2008年09月11日12時30分掲載  無料記事
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農と食

自由貿易は食料・環境危機を招く!(2) 環境破壊を輸出するオーストラリアの自由貿易政策 アダム・ウォルフェンデン(オーストラリア)

  洞爺湖G8(先進国首脳会議)に向け市民組織「脱WTO/FTA草の根キャンペーン」が札幌で開いた国際シンポジウム報告第2回は、オーストラリアの市民組織「公正な貿易と投資のためのオーストラリア・ネットワーク」で活動するアダム・ウォルフェンデンさん。彼はオーストラリアは自国の環境を破壊しながら輸出で国を発展させ、そのことによって世界の環境を破壊していると指摘、そうしたやり方はすでに限界に来ていると警告した。(安藤丈将) 
 
 
  みなさん、こんにちは。先住民アイヌの土地でお話しする機会をいただいたことを、光栄に思います。今日は食料と環境の危機が私たちに及ぼす影響についてお話したいと思います。オーストラリアでも食料・環境危機が人びとに大きな影響を及ぼしてきました。しかしながら、歴史を振り返ってみると、これは今に始まったことではありません。オーストラリア政府が新自由主義的政策への移行を進めるようになって、もう長い時間が経過しています。 
 
◆環境破壊を輸出するオーストラリア 
 
  オーストラリアは伝統的に貿易に依存してきました。オーストラリアは、羊毛を旧宗主国に輸出することで発展してきたので、その発展は「羊の背中」に乗ってやって来たと言われています。オーストラリアは採掘資源の輸出も盛んです。日本にも石炭などの鉱物資源を輸出しています。 
 
  このようにオーストラリアは長い間資源に依存する形で発展してきました。しかしながら、このやり方は、資源をどんどん採掘して環境を破壊する、持続不可能な発展方式であることは明らかです。現在のオーストラリアで生産されている農産物の総量の2/3は、輸出向けです。輸出を進めれば進めるほど、水や土地といった国内の環境に負の影響を与えています。すなわち、環境の問題は、貿易や輸出に絡み合っているのです。 
 
  最近政府が出した『環境白書』は、開墾が生態系を破壊してきたことを示しています。オーストラリアの真水の75%が農業に使用され、そのほとんどが輸出に回されています。こうした水への需要は、250万ヘクタールの農地が塩化してしまったことの主たる原因です。もし現在のような農業のやり方を続ければ、2050年には1700万ヘクタールの土地が塩害になると言われています。 
 
  オーストラリアから各国への輸出は、世界の環境にも、市場にも、大きな影響を与えています。2005〜06年に、オーストラリアは2億3300万トンの石炭を輸出しました。もしその石炭がすべて燃やされれば、5億5900万トンの二酸化炭素を生み出すことになります。オーストラリアが化石燃料を輸出することによる諸外国での温室効果ガスの排出量は、国内での排出量を超えています。したがって、オーストラリアは、国内だけでなく、燃料や食料の輸出を通して、国外においても環境問題を引き起こしていると言えるでしょう。 
 
◆消え去る小規模農家 
 
  食料危機は世界中で深刻な問題となっています。ところが、オーストラリア国内では、食料危機への危機感が高いとは言えません。そのような中で、オーストラリアの農業は、小規模から大規模農業へとシフトしています。大企業が農業経営に進出するにつれて、小農はますます端の方に追いやられてしまっています。 
 
  農業の主体が小規模農家から大企業に代わっていく中で、大規模農家は国の貿易政策を自分たちに有利なように変更しています。食料の価格設定に関しても、少数の企業が強い影響力を及ぼすようになっています。 
 
  オーストラリア小麦委員会は、影響力の強い団体です。この団体は、サダム・フセイン政権が自分たちの小麦を輸入してくれたことに対して、その報酬を支払ったと言われています。こうした大企業に支えられた組織が、価格決定に強い力を及ぼしています。 
 
◆自由貿易イデオロギーの支配 
 
  オーストラリアの前政権は、二国間の自由貿易交渉に熱心でした。すでに3カ国と協定を締結し、10カ国と交渉中です。現在ではケビン・ラッド政権に代わったものの、積極的に交渉を進めていることに変わりはありません。アジア各国とも、二国間交渉を進めています。シンガポール、タイ、中国、日本、マレーシア、韓国とは二国間協定を、ASEANとはニュージーランドを含めて三者間の交渉を進めています。 
 
  二国間交渉では、オーストラリアは強気の立場を貫いています。農産物を海外に売り込むもうとして、強力なロビーイングをおこなっている人びとがいます。交渉相手国は自分たちで柔軟に輸入量を決めたいと考えていますが、それは自由貿易協定を続ける限り困難です。自由貿易協定のメカニズムをどうにかしていくことが、食料危機を解決するうえで重要であると考えます。 
 
  日豪FTAは、様々な議論を呼んでいます。当初、オーストラリア政府は、この交渉には大して時間がかからないだろうと考えていました。しかしながら、交渉の中で、酪農、牛肉、米、砂糖などの産品をめぐって、調整が必要であることがわかりました。 
 
  オーストラリア貿易産業省のサイモン・グリーンは、これまでWTOの場でやって来たように、自由貿易の推進というイデオロギーを、農業や食料においても浸透させようとしています。オーストラリアは、強い抵抗を受けているにもかかわらず、貿易交渉、特に輸出攻勢をおこなうことで、南の国への進出を進めています。 
 
◆自分の生活を自ら決定する力を取り戻す 
 
  こうしたイデオロギーを変えていく必要があります。人びとが生産のやり方や生産物の売り方を自分たちでコントロールしていくことが大切です。それを実現するための方法の一つとして、巨大アグリビジネスの力を減じて、農業を人びとの手に戻していかなくてはなりません。 
 
  オーストラリアの農家は、長い間政府の補助金を受けて、大きくなってきました。ただ単に自分たちの農業生産を拡大するというのは、他の国で同じ仕事をしている人たちの仕事を奪ってしまうことを認識しなくてはなりません。 
 
  2008年4月に出されたIAASTD(開発のための国際農業技術評価)の報告書では、食料生産は現在の工業化された農業によってではなく、地域に根差した小規模なものであるべきという提案がなされました。このレポートの評価は、57カ国に承認されましたが、アメリカ、カナダ、オーストラリアの三カ国が拒否しました。 
 
  より自由な貿易、より自由な市場という考えを、食料生産にまで適用しようというのが、オーストラリア政府のもくろみです。このような自由市場を最高のものとするイデオロギーが現在支配的であり、それを如実に表しているのはG8であると言えます。それは、自由市場に任せておけば、多くの人びとの人生を豊かにし、多くの人びとに便益をもたらすという考え方です。 
 
  私たちは貿易そのもの、経済の動きそのものに反対するのではありません。私たちが求めているのは、人びとが自分たちの生活や仕事に対するコントロールを取り戻すということなのです。 
 
(公正な貿易と投資のためのオーストラリア・ネットワーク、オーストラリア) 


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