2008年09月03日10時35分掲載
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中国
中国経済に厳冬が到来 党・政府指導者に危機感、改革の戦略的調整を模索
中国全土が真夏の炎天におおわれ、オリンピックの準備作業も大詰めを迎え、オリンピックへの熱い期待が盛り上がったころ、北京の中南海の指導者と、企業家たちは寒気を覚えていた。世界経済の減速という真冬が中国に向かい、国内外のいくつもの問題が経済に深刻な衝撃をもたらしたからだ。7月以来、胡錦涛、温家宝、李克強ら指導者たちはそれぞれ沿海地区の省や市へ視察に出向き、各分野の専門家を集めて公聴会を開いた。その綿密な行程と会議の多さは、中南海が中国経済について抱く緊張感を示しており、もはやオリンピック開催より超越している。実際、6月下旬から、北京は作業の重心を地震救済からマクロ経済に方向転回していた。
7月17日、国家統計局が発表した上半期のマクロ経済の資料によれば、消費者物価指数(CPI)は前年度比7.9%の上昇、GDPは13万619億元(約1万9200億ドル)で前年度比10.4%の成長、成長率は前年の同時期より1.8ポイントの下落となった。このうち2シーズンの国内総生産は前年度比10.1%の成長で、成長の幅は前年度比で2.5ポイント下落。工業製品の出荷価格(PPI)は前年度比7.6%の上昇、固定資産への投資は急速に伸び、前年度比26.3%にまで達したが、輸出超過が前年度比11.57%の下落である。
各方面から伝えられるデータはさらに不安を増す。今年上半期、広東省で登記を取り消した企業が3万5000社にのぼり、珠江デルタや長江デルタでは企業の倒産や社長の「夜逃げ」が頻発している。
中国経済はいったいどうしたのか。今年始め、北京の指導者とエコノミストたちは情勢を楽観視し、アメリカのサブプライムローン危機の影響は限定的だと見て、中国経済は基本的に好調だとし、ただ経済の過熱のみを調整すればよいと考えていた。しかし、経済の冷え込みは予想よりはやく、オリンピック前からはっきり下落が現れ、しかも冷え込みの「停滞期」になる可能性がある(特徴は成長が明らかに緩やかになり、インフレが続くか高止まりとなること)。北京では現在、インフレ防止の「一防」から、経済の落ち込み防止も同時に行う「二防」へとマクロ経済の微調整を準備中だ。
上海で輸出用の紡績事業を10数年続けている王嘯氏はこれまでにない困難を感じている。彼は利益の少ない縫製工場を安徽省に移し、ピーク時で月800万〜1000万元の生産高を上げていたが、いまはわずか200万元あまりにまで落ちた。従業員も600人あまりから200人に削減したが、コストは高くなる一方で、製品の国際競争力が落ちた。
ドル価格が低迷し、石油、鋼材、原材料価格が上昇し続け、輸出による税金の払い戻し(Export Tax Rebates)が下降調整され、『労働契約法』(訳注:08年1月から公布。労働者の雇用を保護する目的でつくられたが、企業側にはコスト上昇の要因となった)が実施され、アメリカのサブプライムローン危機が招いた世界的な需要の落ち込みにより、中国各地の輸出は今年の上半期で明らかに伸び悩んだ。
衣料の輸出業は今回、最も被害が大きかった。昨年上半期、深センの衣料品輸出は前年度比53.25%もの急成長だったが、今年の上半期は前年度比で一気に44.5%もの下落となり、深センの今年上半期の輸出入成長率を12%下落させた。鋼材の輸入価格が高騰したため、冷蔵庫、洗濯機、電子レンジなどの家電の輸出も冷え込んでいる。
今年3月、東莞ベスト50に入る民間企業、金臥牛実業有限公司は生産停止を公表、祝善保社長は、社員の給料、原材料費、銀行への返済、税金すべてを未払いのまま失踪した。東莞ではいまも社長たちがなんとか持ちこたえているが、人民元の切り上げ傾向がはやく、ほとんどのメーカーは長期的な発注や多額の発注をためらっている。社長たちによると、損失さえ大きくなければなんとか2年は持つだろうとのこと。
家具、プラスチック、靴などの輸出も楽観できない。中小企業は次々操業停止に追い込まれ、従業員が解雇されている。機械設備は売りに出され、空いた工場はレンタルに出されている。こうしたことは珠江デルタではめずらしくない。製造業が発展している東莞は長年高成長を続けたが、昨年よりメーカーがまとまって倒産するようになり、東莞市政府も不安感を持っている。工場の空きによって東莞市の一部村レベル政府は財政難に見舞われ、外国人ビジネスマンでにぎわっていたホテルも大きな打撃を受けている。
2年前、東莞市は産業のレベルアップを実施し、ローエンドの製造業を他に移転させ、ハイエンドのサービス業やハイテク産業を発展させようとしてきた。内陸部の地方政府代表団が東莞に資本導入の招致にやってきて、ローエンド産業を受け入れようとすると、市の指導者がじきじきにやってきて親切に応対していたが、いまではめったに顔も出さず、産業移転の件も口にしなくなった。東莞市政府内の人物によると、仕事があるだけましなのに、ローエンドでも手放したりできないという。
民間企業が発展している浙江省でも同じような状況である。浙江省の中小企業局局長による調査研究レポートには、当該省の銀行貸し付けが大幅に縮小し、4大国有銀行でも今年新たに貸し付けた額は同年度比で4分の1の減少となった。そのうち中国工商銀行が前4か月で中小企業に貸し付けた額はわずか13億元、同年度費で85億元も減少している。
企業側はやむにやまれず民間から資本を借りている。その影響で、浙江省全体の前4か月中小企業の財務費用が4割あまり増加し、利息は全支出の45%にもなる。そのため、資金繰りに困り、倒産して社長が夜逃げするケースが頻発している。工業が盛んな温嶺県では45社が倒産し、日用雑貨では世界一の義烏市でも、保興自動車販売有限公司の創設者、葉栄興、金烏グループの会長、張政建が負債のために失踪した。
現在、義烏には製造業の企業が1万8000社あまりある。温州市経済貿易委員会が工業の町村26の2万3000社あまりの企業を調査したところ、操業を停止しているか、なかば停止している中小企業は1486社あり、全体の6.3%になった。過去1年間、温州市の煙具(喫煙具)協会の会員約600社企業のうち、経営難で「突然死」した企業が6割以上にもなった。ジッポーなど世界的なブランド向けにライターを生産している日豊(ジッポー)グループも再生困難な状況だ。一部の企業は、「生産しなければ死を待つのみ、生産すると死をはやめる」状況にある。
転換期にさしかかった厳しい経済状況について、国家の指導者は基盤からの立て直しにかかった。温家宝総理は7月4日から6日まで江蘇省、上海市で視察を行い、習近平国家副主席は同月4日、5日、広東に、李克強副総理も6日から8日まで浙江省を視察、王岐山副総理は3日から5日まで山東省を視察、中国のハイレベルの指導者が経済的に発展した貿易型の5省を集中して視察し、今年になってからの国際経済情勢の影響を受けた中国経済の動向に強い関心を示している。
経済のデータが発表された後、中央で経済情勢を分析する会議が開かれた。関係者によると、この会議の規模は年に1度開かれる中央の経済工作会議に匹敵する特別なもので、下半期の経済を安定させるため、経済情勢と対策が検討された。しかし、席上さまざまな意見が出されたものの将来の経済の動向を安定的にすることはむずかしく、中央では改めて調査研究を行うことを決定し、関連する経済政策を中央のより高いレベルに持っていき、政治局で会議を行うこととした。
胡錦涛国家主席は7月20日、山東省青島市を訪れ、世界経済の成長が伸び悩み、不確定かつ不安定な要素も多いことについて、中国経済に悪影響がある可能性を強調した。温家宝総理も、中国経済にとって重要な都市であり主たる輸出基地である広東省、浙江省などを駆け足で訪問した。
それ以前、国務院の発展改革委員会、商務部、銀行業監督管理委員会は調査研究を行い、すでに中央に経済情勢がきびしいとする報告を提出し、中央にマクロコントロール政策を微調整するよう提議している。発展改革委員会、商務部は経済分析会議にテーマを絞った報告を行った。
その主な見方は、不況インフレの発生を防ぐため、インフレがコスト的な原因によるものだとすれば、物価のコントロールを考えると同時に、基本的な部分を損なわない。流動性が大きいようならば、03年、05年のマクロ調整にもどるとするものだ。報告は主として通貨の引き締めと財政の緩和をセットにすることを主張している。商務部は、輸出の税金払い戻しや信用上での支援によって輸出回復を支援することを考慮し、年の初めのマクロ調整政策の微調整と見られている。
クレディ・スイス、アジア地区のトップ経済アナリスト、陶冬氏は少し前、東莞を視察した際、閉鎖の準備をしている工場で「労働者たちが補償金を受け取るため工場の外で列をつくって」いるところを見た。陶冬氏は、日本、韓国、台湾も経済復興の初期は基層レベルの工場が成長の主たる牽引役だったが、産業が転換する段階でこうした工場は競争力を失い移転ないしは倒産していったと解説した。
こうした状況になった場合、政府の対策がよくないと長期的なマイナス影響が残るだろう。広東省の現状は、労働力コストが上がっていること、人民元のドルに対する持続的な値上がりという前提がありながら、当局が労働、税務、環境などの苛酷な条例をとり続けていること、さらにエネルギーや原材料コストの増加も加わり、広東の多くの外資企業も持ちこたえられないところにまで来ている。
しかし中国経済で長年用いられているのは朱鎔基時代のマクロ政策で、投資、輸出を主導とし、財政と貨幣という方法で調整している。ある有識者は、国際環境の悪化とともに展望は不透明であり、内外にさまざまな変化が起きている状況で、北京政府は機会を捉えて体制の改革を進め、成長方式を改めなければならないと指摘する。中国経済は戦略的調整の時期に入っているのである。
1998年、アジア金融危機に対応して経済低迷を防ぐため、中国政府は積極的な財政政策をとり、目的のある投資政策で市場経済に介入した。「備蓄−政府投資」の方法で滞った資金を吸収し、経済の総量を維持し、経済成長を実現した。その一方で金融危機の衝撃に対応し、国内のデフレを克服するため、「財政の積極策」を組み合わせ、「穏健な貨幣政策」を行い、危機を乗り越えた。一時期、中国経済は「財政の積極策」と「穏健な貨幣政策」で輸出を奨励し、企業制度を改善してひたすら急成長の道を走ってきた。
しかしこうした神話は、コスト・アップによる企業の生存の危機と輸出の縮小によって打ち砕かれた。中国の輸出企業は人民元の上昇、原材料の高騰、労働力コストの上昇、発注の減少などで多面的に打撃を受け、後退しつつある。今年上半期、GDP成長に対する輸出の牽引作用はマイナスに転じた。専門家の計算では、今年上半期、ドル計算の輸出成長率は21.9%で、人民元計算だと11.2%である。しかし国内のインフレ要素を差し引くと、実際の成長速度は一桁台に落ちてしまう。
中国は長年、輸出で経済成長を続けてきた。香港理工大学金融学の兪偉峰教授によれば、輸出製品の付加価値が低いとコストの上昇は致命的になるという。中国製品の国際的地位を長期的に考え、政府の政策は付加価値の高い製品を奨励する方向にし、危機の時期こそチャンスを見出す時として、企業の転換を助けなければならないと。
消費の奨励は内需拡大の根本である。兪偉峰氏は、中国の一般庶民がお金がないわけではないのに消費をしないのは保険のセイフティ・ネットが確立されていないからだと指摘する。人々は将来のために貯蓄をしている。政府は人々が安心して消費ができるように政策を打ち出すべきだという。「長期的に見れば、中国経済はいま転換の時期になっている。現在の経済環境は朱鎔基時代とまったく違うのだ。古い方法では挽回のしようがない」
復旦大学中国経済研究センター主任の張軍教授は、長期的な転換を考慮し、「市場経済の完成されたプロセスにはほど遠い中国で、経済の転換で最も重要なことは体制の改革である。戦略の大幅調整の時期になっており、経済体制はさらに改革を深める時期にもなっている。中国が再び成長していく原動力がどこにあるのか考えるべきだ」と考えている。
張軍氏はまた、まず価格を正しくしなければならないと強調した。いまエネルギー価格の上昇が各方面に波及しているが、国はインフレを助長しないように行政的手段でエネルギー価格の調整をしていない。しかし、こうした状況は長続きしないだろうとのことだ。
中国の価格改革は1994年以後行われていない。インフラやエネルギーなど戦略的業種に見られるねじれ現象は改められていない。張軍氏は「価格の調整は、価格管理より有効だ。供給にすぐに反映される」と考える。価格改革を行えば、企業投資の方向も調整されるという。「産業は価格の中から生まれるものだ。価格を調整しなければ産業も調整できない」と述べた。土地の所有制度、都市化の進展、戸籍制度の廃止などはみな体制改革を進ませる。「現在、都市化が遅れているのに工業化が進みすぎ、そのために一連の問題が生じている。中央は改革を深めて転換を推進しなければならない」。
国内外のマクロ経済環境に変化が起き、国内の有識者たちは「経済の保護」と「物価の安定」のために頭を悩ませている。経済の安定成長、インフレの沈静化はマクロ経済の中心的テーマだ。しかし、持続可能な発展のレールに従って、古い時代に別れを告げ、体制改革の推進を模索し、新しい成長方式を求めることは長期的な良薬となるだろう。
原文=『亜洲週刊』08/8/10号特集「厳冬が中国経済を襲う」(紀碩鳴著)より抄訳
翻訳=納村公子
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