日14時53分掲載
無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=200808111453041
ビルマ民主化
1988年から20年〜ビルマ国民を裏切る日本の政策 ベネディクト・ロジャーズ(クリスチャン・ソリダリティ・ワールドワイド=CSWスタッフ)
20年前の8月8日、ビルマで民主化を求めてデモをしていた数千人もの学生らが軍事政権によって殺された。「8888」と呼ばれる事件だ。それ以来、軍政は力をますます強め、人道に対する罪を犯し続けている。そして日本政府はその軍政を支えてきている。8月8日には北京オリンピックも始まった。中国はビルマ軍政の最大の支援者として武器を売り、投資を通じて外貨をもたらし、外交面でも何かとかばっている。日本でも多くの人がオリンピックを観戦するだろう。テレビを見ながら考えてほしい。日本政府は自らのビルマ政策を見直すと同時に、軍政への支援をやめるよう中国政府に働きかけるべきではないか。
▽ビルマの政治的・人道的危機は悪化の一途
1988年以来、ビルマの政治的・人道的危機は悪化の一途をたどった。現在、2000人以上の政治囚が獄中にあり、日々拷問を受けている。民主化運動指導者でノーベル平和賞受賞者のアウンサンスーチー氏は自宅軟禁にされたままだ。
国軍に占める子ども兵士の割合も世界最大である。ビルマ東部では国軍が少数民族住民に対して軍事攻撃をしかけ、1996年から今までに3200もの村が破壊された。国軍兵士による少数民族女性の強かんが日常茶飯事となっているだけでなく、強制労働も広く使われ、住民が地雷除去のために国軍兵士の前を歩かされることもある。
ビルマ全体で約100万人が国内避難民となり、屋根や食べ物、薬もないままジャングルの中で隠れて暮らしている。このほか数百万人が国外に逃げた。
1990年の総選挙でアウンサンスーチー氏が率いる政党、国民民主連盟(NLD)が圧勝したが、軍政は選挙結果に基づいた国会を開かなかった。当選した民主化勢力側議員の多くは投獄されたり、国外に逃げたりしている。昨年9月には大規模な民主化蜂起があり、仏教の僧侶が平和的なデモを行なったが、1988年と同じように軍政は武力弾圧に出た。日本人の長井健司さんを含む少なくとも数十人が殺された。
今年5月にサイクロン「ナルギス」が襲来し、多数の犠牲者が出た。軍政はインド当局から事前に40回以上も警報を受信していたが、住民には何も知らせなかった。被害の規模が明らかになるにつれて国際社会から支援の申し出が相次いだが、軍政は国際援助を拒んだ。最終的には援助を受け入れる決定をしたが、それでも厳しい制限を課した。
援助物資の配布を妨害し、為替レートの歪みを利用して国連からの援助資金から数百万ドル分を横領していることも発覚した。犠牲者は13万人以上、住む所のない人がまだ250万人、一切の援助を受けていない人が100万人いる。
しかし日本政府は軍政の対応について一切発言していない。
▽日本は軍政への沈黙を破るとき
サイクロンで甚大な被害が出たにもかかわらず、軍政は憲法案を承認させるための形ばかりの国民投票を行ない、賛成92.4%、投票率99%だったと発表した。それに対して日本はどうしたか。木村仁副大臣は、大使館員が決められた場所とはいえ投票所の視察に行けたことが「それ自体透明性の向上という観点から見れば良い機会であった」(5月13日、外務省報道官会見記録より)。
これ以上に不条理な立場があるだろうか。国民投票に関する法律によって、軍政の憲法案を批判したり反対投票を呼びかけたりすることが禁じられていた。違反すると最低3年間の禁固刑にされる。また、50万人はいるとされる僧侶や、その他の宗教的指導者のほか、紛争地域にいる数百万人もの住民、ムスリムのロヒンギャ民族7万人、国外に逃れた数百万人もの難民は、そもそも投票することが認められなかった。また、軍政は国際選挙監視団の受け入れを拒否した。
投票に関連して不正や嫌がらせ、脅迫行為、収賄などがあったという報告が数多く寄せられている。賛成投票をした人の多くは賛成したかったからではなく、怖かったからそうしたのだ。投票用紙を見れば誰がどう投票したかがわかるようになっていた。軍や当局が住民の代わりに賛成票を入れていた地域もあった。
サイクロン襲来から数日後に国民投票を決行したこと自体、軍政が自由で公正な投票にしようと意図などしていなかったことをよく示しているではないか。
それでも日本は何も言わなかった。
数か月前、ある外務省職員が私に、日本はビルマ軍政との関係維持を優先させるのだと説明した。そのような政策はこれ以上続けるべきではない。日本のビルマ政策はビルマ国民を裏切るだけではない。近代の日本という国が基づく自由で民主的な価値そのものを裏切るものである。
日本は軍政への働きかけを強め、耳が痛くなるような沈黙を破るときが来ている。軍政の憲法は軍政支配を永続化させるものであり、正当と認めるべきものではない。日本は、軍政に実質的な民主化改革を求め、武器禁輸措置を取るなどの国連の努力に協力するべきだ。
また東京はアジアの金融取引の中心でもあるから、軍政幹部の資産や金融取引に的を絞った金融措置の導入も検討してほしい。さらに、軍政が人道に対する罪を犯していることについて国際刑事裁判所に訴えることも検討できるだろう。
日本の国民には政府に道徳感を呼び覚ますよう、呼びかけてほしい。
*CSWは信教の自由など人権に取り組む国際的なNGO(非政府組織)。ロジャーズ氏はCSWの政策提言オフィサーとともに英国保守党人権委員会の副議長もつとめる。これまでビルマ国内とタイとの国境地帯の少数民族地域を20回以上訪れ、現地調査をもとに英国の国会議員、外務省、EU(欧州連合)、国連、米国議員などにビルマの人権問題解決への協力をもとめる活動をつづけている。
Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。