2009年03月16日10時00分掲載  無料記事
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戦争を知らない世代へ

近代日本の歴史が危ない 海上自衛隊護衛艦のソマリア派遣に戦争体験者の不安

  「近代日本の歴史が危ない」。海上自衛隊の護衛艦2隻がソマリア沖の海賊対策に出航する光景に、私はそんな想いに駆られる。これがなし崩しの出兵容認につながらないことを望む。敗戦の1945年が既に遠い過去になり、日本人の多くは自国の戦争を単なる歴史上の事実と受け止め、身近なことと感じていない。私が明治の歴史を見る様な感覚であろうか。(中谷孝) 
 
 「過去などどうでも良い、現代、未来こそ重要」と云う様な風潮もあり、三百数十万人を非業の死に追いやり、アジアの二千数百万人を殺戮し、日本の大都市を廃墟と化した歴史に冷淡である。その為、あの大きな犠牲の上に築かれた平和と繁栄、それを支えてきた平和憲法に意外に無関心な日本人が多い。歴史に対する無関心は日本軍の被害を受けたアジア諸国に対しても心無い行為を生む。戦場となったアジアの国々で日本軍の犯した罪は今でも語り継がれているが、加害国日本ではそれが語られることは殆ど無い。 
 
 先般航空自衛隊幕僚長が歴史の事実に反して、日本軍のアジア侵略を擁護する論文を発表して問題を起こしたが、戦史に詳しい立場の自衛隊幹部にして此の程度の認識であることに驚き恐ろしくなった。思えば彼は六十歳であり、日本が高度成長期に浮かれていた時代に育ったことの影響であろうか、思い上がりの日本人と云われる存在の一人である。 
 
 今日本の教育者に望むのは正しい歴史教育の充実である。現在学校教育で歴史は受験にない課目として軽視され、その内容も中世重視に傾き、最も重要であるべき明治以降の近代日本史が軽視され、或いは無視されている。教師自身、近代について認識が甘い。その点、中国を始めアジア諸国との違いが大きい。現代、若い人の平均的歴史認識では、日本は米国の原爆によって戦争に負けたと云う程度に過ぎない。 
 
 今重要なのは、日清戦争に始まり、敗戦に至る五十二年間、十回に及ぶ日本の海外派兵の検証である。戦後日本は新憲法に護られ六十余年戦争することなく、一名の戦死者も出していない。これは歴史上例を見ない名誉である。人類平和の鑑(かがみ)である。近年この栄誉を捨て種々の名目により自衛隊の海外派遣が行われているが、幸いにして戦闘による死傷事故は発生していない。だが今又、ソマリア沖への海上自衛隊の派遣が決定した。 
 
 今後日本はアメリカのアジアにおける橋頭堡となり、自衛隊がその尖兵になることだけは絶対にあってはならない。嘗て戦場に赴き、殺戮を繰り返した私達世代の平和日本に残す遺言である。 
 
*中谷孝氏は元日本陸軍特務機関員。 


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