2009年03月31日11時09分掲載  無料記事
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ロシアン・カクテル

(5)鳥の国ロシアの“卵”の話 ピーサンカの象徴的な模様 タチヤーナ・スニトコ

  ロシアの子供たちは幼い頃沢山の昔話を聴いて育ちます。子守歌として聴く場合が多いのです。最初の頃に聴く昔話は“生活の神秘についての昔話“です。 
 
 “クーラチカ・リャーバ(金の卵)”についての昔話を紹介しましょう。 
 
 「昔々あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。二人は斑点のある雌鶏を飼っていました。ある日、その雌鶏は卵を産みました。それは普通の卵ではなくて金の卵でした。 
 おじいさんはその金の卵をテーブルの上で割ろうとしましたが割れませんでした。今度はおばあさんが割ろうとしてみましたがやはり割れませんでした。その卵の側を、たまたま小ねずみがしっぽを振りながら走って通りかかりました。子ねずみのしっぽが卵に触れて、卵はテーブルから落ちて割れてしまいました。 
 おじいさんとおばあさんは泣きました。そこへ雌鶏が来て、ガアガアと鳴きながら言いました。“おじいさん、おばあさん、泣かないで下さい! 私はもうひとつ卵を産んで上げます。今度は金の卵ではなくて、普通の卵を産みましょう!”と・・・。」 
 
 魅力ある卵というものは割られません。なぜならば、それは不思議の卵だからです。しかし、落ちればやはり割れてしまいます。卵というものはもともと割れやすいものだからです。おじいさんとおばあさんは卵が割れたことを喜びませんでした。それどいころか、泣いていました。雌鶏はもうひとつの卵を産みましょうと約束をしました。その約束は金の卵ではなくて普通の卵でした。普通の卵は金の卵より魅力があるからでしょう。 
 
 その昔、スラヴ人たちは卵が鳥になることを不思議に思い驚きました。スラヴ人の女たちは普通の卵を“ピーサンカ”という“魔法の卵”に変えました。ピーサンカは“天地”と“命の記号”が書かれてある生卵です。その記号は蠟で書かかれ装飾された模様でした。蠟は天地の女王蜂の王神の乳だと信じられていました。 
 
*映像と装飾の情報は:http://subscribe.ru/archive/rest.hobby.prettythings/200703/23140229.html 
 
 ピーサンカの模様というのは象徴的な模様です。三つの基本的な象徴が天地の垂直の構成をなしています:丸、四角(菱型)、中央線 (十字、木、8字の形をした天地の軸)=「映像1」 
 
 それぞれのピーサンカにはいろいろな名前が付けられていました。それは魔よけのための名前でした。悪魔を“驚かす”とか“だます”という名前もありました。刺のある植物は一番強い力があると信じられていました。それで“ばら”という名前は一番多い名前でした。 
 “かぎ十字”の装飾は二つの部分が反対方向に回転する印象があります。それで、自然と「陰と陽」との連想が浮かんできます。 
 
 毎年春が来ると、スラヴ人たちは真夜中に七つの泉から汲んできた清水・いろいろな形の花弁・木の樹皮・根っこ・葉っぱ・蠟・清らかなろうそくの火などで世の中を浄化し新しくするのでした。卵の魅力の力というものは近い関係のものにのり移るという考えがあったのです。 
 
 ピーサンカは揺り籠から墓場まで何かにつけ人々の生活に係わりがありました。赤ちゃんの誕生前に揺り籠に入れられたピーサンカはその揺り籠を清めると信じられていた。耕地を耕作する前には、肥沃を意味する装飾のある卵を土に置くのでした。 
 
 春の間中、いろいろな卵遊びがありました。木製の樋を使ったり、低い丘から転がすゆで卵の遊びは一番人気がありました。転がり落ちた卵が下にある卵に当たるとその当たった卵は転がした人の卵になるのでした。昔の自然の中のボウリングでした! また別のゆで卵を使った遊びがありました。卵を相手の卵に当てて闘う遊びでした。卵に割れ目が出来るとその人が負けになるのでした。中には、上手になって籠いっぱいのゆで卵をもらう人もいました。 
 
 国中がキリスト教に改宗した後には、“ピーサンカ”は“イースターの卵”に変身しました。種のように生活を守り伝えることができると復活の象徴になりました。イースターの前の“清い木曜日”には、卵を玉ねぎの皮や白樺の葉っぱでボイルしたり、すみれの花やブドウの汁やビートの根汁やつるこけももやクロイチゴや絹の糸や裁ち屑で色づけをするのでした。 
 例えば、白ぶちの模様を作るためには、卵を水に溶かした後、米にまぶしガーゼで巻いて玉ねぎの皮を入れたお湯で煮るのです。いろいろな色や模様つけた卵を教会に持って行き“聖水“をかけてもらうのです。 
 
 昔は白鳥・ガチョウ・アヒル・鶏・鳩や直径が1,5センチのこまどりの卵までも色づけをしました。金メッキして様々な色の模様を描きました。そのようにして、ツァー(皇帝)や重臣たちの家族のための卵のプレゼントが作られました。 
 
 1885年には、ツァーはアレクサンドル3世カール・ファベルジェに妻のマリヤ・フョドロヴナためのプレゼントを注文しました。そのプレゼントはエナメルの金の卵でした。卵の中はルビーの目の小さな雌鶏でした。そして更に、その雌鶏の中には小さなルビー王冠がありました。皇后はそのプレゼントに有頂天になりました! 
 
ロマノフ皇帝の家族の依頼によりカール・ファベルジェはいろいろな高価な卵を作りました。その卵はツァーの家族の人たちのお互いのプレゼントとなりました。卵は金と宝石でできていました。卵の中には小さなぜんまいがありました。ぜんまい仕掛けできれいなメロディーを奏でました。小さな精巧な時計・鳴いている鳥・花いっぱいの籠・円形の浮彫・微細な幌馬車・宮殿などが次々に作られました。 
 現代の手芸アーティストたちの間にも「卵」というテーマはとても人気があります。 
 
 ところで、クーラチカ・リャーバ(金の卵)という昔話は何を物語っているのでしょうか。大昔の神話の「卵から生まれた世の中」なのかも知れないと考えています。・・・・ 
(つづく) 


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