2009年01月30日00時06分掲載
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スウェーデンの森から
教科書はぼろぼろ、バス旅行は中止 教育は無料でも現実は M・オルソン
デンマークに近い小さな町の郊外の森に家族と住むM・オルソンさん。夫や子どもたちとの日々のくらしの折々を、お送りいただけることになりました。日本では福祉大国として知られるスウェーデンですが、やはり世界の現実と無縁ではないようです。第1回は教育にまつわる話題です。日本ではほとんど知られていない現実が、よくわかります。ご期待ください。(ベリタ編集部:大野和興)
小学校1年生の子供が、「今学期から使う」と、スウェーデン語副読本を持って帰ってきた。
『Mini och den magiska stenn(小さなミニくんと魔法の石)』。高校生と中学生の兄達からも 「懐かしいね。」と声が出たほど、昔から使われている教材だ。
ところが、その本、見るからにボロボロなのである。背表紙はガムテープでしっかりと固定され、 すでに何代かの子供たちへ渡ったのか、ページをめくる片隅は指の油で紙が褐色化し、ところどころ破れた箇所がセロハンテープで補正されている。わたしと子供も1ページ目を読み始める以前に、半分落ちかけているページを修繕するのが先だった。
スウェーデンの小・中学校9年間(5・4制)が義務教育課程では、教材は無料であるが、直接書き込むタイプの教材を除いては、基本的に「レンタル扱い」だ。学年度が終わる際に、教科書は回収され、翌年度の生徒達へ渡される。回収数に対し、受講生徒数が上まった不足分については新しい教科書が補足される。私たちは小学校では教科書へのマーキング、書込みは禁止、表紙にはカバーをつけるよう指導され、また中学校では、教科書の紛失、破損が生じた場合、弁償として購入させられるケースもある。
スウェーデンの教育システムは、私立などを除き、基本的に小学校から大学院まで無料である。運営資金はスウェーデン国の学校法に基づき、*政府と国会によって取決めた各種学校のカリキュラム目標により、国家予算によって、各自治体(コミューン)が組織する学校へ支払いがなされる*。
つまり各コミューンは、その目標に基づき、国税・**コミューン税金によって各学校の経営、組織運営をするのである。子供たちは、義務教育の間は、住民登録されているコミューン地域内の学校へ通う。(地域内の学校選択は可能)。
さて、手元にあるボロボロの「副読本」だが、これも税金によって、コミューンが、学校が購入したものである。この本も我が家を最後に役目を終え、真新しい教科書へとバトンタッチをしたいところだが、そうはいかない問題が最近浮上してきた。「買えない」。新しい教科書を買う予算がないのだ。だから、補修して、修繕して大切に取扱い、出来る限り長く使えるようにする。
上の子供が通う同コミューン内の***高校では、日本から届いた「漫画ブーム」もあり、今期から「モダン言語」として「日本語」が新たに選択科目へ加わった。その場合、学校は新しい教科書を用意した。(購入も可能)。しかし、既存教科の場合、来期受講生が回収率を超えた場合、新規教科書の購入は出来ず、必要に応じてコピー対応されるという。
私が住むコミューンはスウェーデン南部、スコーネ地方にある人口3万人ほどの小さな自治体だ。日本からの駐在家族や留学生が多く住むストックホルム(約70万人)、ヨーテボリ(約49万人)、ルンド(約10万人)などの大都市コミューンでは、こういった事例は今のところ考えられないと言う。しかしながら、ここでは教科書だけでなく、数年前から小・中学卒業前に恒例だったバス旅行・遠足は中止になり、徒歩や自転車で通える範囲内での課外授業のみになっている。
一部保護者からは「文化的行事の大切さ」を訴えるものや「最後の記念なのだから、保護者が出費し、卒業旅行の実現を。」という意見も出たが、「すでに我々は多くの税金を納めており、これはコミューンが解決し、アレンジする仕事」と、コミューンの運営活用の悪さを指摘する声が大多数であり、財源が厳しいことから、質が低下しつつある教育現場で授業を受けている子供たちサイドについては議論されていないように見受ける。
「学校組織の無料提供」と謳いながら、真っ先に財政の不安定さが「教育」という大事な子供たちの学校生活に影響が出てしまう実態。毎朝子供たちを送り出しながら、「この先どうなるのか?」と将来のスウェーデン教育が危惧されてならないのである。
*-*学校法 参照
**コミューン税率は各コミューンにて差異がある。
***高等学校は成績にもよるが、希望コースが存在する他コミューン地域への越境入学が認められている。この際、コミューンは同地域在住の生徒が他コミューン地域の学校を選択した場合、生徒一人当たりに対し、その地域コミューンに教育関係費を支払うシステムになっている。
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