2008年09月18日11時50分掲載  無料記事
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山は泣いている

41・何かがおかしい 前衛峰をいかに越えるか抜きの環境論議 山川陽一

第9章 価値観を見直さないと・8 
 
 世の中が様変わりである。誰もが、いまや、環境問題に背を向けて世渡りが出来なくなった。そういう意味では、自然保護活動に携わるわれわれにとって、やりやすい世の中になった。日本山岳会が「世界一高い山に登りにいくのでご寄付をいただきたい」と申し出ても誰も支援してくれないが、「私は世界と日本の一番高い山でゴミ拾いに取り組んでいます」と言えば、こぞってお金を出してくれる企業や財団がでてくる時代になった。 
 
 IPPCの「温暖化の進展が人類の破滅につながる」と予言するショッキングな第四次レポートに対しても、正面からの反論は影を潜め、素直な反応しか聞こえてこない。いまや、地球温暖化が人類の最大課題であるという認識に異論を唱える人はいない。 
 
 企業は、こぞって省資源と二酸化炭素の削減に取り組み、株式市場も環境関連銘柄に敏感に反応する時代なった。わが政府も、ポスト京都議定書で国際的なイニシアティブを取るべく、2050年までに温暖化ガス半減のアドバルーンを掲げて国際舞台に華々しく打って出ている。 
 
 こんなに官も民も熱心に環境問題に取り組んでいるからには、それなりの結果がついてきているのかといえば、決してそうではない。個々ではいろいろな成果報告があるが、国トータルでの悪化のトレンドは変りそうになく、その見通しもまったくたたない。 
 
 何かがおかしい! 
 
 一言で言えば、政府も、企業も、個人も、また、世界の人たちも、まだまだ本気モードでない、ということなのだろう。 
 
 首相も、自分たちが生きている間に結果が出ない数十年先のことについては、国際舞台でカッコよく振舞うことができるが、足元に火がついている京都議定書の約束を如何に守るかの具体策については、決して表舞台で口を開こうとしない。もし表舞台で議論し、本気で約束を守るための行動を起こそうとすれば、自ら掲げている成長路線に自己矛盾をきたすからなのだろう。 
 
 歯止めのない経済成長戦略の中で、目標どおりに二酸化炭素を削減できるならこれほどすばらしいことはない。しかし、「実現可能な具体的な道筋は何か?」そう問われたとき、果たして返す言葉を持ち合わせているだろうか。 
 それは、山登りに例えれば、屏風のように立ちはだかる厳しい前衛峰を越えなければ、はるか彼方にそびえる高峰にたどり着くことは出来ないことがわかっているのに、前衛峰を超える算段はそっちのけで、「さァみんなであの高峰に登ろう!」とアドバルーンを揚げているようなものである。 
 
 個人にしたところで、大多数の人は、今の生活レベルを下げまで環境にやさしい生活をしようとしているわけではない。理屈はわかっていても、一旦手に入れた快適な生活は簡単には手放せないというのが本音である。終戦直後のつつましやかな生活を考えれば、1990年の生活に逆戻りする程度はなんでもないことであっても、人々はそうは決して考えない。 
 
 政治家には、人心とはそんなものだという大前提があるから、選挙を意識すれば、与党だけでなく民主党も共産党も、一様に、国民に媚びる政策は掲げるが、マイナスポイントになりそうなことは口が裂けても言わない。 
 
 しかし、しかし、本当にこんなことでいいのだろうか。自らの巨大さ故に滅びの道を歩んだマンモスにならないためにも、価値観の大転換を図らないといけないと考えるのは間違いだろうか。 
・成長神話に終焉を告げること 
 ・先進国のエゴを許さず、途上国の論理を封じ込める指導力を発揮すること 
 ・世界人口の増加に歯止めをかけること 
 
 早く、早く、一歩を踏み出さないと手遅れになる。環境問題の取り組みを、理念と信念を持って実行しようと考えるスケールの大きな政治家が出現したとき、国民は、媚びる政治家よりもはるかに高い評価をもって彼を迎えるに違いない。 
 
 朝のテレビは、今日も気温が37度を超える猛暑日になることを告げている。じっとしていても汗がにじみ出てくる。頭に血が上り、書くことがますます過激になる。「少し頭を冷やさないと・・・」そんな言い訳を考えながら、今日もクーラーのスイッチを入れた。 
(つづく) 
(やまかわ よういち=日本山岳会理事・自然保護委員会担当) 


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