2008年11月15日10時25分掲載  無料記事
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イスラエル/パレスチナ

失業、貧困の拡大、食料不足 イスラエル抑圧下のパレスチナの現状をNGOスタッフが報告

  イスラエルの抑圧のもとでパレスチナの人びとがどのような生活を送っているかについては、、日本ではほとんど報道されない。パレスチナで医療や子どもたちの栄養改善、難民支援などの活動を行っている国際協力NGO、日本国際ボランティアセンター(以下、JVC)の現場スタッフとして2007年からパレスチナで活動する福田直美さんが、今月一時帰国して報告会を開いた。そこで報告されたのは、イスラエルによって経済も人や物資の移動もきびしく制限され、食料の高騰、経済停滞による失業や貧困、妊婦の搬送さえイスラエル軍の銃剣でさえぎられる状況だった。以下、福田さんの報告を紹介する。(村上力) 
 
  11月10日、日本国際ボランティアセンター(JVC)(※1)のパレスチナ事業の現地調整員である福田直美さんの一時帰国に伴う報告会が都内の文京区民センターで催された。福田直美さんは、2007年からJVCパレスチナ事業現地調整員として現地に赴任し、難民キャンプなどでの栄養支援や刺繍製品の製造などによる収入創出事業などに携わっている。今回の報告では、08年5月にイスラエルとハマス(※2)の停戦合意がなされた後、日本の報道ではあまり触れられなくなったガザを中心にパレスチナの現状と、事業に携わる中でふれあった人々の声をお届けする。 
 
◆パレスチナで何が起こっているのか 
 
《ガザ》食料も不足し、子どもの栄養不足が心配 
 
  現在、パレスチナ(西岸−ガザを含む)の国民総所得はイスラエルの約18分の1の1,230ドルである。ガザ地区は、人口密度(1kmあたり)がイスラエルの約13倍の3945人と世界最高、失業率が35%、貧困率(※3)は79%に達する。ガザ地区では2005年にイスラエルが完全に撤退し、イスラエルは占領が終わったと主張しているが、ガザ地区の海を含むすべての境界はイスラエルのコントロール下におかれている。 
 
  ガザ地区は現在経済封鎖をされている。物資の移動ばかりでなく、人の移動も制限される。ガザ地区から外に出ることができるのは、ほんの一握りの特別な許可をとった一部商業関係者、医療を必要とする者、国際NGO関係者、留学生などである。 
 
  物資の移動の制限によりガザ地区の生産物はガザから外に売ることができず、産業は原材料を入れることができなくなったため経済活動の98%が稼動していない。それによって4万人の農業従事者、7万人の労働者などが失業した。さらに食糧不足に伴い食料価格が高騰、たとえば雛マメとよばれる栄養価の高いマメの価格は、06年は4シェケルだったものが現在12シェケルと三倍に跳ね上がった。07年度から今年7月まで、食料品の価格の平均で23%上がった。食料不足に陥った家庭の75%では食料を減らす、89%が食料の質を下げるなどしており、子どもの栄養状態の悪化が危惧される。 
 
  ガザ地区では現在、150万人が暮らしているが、そのうちの110万人、つまり7〜8割の人々が、外部からの支援に頼らざるを得ない生活をしているととも言われている。 
 
  さらに追い討ちをかけるのが、人の移動の制限である。福田さんの友人であるイブラヒム氏は「この間、妹夫妻に子供が生まれたが、子供の状態が良くなく、十分な手当てが受けられずに3日で亡くなってしまった。多くの人々が治療のためにガザから出ることができずに亡くなっている」と述べている。 
 
《西岸地区》伸びる分離壁、増えるユダヤ人入植者 
 
  イスラエルは現在、西岸地区で分離壁(※4)というものを建設中で、この分離壁は予定では停戦ラインの2倍の725kmとされている。完成すれば壁の86%が西岸地区に食い込み、西岸地区の9.5%の土地がさらに奪われると予測される。現段階では予定の57%が完成し、9%が建設中であるという。 
 
  さらに西岸地区では現在120ヵ所のユダヤ人入植地があり、45万人以上の入植者が存在する。そのほか、国際法的にも、イスラエルでも違法とされているアウトポストと呼ばれる入植地が102ヵ所あり、それはさらに拡大している。壁の建設が完了すれば、囲い込んだ土地に80ヵ所の入植地、38万人以上の入植者が入植すると推測されるという。 
 
  西岸地区のエルサレムのやや北に位置し、拡大する入植地に3方向から囲まれたある村に巡回診療で訪れたところ、村の住人のマフムード氏は「新しい建物は、隣接する入植地の入植者にすぐ壊されてしまいます。入植者に管理され、自由に動くことができない」と話していた。 
 
  西岸地区の西側、ビリン村の近くに位置するナイリンという村では、毎週末に隔離壁に反対するデモが行われており、それに対するイスラエル軍の攻撃により死者が出ているという。その村の住民のアミール氏は「この村の出入り口にも最近検問所ができて、村の外への出入りがとても厳しくなった。隔離壁の反対デモではお年寄りや子供を含む多くの人が犠牲になっている。最近ではイスラエルがフェンスの向こうから、“スカンク”と言われる異臭を放つガスを放ってきます。この村のオリーブ摘み(※5)では100以上の人が集まったけれども入れませんでした。祖先から伝わるこの畑を守ることも、抵抗運動のひとつなのです」と述べたという。 
 
日本国際ボランティアセンターが収入創出支援活動をしているエルサレムの南に位置するベツレヘムでは、隔離壁が建設される前は、労働者は主にイスラエルへ出稼ぎに出ていたが、壁の建設の後は失業者が急増、さらに稼ぎ頭の男手をイスラエルに拘束されることが多く、難民キャンプにおいては殆どの家庭で一人の家族が拘束された、又は拘束中であるという。 
 
  日本国際ボランティアセンターの収入創出支援に携わる女性の夫のカマル氏はNHKの取材に対し「難民として60年、ただ支援を受けるだけでなく、仕事をしてお金をえるということで、私たちは尊厳を獲得できていると思う。私たちには生きるために、尊厳こそ必要であると思う」と、収入創出支援活動に感謝を述べていた。 
 
《東エルサレム》荒廃する難民キャンプ 
 
  東エルサレムのシェアファット難民キャンプは、国連の登録では難民の数が1万人とされているが、イスラエル人に不当に家を奪われたアラブ人や、失業など経済的な理由によりエルサレム市内に住むことができなくなった難民ではない人々が出入りし、実際は2万2千人から3万人という言説もある。 
 
  この難民キャンプでは、エルサレム市内の属するため、パレスチナの警察は入って来れない。しかしイスラエルの警察は関与しないとしているため、治安の悪化、イスラエルから入る薬物の問題がある。そしてエルサレム市内にあるのにも関わらず、キャンプの周りがフェンスで覆われており、人の移動を妨害している。さらにゴミの回収車がちゃんと巡回しないため、ゴミが散乱し、衛生環境の悪化、心理的なストレスへの影響が懸念される。 
 
◆私たちに何ができるのだろう 
 
  イスラエルにおいてこの問題の解決に関心を持っているイスラエル人というのは、未だに一部の一般的に“左翼系”といわれる人間が多く、むしろイスラエル社会においてアラブ人はアラビア語を話すことを差別され、アイデンティティを抑圧されている。 
 
「この状況を変えるには、やはりイスラエルの政策をかえるしかない。ではイスラエルの政策をどう変えるのかということを考えると、それはやはり外からの動き、たとえ小さなものであっても大きなものとなる動きが大切だとおもう。だから、現地で支援するだけでなく、日本社会とパレスチナをつなげていきたい」 
 
 
※1:特定非営利活動法人 日本国際ボランティアセンター(JVC)1980年創立。現在10カ国で地域開発、人道支援などの活動をし、日本政府に対し政策提言などもしている。パレスチナでは1991年の湾岸戦争に端を発し活動をしている。http://www.ngo-jvc.net/index.html 
 
※2:ハマス いわゆる「イスラム原理主義団体」といわれ、04年のガザ地区の選挙では過半数の議席を獲得した。福田氏が聞いた話によると、政府が腐敗していた時期に社会福祉などに注力して人々を支えたのがハマスであった。といわれている。 
 
※3:貧困率とは「国家内の所得格差を表す指標の一つ」Wikipediaから。 
 
※4:分離壁とは、 イスラエル政府が「自爆テロ防止」と称して建設中のコンクリートと有刺鉄線などを張り巡らせた壁 
 
※5:オリーブ摘み 分離壁に対する抵抗運動として行われている。http://www.ngo-jvc.net/php/jvcphp_epdisp.php?ThreadName=p01&ArticleNo=318 


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