2009年02月18日18時08分掲載  無料記事
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世界経済

反乱する世界 インドからグアドループまで ポール・ロジャーズ

openDemocracy  【openDemocracy特約】インドのディスカントストアー・チェーンのサブヒクシャは、店舗を2年間に10倍の1650以上に拡大し、同国の小売部門の最も目覚ましい成功のひとつであった。最近になって、大きな財務的困難に陥り、新たな銀行融資を募るのが困難になった。その結果、サブヒクシャの店舗と倉庫を警備する警備会社への支払いができなくなった。 
 
 2009年2月の第1週までに、グループ会社の多くが警備人員を引き揚げた。2月7日と8日の週末の間に、警備員がいない店舗の多くが略奪にあった。グループ会社が経営する全体の3分の1以上(約600)が影響を受けた。 
 
 サブヒクシャの経験は、大きな経済成長を遂げてきた国においてでも、金融危機の影響を如実に示している例である。さらに、それは特別のケースではない。インドの他の多くの小売業が苦境に直面している。また外国の小売業(英国のアルゴスを含む)は、同国での営業を休止しなければならないか、休止を計画中である。インド経済の2009年の予想成長率は、(他でも繰り返されることが確実なように)社会的要求を満たすよりはずっと低いので、同国の社会・商業秩序への圧力はさらに激しくなりそうだ。 
 
身を切るような風 
 
 サブヒクシャの問題が明らかになったのは、公式な世界経済の見通しが月ごとにますます悲観的になっている時である。例えば、2008年10月、国際通貨基金(IMF)は2009年の成長率を3.0%と予測した。そのほとんどは世界の南の新興諸国に集中するとみられていた。11月には、その数字は2.2%に下方修正され、2009年1月にはさらに0.5%に下がった。世界の毎年の人口増加は1.0%以上であるという事実からすると、この最新の数字は1人当たりの経済成長は下落するということを意味する。 
 
 世界の北にある先進の工業諸国、特に1世代を支配した新自由主義モデルで再形成された米国と英国のような国々はいま、来年は経済活動が少なくとも2%縮小する深刻な不況に直面している。同時にこうした国々は、世界の大部分では得られない適度な社会セイフティネットを持っている。多くの非西側諸国が依存するようになった市場が貿易の縮小によって凍結されている間は、福祉の保護がない貧困を増やし、この対比をさらにはっきりしたものにしそうだ。 
 
 例えば、発展途上国の多くは、輸出の稼ぎの大部分をコーヒー、茶、砂糖、食物繊維、銅、スズなど一次商品に依存したままである。2007年から2008年の商品相場のブームが去ったことで、こうした脆弱な経済への圧力が増している。 
 
 景気後退は世界の南により重大な影響を与える。これは中国やインドなど大きな国にも同じように当てはまる。両国でさえも景気後退の影響は、多くの人々にとって耐えがたいものである。中国での低成長の予測は、近年の10%近い成長と比べると、増加する社会の必要と需要を満たすことができないことを意味する。そのため、厳しい結果が予想される。 
 
 多くの新興諸国では、現在の不況が襲い始める以前にも社会騒乱が起きていた。それはひとつには、識字能力があり、目覚めた国民の間で、社会と富の胸が痛むような格差について気付いていた結果である。当局は次のように反応した。(中国では)武装警察部隊という新しい勢力が公共秩序を管理するようになった。(インドでは)地方の州で武装闘争を行っている新マオイストのナクサライトが同国の安全の最大の脅威であると認識した。 
 
 規模は小さいが、似たことは他でも起きている。2009年1月から2月にかけて、フランスの海外県、グアドループ(訳注:カリブ海の西インド諸島)は、経済的疎外化に抗議した労働組合と市民グループによるゼネストで揺すぶられた。騒乱は隣のマルティニーク島にも広がり、2つの他のフランス海外県(フランス領ギアナとインド洋の島、レユニオン)では、同じような行動が脅かした。サブヒクシャの出来事と同じように、マルティニークのデモ隊はスーパーマーケットを襲い、閉鎖を余儀なくさせた。 
 
 深刻化する不況の影響は激しいものになっている。中国で懸念の最大の原因は、移住労働者の要員(訳注:農民工)である。彼らは、地方から繁栄する都市と経済区に移ってきた膨大な数の労働者である。彼らは中国が主要な工業国の地位に躍進するのに重要な役割を果たした。 
 
 この現象の規模は巨大で(恐らく、1億5000万人が直接かかわっている)、中国の内陸開発に重要な役割をした。なぜなら、こうした労働者は家族を支え、農村経済を持続させた金を送ったからである。こうした送金は、中国の農村を発展させる重要な手段であり、好況期に都市の新しい中間階級を超えてた富の分配をささやかに保証するものである。 
 
 政府は、農民工の数の減少の経済的影響を認めたがらない。最近の政府の推計では、農民工の15人のうちの1人は仕事を失った。政府高官は。現在の危機で2000万人の農民工が職を失ったと認めた。 
 
新しいコンパス 
 
 インドや中国などその他のところでの社会的不満は、世界的不況の初期段階で起きている点で、一層重要である。広がった怒りの主要な標的は、失政、汚職、不公正である。不満を抱く集団は、それを国内当局の責任であるとしている。これまでのところ、こうした過激な抗議は、北という少数世界での金融上の不品行へほとんど注意を払っていない。その不品行は、不安定な銀行システムを救うために膨大な債務の約束をもたらしている。 
 
 その額は、国連のミレニアム開発目標を満たすために必要とされているよりずっと大きい。だが、ある緊急事態での緊急救済と、別の緊急事態での怠慢と遅れの関連性は十分なされていない。これは、恐らく、国境を超えた過激な社会運動の出現で変わるであろう。 
 
 こう述べることの証拠は、1994年の元旦にメキシコで起きたことの関連である。南部の(主に先住民の)チアパス州で起きたサパティスタの蜂起である。反乱筋は蜂起の根にあるものを次のように述べた。 
 
 「われわれは何もない。まったく何もない。まともな住まいも、土地も、仕事も、健康も、食料も、教育も。自由に、民主的にわれわれの代表を選ぶ権利もない。われわれと子供たちのための平和も正義もない。だが、今日われわれは、“もうたくさんだ!”と言う」 
 
 サパティスタが彼らの運動と蜂起を、地元や地域の蜂起としてだけでなく、世界的な関係で見ていたと、当時は少しは気付かれていた。事実、彼らの蜂起は、北米自由貿易協定(NAFTA)の施行と時期が一致していた。NAFTAは彼らの苦しい立場をさらに悪化させると彼らは確信していた。 
 
 異議の国際化とでも言えることへの願望はまだ十分に認識されていない。しかし、社会運動、環境運動、労働者の運動での現象の片鱗を見る以上のものがある。それは、グローバリゼーションのひとつの結果は、疎外化と排斥という国境を越えた本質について、より幅広く理解するようになったという事実を反映している。 
 
 2010年代初めに、大規模な貧困によって引き起こされた国境を越えた反エリート運動が台頭する可能性は大きい。それは怒りに煽られたもので、排他的でなく公正な世界を渇望している。やがて、それは1950年代や1960年代の反植民地運動と同じか、それよりも影響力があるものになるかもしれない。インドでのスーパーマーケットへの襲撃は前兆である。 
 
 
*ポール・ロジャーズ 英国ブラッドフォード大学平和学教授 オックスフォード・リサーチ・グループ(ORG)のコンサルタント ORGは1982年に設立されたシンクタンク。独立した非政府組織で、安全保障の問題で肯定的変化をもたらすことを追求している。 
 
本稿は独立オンライン雑誌www.opendemocracy.netにクリエイティブ・コモンのライセンスのもとで発表された。 . 
 
原文 
 
 
(翻訳 鳥居英晴) 


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