2008年10月31日18時48分掲載
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ベイルートから発信されるブログ絵日記がマレーシアのギャラリーに
【クアラルンプール30日=和田等】世界で起こっている事象を伝える有力な武器になりつつあるブログ。既成の主流メディアに対抗できるだけの力を獲得しつつある一方、ブログ小説といった形で出版分野にも新しい風を送り込んでいる。こうした中、マレーシアの著名ギャラリー、ペトロナス・ギャラリーがレバノン人アーティスト兼ジャズ・ミュージシャンのマゼン・クルバジ(Mazen Kerbaj)氏のブログ(www.mazenkerblog.blogspot.com)に掲載された絵日記を集めた展示会を開催、レバノン戦争時の緊張と危険に満ちた庶民の日常を、機知や断固とした決意を交えて描き出した作品群が人々の心に波紋を広げている。
「ブログ・ドローイングス・フロム・ベイルート」と題されたこの展示会では、2006年7月にイスラム教シーア派軍事組織ヒズボラ(神の党)とイスラエル軍との間で起こったレバノン戦争時の緊張と危険に満ちた時期にクルバジ氏が体験した絶望感にとらわれた庶民の日常を、機知や断固とした決意を交えて描き出した作品群を展示するとともに、レバノン戦争開始初日の夜にイスラエル軍の戦闘機がベイルートに落とした爆弾の音をバックグランド・サウンドにしたクルバジ氏のトランペットによる即興曲「スターリー・ナイト」(星いっぱいの夜)も会場で流し、鑑賞者があたかも戦場にいるかのような雰囲気を醸し出そうとしている。
クルバジ氏は、自身の作品を「政治的なものではなく、戦争のない生活を渇望し戦争を無力化したいという個人的な願いを本質的に表現したものである」と強調、「戦争という緊迫した時期に正気を保つ手段としてだけではなく、ベイルートを包み込んだ危険に対する抵抗の表現として絵を描き、音楽を演奏した」としている。
戦時下には停電することもめずらしくなかったため、クルバジ氏はろうそくの光の下で多くの絵を描いたという。この話から神戸・阪神大震災の後に、社会にコミットしていくバンドとして根強いファンを持つ「ソウル・フラワー・ユニオン」が停電が続く被災地で、チンドン楽団スタイルで演奏をして被災者を励ましたというエピソードを思い起こした。
そうした状況でクルバジ氏が書き続けたブログ絵日記には「ここ(ベイルート)で沈黙することは最も恐ろしい爆弾よりも恐ろしいことだ」とのメッセージや、イスラエル軍の戦闘機に向かって「臆病者、降りてこい! お前たち全員を私のペンで殺してやる!」との、「ペンは剣より強し」を彷彿させるような叫びを書き込んだ絵もあり、痛々しささえ感じてしまうほど。
ペトロナス・ギャラリーのテンク・ナサリア館長は「私たちは平和というものが当たり前のものと思ってしまい、戦時下の生活のほんとうの恐怖を認識することがないのが普通ですが、この展示会で人間がさらされる別の側面に共感してもらえれば幸いです」と語っている。
「ブログ・ドローイングス・フロム・ベイルート」はペトロナス・ギャラリーで11月20日まで開催されている。
■ペトロナス・ギャラリーのウェブサイト:www.galeripetronas.com.my
【マゼン・クルバジ(Mazen Kerbaj)氏のプロフィール】
1975年ベイルート生まれ。1999年に描いた絵日記を翌2000年に出版したのを皮切りに、さらに8冊の本を出版。2000年から05年にかけてソロもしくはグループでレバノンのほか、ダマスカス(シリア)、パリ、ボルドー(ともにフランス)、ベルリン、ウィーンなどのヨーロッパ各地、米国のニューヨークやシカゴ、ボストン、フィラデルフィアなどで演奏した経験を持ち、レバノンの即興ミュージック界での第一人者としての地位を築く。
2006年7月に始まったイスラエル軍とヒズボラとの間の戦闘以降にブログに描いた絵日記で世界的に名前が知られるようになった。
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