2008年12月04日09時36分掲載
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通信制中学校の存続を願って 「母校」創設60周年で記念スピーチ 中谷久子 77歳
11月30日(日) 千代田区立神田一橋中学校通信教育課程 創設60周年記念式典 が執り行われました。
中学に通信教育があるなんて、ほとんどの方は知りませんし、私も平成14年まで知らなかったのです。戦中戦後の混乱で、中学を出られなかった人達の為に、読み書き算数ぐらいは教えないと・・・と言う事で昭和23年に全国各地に創設されたもので、初めは数学と国語くらいだったそうです。生徒数の減少と共に、閉鎖が相次ぎ、今は大阪と東京の一校ずつとなっているのです。いつの頃からか一ツ橋では中学の全教科を学び、卒業証書もいただけて、高校、大学へと進学する人も多くなっております。
今回の記念式典で、同窓生代表としてスピーチをするようにと指名されました。私が昔話の語り手をやっているので、壇上でも喋れるだろうということで、担任の先生から指名されたのです。
お引き受けして、どうせなら、昔語りのように、原稿無しで喋ってみたいと思いました。体育館にお集まりの、先生方や、歴代の校長先生、教育委員会などのご来賓の皆様、この学校の普通の中学生の親御さん方、そして在校生、卒業生。居並ぶ方々の前で、原稿を見ないで喋ってみました。
その読まなかった原稿は3月に出る、学校の冊子に載るので、内容は先に発表できませんが、文章の通りに語ったわけではなく、まあこんな調子です。
・・・千代田区立の、このありがたぁーい学校は、60年もの間、私たちを拾い上げ続けてくださったのですねえー・・・・・平成14年に、この珍しーい学校を見つけて、七十代の中学生になれた私は最高に幸せでした・・・中略・・・昭和20年夏、私は女学校の2年生でした。もッちろん!授業なんかありません。 動員先の軍需工場の、しかも焼け跡で!炎天下に、灰の中から鉄や真鍮の部品を拾い集めていました。
ようやく戦争が終わっても、食糧難は長ぁーく続いたし、ものッ凄いインフレで、父の遺産はあっという間に消滅してしまいました。学校をやめ、学歴がないため、底辺で労働を続ける54年間が始まったのです。夜学に通う暇もありませんでした。・・・
こんな調子で、この学校を発見したその日のうちにお電話して、願書を出して、休まず通った月2回のスクーリングの楽しかったこと、毎年遠足に連れて行っていただけて、足利学校の聖堂の中に、孔子様と小野篁さんが並んで座っているのを妙に思って、色々調べ、小野篁が大好きになったこと、などなど思い出と、心からの感謝を語りました。
そうして何よりも言いたかったことは、この学校の存続です。マスコミに取り上げられることも少ないため、世間に知られておりません。私も偶然古雑誌の記事で見つけて、この学校今でも有るかしらと電話したような次第です。
もっと世間に知られたら、私たちのような戦中派の生き残りだけでなく、登校拒否で勉強できなかった人とか、外国から嫁に来た人とか、こういう学校を必要としている首都圏在住の人は沢山いるはずです。宣伝不足のまま、生徒の減少を理由に廃校になるようなことが有ってはならないと、痛切に思っています。
私にとって、唯一「母校」と言えるこの学校が、いつまでも存続していて欲しいと、そこは熱弁を振るいました。
私は今、家庭の事情で高校進学は出来ていませんが、二年前、70代後半になってから移り住んだ知らない町で、孤立する事も無く、昔語りのボランティアを楽しんでいられるのも、この中学でやれば出来る事を実感できたお蔭です。・・・こんな話を普通の言葉で、皆さんの表情を見ながら、お話できました。
式典の後、大勢の知らない方が話しかけてくださいました。中にビックリするほどお元気な先輩がいらっしゃったのです。
「もうすぐ90歳のお誕生日なの」とおっしゃって、今も二つの大学に聴講に通って、アジアの何やらをお勉強中なのだそうです。私もやりたいと思うことしきりでした。
正午からの昼食会にも参加して、久しぶりに会ったクラスメイトと、お喋りを楽しみました。ほとんどが七十代八十代で、あとは韓国や、台湾から嫁に来た方々です。一緒に学んだ仲間は、いつ会っても楽しく、又みんなで遊びに出かけましょうと相談しています。
千代田区立 神田一橋中学校 通信教育課程・・・この学校を必要とされる方々に、存在を知って欲しいと切に望んでいます。
入学条件はただ一つ、「中学をちゃんと卒業出来ていない人」それだけです。月2回ほど、日曜日のスクーリングに出席できるなら、他県にお住まいでも大丈夫です。
よろしくお願いいたします。
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