2008年09月10日13時11分掲載
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文化
【ほん】 『官製ワーキングプアー自治体の非常勤雇用と民間委託−』が描く日本の労働現場の現実
一昨年のNHKの番組をきっかけに広まった、アメリカ発の「ワーキングプア」(働く貧困層)という言葉は、不幸なことに日本社会にすっかり定着してしまった。日本弁護士連合会は、今年10月の第51回人権擁護大会・シンポジウムにおいて、ワーキングプアの問題を初めて正面から取り上げるという。ワーキングプア拡大の要因は、財界の意向を汲んで進められた労働分野の規制緩和と、ほころびだらけの社会保障制度にあると言われるが、ワーキングプアは民間だけでなく官の世界からも大量に生み出されている。本書はタイトルのとおり、官の世界で生み出されているワーキングプアの問題を取り上げたもので、現役の市議会議員である著者が、官の世界を間近で見ている強みを生かして、地方自治体で働く非正規労働者の実態を明らかにしている。布施哲也著、七つ森書館刊。(坂本正義)
中学・高校で音楽を教える常勤講師、公立保育園で働く非常勤職員、東京市部の外郭団体で働く臨時職員、心身障害者施設で働く嘱託職員など、市民にとって馴染み深い職種の中でワーキングプアが想像以上に広がっていることには驚かされる。特に、労働者の権利を守る砦とも言うべき労働基準監督署の中で、常勤職員と同じ仕事をしている非常勤職員が何年働いても昇給せず、残業手当も通勤手当も出ないという差別が存在している実態には、驚きを通り越してやるせなさを感じてしまう。
財政難に喘ぐ自治体は、経費削減のために自治体業務の民間委託を進めるが、このことを著者は、「自治体の民間委託は、委託するほうは経費の削減になるが、働くほうにはメリットはない。ほとんどはパート職員、嘱託職員などの非正規雇用となり、ワーキングプアとなってしまうからだ」と指摘する。
こうした状況に対し、地方議会の対応はというと、筆者曰く「正規職員を減らせと論陣を張るが、仕事の内容と量のことはあまり言わない。正規職員が少なくなれば満足するが、嘱託・臨時職員が何人働いているのかには関心がない。自分たちが生み出す官製のワーキングプアの事は、知ってか知らずか、ほとんど語られることはない」らしい。
貧困問題を社会的・政治的に解決することを目指して活動する、東京発のネットワーク組織「反貧困ネットワーク」は、活動目的のひとつに「貧困の可視化」を掲げている。この理由について関係者は、「貧困問題の解決の鍵を握っているのは一般の人たちであり、一般の人たちにどれだけ働きかけることができるかにかかっているからだ」と語る。
本書は、官の世界で生み出されるワーキングプアの実態を「可視化」したものである。官製ワーキングプアの問題解決のためにも、一人でも多くの人に目を通してもらいたい。
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