2008年10月02日15時13分掲載  無料記事
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経済

「ウオールストリートよりもメインストリートを」 大局的に見た米金融危機問題

  今回の金融危機、特に米下院で緊急救助(金融安定化)法案が否決された波紋は非常に広く広がっているようである。しかし、通常のメデイアでは、法案否決が否定的にのみ報道され、修正は加えるにしてもなるべく早く法案をなんらかの形で実現するようにという論調しかない。上院での修正案は容易に通過した(2008.10.01)が、危機を引き起こした根本問題にメスを入れるという意識はなく、国民にわずかな鼻薬をかがせる程度の修正のようである。これが下院を通過するかどうか。 
 今回の危機が先鋭に突きつける問題を大局的に見てみるという視点がいずれにも不足しているようである。筆者は、専門外であるし、経済の複雑な仕組みはとても理解できていないが、インターネットなどで議論されている事象や付随する問題のいくつかを、主としてAlterNetの2008.10.01のJ.Hollandによる記事を参考にして、考えてみたい。種々のアイデアを羅列するだけであるが。(バンクーバー=落合栄一郎) 
 
(1)米下院議会は、1兆ドル弱レベルの補正軍事予算案を329対39で可決した(9.24)。この法案は、大統領が拒否権発動をちらつかせて、彼の思い通りのものにしたものである。これはとてつもなく不条理なイラク/アフガン戦争を継続し、兵士や市民をさらに死に追いやり、環境をさらに破壊するばかりでなく、この金の多くは、軍需産業という企業とそれに投資する人間達の懐に入る。金融安定化法案も、こうした投資家/銀行家などなどの少数者へ、さらに金を移行する施策である。 
どちらも根本の所で同じである。すなわち、こうしたアメリカの政策が、市民無視、少数エリート優遇という権力・経済構造を維持・推進するものだという認識はほとんどの国会議員にはない。残念なことには、彼らの大部分はそういう構造にすでに組み込まれているか、それに必死にしがみつこうとしている。 
 
(2)IMF勤務の二人の専門家が、IMFとは独立に独自の論文を発表した(先週)。その中で、過去37年間の42の銀行の危機についての調査の結果、次の結論を出した。緊急救済策はほとんどの場合期待した結果をもたらさなかった。むしろ銀行行為は悪化し、税を払う市民から銀行家とその投資家へと金が移行し、経済はさらにいびつなものになった。 
 
(3)ゴールドマン・サックスの社長は、あの危機騒ぎの中で、落ち着き払っていた。救援策の提出者ポールソン財務長官は、この会社の前社長なのだから。政治と金融機関の癒着の象徴。 
 
(4)アメリカ経済の根本的問題は、「連邦準備制度理事会(FRB)」そのものにあるそうだ。1913年の暮れの忙しさにまぎれて成立したこの言わば「中央銀行」は決して行政側のものではなく、私設の金融準備機関で、「金」を自分達の思惑で発行する権限を持ち、それを政府に利子を付けて貸し付ける。国民の払う税の多くの部分は、この利子の返済に当てられているといわれている。 
 
(5)現在の経済危機は、金融における「債務」といういわば抽象的な仮構物の焦げ付きが「富」の流通を阻害しただけ。他の経済物件—商品、生産工場、サービス、建築物などなど─には、昨日と今日でいささかの変化もない。もちろん、こうした経済物件や経済活動が、「金」という抽象物に大いに影響されることは事実であり、この間の関係、すなわち金融による経済活動支配をなんとか改変する必要がある。 
 
(6)「ウオールストリートよりもメインストリートを」(これは、オハイオ選出の下院議員デニス・クーシニッチ氏の国会での演説からの引用)。メインストリートは一般市民を意味する。援助は、上部構造ではなく、下部構造の方にすべきである。例えば、住宅ローンが払えなくなった人々を援助する、それによってローンの焦げ付きが解消し、いずれは上部構造の(少なくとも)一部にも好影響があるだろう。同じ金で、一般市民から企業・銀行家まで救済することになる。 
 
(7)筆者はさらに、こうした一連の経済問題は、これからの世界が持続可能な人類文明を模索するにあたり、根本的に考え直さねばならないものと考える。物資の消費と利潤の追求にその基盤を置く現在の資本主義経済は、持続できないものだからである。 


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