2009年01月07日00時42分掲載  無料記事
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二極化社会を問う

経団連御手洗会長、“切った”労働者からの公開質問状受け取りを拒否 「派遣村」村民ら新年賀詞会場を”訪問”

  財界の中核的な経済団体である日本経団連は1月6日、四ツ谷のホテルニューオータニにて他2団体と「新年賀詞交歓会」を開いた。同日午後、5日に閉幕した「年越し派遣村」村民と労働組合・ユニオン関係者らは、経団連会長・御手洗氏に対してキャノンなど大企業が率先して行っている“派遣切り”非正規労働者の職場からの排除に関する公開質問状を携えて申し入れを行った。しかし経団連側は受け取りを拒否、この問題で当事者と話し合う姿勢を最後まで見せなかった。(村上力記者) 
 
  これまで御手洗氏には、大分キャノンでの「派遣切り」に抗議するとともに、12月4日に労働組合・ユニオンが申し入れ書を提出している。しかしながらキャノンは「検討中」として未だ回答は無い。詳しくは下記URLを参照されたい 
http://www.rentai-union.com/head_line/2008.12.11/2008-12-11.html 
 
  今回の公開質問状は、JMIUいすゞ自動車支部、日産ディーゼルユニオン、首都圏青年ユニオン、全造船機械関東地協いすゞ自動車分会、全トヨタ労働組合、日野自動車ユニオン、JMIU静岡西部地域支部、日研総業ユニオン大分分会の連名。要点は主に3つ。要約すると: 
 
1.御手洗会長をはじめ日本を代表する企業経営者は、非正規社員のサポートに奔走してきた国、自治体、NPO、ボランティア、無数の市民に対して謝罪する気はあるのか。「派遣切り」や寮からの追い出しをやめる考えはあるのか。 
2.保障も無しに放り出された非正規社員の支援に乗り出す気はあるのか。日本経団連の会員企業は「派遣切り」で生じた解雇問題について団体交渉すら拒否しているものもある。労働組合と真摯に話し合う気はないのか。 
3.「労働者派遣法」の抜本改正についての議論を、労働組合・ユニオンと議論し直す考えはあるのか。 
 
《申し入れ行動レポート》 
 
  この申し入れ行動は、JR中央線四ツ谷駅に13時に集合した。集まった50人ほどはそのまま徒歩でホテルニューオータニへ移動した。報道陣とともに歩いていると、歩道でホテル従業員らしき数人の男が参加者の道を塞いだ。 
 
  ホテル従業員「あなた方は好ましくない」「手続きを踏んでください」と主張。5分ほど口論となるが、参加者は旗をたたみ、ホテルの中へ。そのまま続々とホテル内へ入り、受付まで到着した。ロビーは一気に騒然となった。ここで多数のホテルの従業員らともめることになる。公開質問状を手に御手洗会長に会わせるように要求する。 
 
  ホテル従業員が「宴会場にお招きします」といい、代表として全日本建設運輸連帯労働組合の小谷野毅書記長だけを連れて行こうとする。しかし、「みんなが代表だよ!」と参加者が抗議した。そして報道陣も含め全員がホテルの地下「折鶴の間」という40畳ほどの部屋に入れられた。ホテル従業員はここで参加者を報道陣と分断しようとしたが、それは失敗した。 
 
  その後、この部屋に経団連側との取次ぎ役のホテル従業員が来た。曰く、経団連の総務グループから「招待客だけの催しで、それ以外の方とはお会いできない」との趣旨を伝えてきた。公開質問状を渡してほしいと伝えるが、これには応じることができないとして受け取らなかった。ここでまた「お待ちください」と伝えられる。 
 
  10分後、この部屋に数人の男が入ってきた。麹町警察の刑事だ。しかし、40名近いの報道陣を前にして、何もせずに帰っていった。 
 
  14時半ごろ、経団連の総務の男性が訪れる。そして部屋の中央で交渉が始まった。公開質問状を受け取るように要求するが「私どもはこういう形で、アポイント無しで来られてもお受けできない」と言う。参加者は「これまで何も回答が無いから、こうして直接渡しに来ているんだ。あなた方は人を路頭に迷わせているじゃないか。国も自治体も市民も支援しているのに、あなた方は何もして無いじゃないか」と抗議した。 
 
  この総務の男性は派遣切りについて「総務課であるから答えられない」と言い、公開質問状については「受け取れません。アポイントをとってください」と繰り返すだけだった。 
 
  参加者が「アポイントをとったら、答えてくれるのか?」と聞くと「いや…」として答えられず。参加者から「社会的責任を果たせよ!」「なんて無責任なんだよ!」「酒なんて飲んでんじゃねえよ!」「パーティーなんかしてんじゃねえよ!」と野次を飛ばされていた。 
 
  「アポをとって申し入れても、『検討中』。それで一ヶ月回答が無い、この一ヶ月どれだけの人を切ったんだよ? 時間が無駄になっているんだよ」と組合員が話す。30分にも及ぶ問答の結果、この男は頑として公開質問状を受け取らなかった。 
 
  結局公開質問状は、ホテル側に渡すことになった。この公開質問状への回答は3日程度を目安としている。 
 
《企業憲章はどこへいった》 
 
  経団連には「企業行動憲章」というものがあり、経団連は十原則に基づき行動すると定めている。そのうちのいくつかを抜粋すると: 
 
三.株主はもとより、広く社会とのコミュニケーションを行い、企業情報を積極的かつ公正に開示する。 
四.従業員の多様性、人格、個性を尊重するとともに、安全で働きやすい環境を確保し、ゆとりと豊かさを実現する。 
―――略――― 
十.本憲章に反するような事態が発生したときには、経営のトップ自らが問題解決にあたる姿勢を内外に明らかにし、原因究明、再発防止に努める。また、社会への迅速かつ的確な情報の公開と説明責任を遂行し、権限と責任を明確にした上、自らを含めて厳正な処分を行う。 
 
  いわゆる「派遣切り」被害にあい、仕事も住居も失った人や、野宿者などの支援を行ってきた「年越し派遣村」は5日、日比谷公園から撤収した。この「派遣村」には、市民による多くのカンパ、ボランティアが集まり、国、自治体、政治家も対応に乗り出したのだった。しかしながら、当の「派遣切り」を率先して行ってきた大企業は、労働者を放り出した張本人でありながら何もしていない。 
 
  「派遣村」でも首切りの張本人である大企業などは全く動かず、新年早々無責任ぶりを露呈した。今回の公開質問状受け取り拒否でもそれは垣間見える。この憲章に従えば、日本経団連のトップがまず「厳正な処分」を受ける必要があるようだ。今後さらに多くの労働者の首切りが予想される。 


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